リリース

中性子星の合体で合成されたレアアースを初めて特定

宇宙における金やプラチナ、レアアースなどの起源は天文学・宇宙物理学の長年の未解決問題です。起源天体としては中性子星の合体現象が有力視されていましたが、そのような現象で実際にどのような元素が合成されたかは明らかになっていませんでした。東北大学大学院理学研究科の土本菜々恵 大学院生(日本学術振興会特別研究員)らの研究グループは、中性子星合体からの光のスペクトルを解読するため、全ての重元素の性質を網羅するように調べ、国立天文台のスーパーコンピュータ「アテルイⅡ」を用いて詳細な数値シミュレーションを行った結果、ランタンとセリウムという一部のレアアースが、中性子星の合体で実際に観測された赤外線スペクトルの特徴を説明できることを明らかにしました。これは個々のレアアースが中性子星の合体で作られた初めての直接的な証拠であり、宇宙における元素の起源の理解を大きく進めるものです。本研究成果は、Domoto et al. "Lanthanide Features in Near-infrared Spectra of Kilonovae" として、2022年10月26日付で天体物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル』電子版に掲載されました。

スーパーコンピュータが見つけた天の川銀河の変動史を知る鍵

国立天文台 JASMINE プロジェクトの馬場淳一 特任助教らの国際研究チームは、国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイⅡ」を用いたシミュレーションによって、私たちが住む天の川銀河の中心付近に存在する棒状構造の形成が引き起こした変動の歴史について、新しいシナリオを打ち出しました。棒状構造が形成後まもなく、ガスが銀河の中心領域に流れ込み、そこで爆発的な星形成が起こり、新たに「中心核バルジ」が形成される一方、棒状構造ではガスが枯渇し星形成が急停止するということが明らかになりました。このような棒状構造の形成に伴う星形成活動の領域による違いの影響は、星の年齢構成の違いとして情報が刻まれるため、位置天文観測機「Gaia(ガイア)」や 2028 年打ち上げ予定の赤外線位置天文観測衛星「JASMINE(ジャスミン)」の観測データによって棒状構造の形成時期の解明に向けた研究に役立てられます。本研究成果は、Junichi Baba et al. “Age distribution of stars in boxy/peanut/X-shaped bulges formed without bar buckling” として、2022 年 3 月に英国の『王立天文学会誌』に掲載されました。( 2022 年 9 月 9 日プレスリリース)

AIとスーパーコンピュータで広大な銀河地図を解読―宇宙の成り立ちを決める物理量を精密に測定―

アリゾナ大学天文学科 小林洋祐 博士研究員(2021年まで東京⼤学国際⾼等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(以下カブリIPMU)大学院生及び特任研究員)、京都⼤学基礎物理学研究所 ⻄道啓博 特定准教授(兼:カブリIPMU客員科学研究員)、カブリIPMU ⾼⽥昌広 教授、名古屋大学素粒子宇宙起源研究所 宮武広直 准教授からなる共同研究チームは、現在世界最大の銀河サーベイであるスローン・デジタル・スカイ・サーベイ(SDSS)から得られた銀河の3次元分布(地球から見た奥行き方向および2次元角度方向)のデータと、宇宙の大規模構造の理論模型を比較し、「宇宙論パラメータ」と呼ばれる、宇宙の性質を決める基本的な物理量を測定しました。これを行うために、国立天文台のスーパーコンピュータ「アテルイⅡ」を用いて様々な宇宙論パラメータを仮定して宇宙の構造形成シミュレーションを実行し、その大規模データを人工知能(AI)技術のひとつであるニューラルネットワークに学習させることで、任意の宇宙論パラメータに対する理論計算を高速かつ高精度に実行できるソフトウェアを開発しました。つまり、今回の解析は銀河地図の観測とあらゆる宇宙論モデルのシミュレーションとの比較と同等になります。直接数値シミュレーションを用いてこの操作を行うには、現実的な時間では完了できないほど膨大な計算量が必要です。ニューラルネットワークに基づくモデルを用いることで、世界で初めてこのような解析が可能となりました。その結果、ダークマターの総量、および現在の宇宙の凸凹の度合いを表す宇宙論パラメータを、先行研究を上回る精度で測定することに成功しました。今回の手法は、カブリIPMUのリードで現在開発が進んでいるすばる望遠鏡超広視野多天体分光装置Prime Focus Spectrograph (PFS) による広天域銀河サーベイのデータにも適用することができます。本研究成果は、2022年4⽉20⽇に⽶国の物理学専⾨誌「Physical Review D」にオンライン掲載されました。

新しい高精度シミュレーションが明らかにした星団形成の現場

東京大学大学院理学系研究科の藤井通子准教授らは、独自に開発したシミュレーション手法を用い、これまでより星の運動を正確に解いた星団形成シミュレーションを行いました。その結果、星同士の重力相互作用によって大質量星が星団の中心から外縁部へと弾き出される時に、星団中心部分に集まる密度の高い分子雲の一方に穴を開け、星団の中心から一方向に広がる電離領域が作られました。また、ガイア衛星の観測データとの比較により、オリオン大星雲の大質量星の運動が、シミュレーションから予測されるものと一致していることを示しました。
 本研究は「SIRIUS」プロジェクトの一環として、国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイII」を用いて行われました。今後は、この新規開発コードを用いたより大規模なシミュレーションを行い、未だ形成過程の解明されていない大質量星団の形成過程を明らかにしていくことが期待されます。
 この研究成果は、M. Fujii et al. “SIRIUS Project. V. Formation of off-center ionized bubbles associated with Orion Nebula Cluster”として、英国の『王立天文学会誌』に2022年6月8日付で掲載されました。(2022年6月8日プレスリリース)

惑星のゆりかごに降り積もる灰―天空の「降灰」現象の発見―

鹿児島大学の塚本裕介 助教らの研究チームは,惑星の種となる固体微粒子の「ダスト」(数ミリメートル程度に成長した塵)が惑星のゆりかごである「原始惑星系円盤」に降り積もる現象を,国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイⅡ」を用いたシミュレーションによって発見しました.研究グループは,この現象を火山噴火における降灰との類似性から,「天空の降灰現象」と名付けました.地球上の火山噴火による降灰は,人々の生活に大きな影響を与えますが,今回発見した天空の「降灰」は,円盤の外側領域で惑星の種を成長させるメカニズムとなる可能性があります.また,今回の発見は,形成期にある原始星周囲でのダストの成長と運動を最新のスーパーコンピュータによる3次元シミュレーションによって世界で初めて解明し,それが惑星形成に重要な役割を果たすという,星と惑星形成についてのまったく新しい理論的理解への道を開くという点でも重要です.この研究成果は,Yusuke Tsukamoto et al. ““Ashfall” induced by molecular outflow in protostar evolution” として,米国の天文学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ」に 2021 年 10 月 15 日付けで掲載されました.( 2021 年 12 月 14 日プレスリリース)

原始惑星系円盤のリング構造が惑星形成の歴史を残している可能性を示唆

茨城大学,工学院大学,東北大学らの研究グループは,国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイⅡ」を用いた数値流体シミュレーションにより,原始惑星系円盤にて観測されるリング構造が惑星形成の歴史を示している可能性を明らかにしました.惑星は生まれたての若い星の周囲にある「原始惑星系円盤」で作られます.近年,チリの大型電波干渉計「アルマ望遠鏡」によってその詳細な構造が明らかになってきており,原始惑星系円盤にはリング状の構造がたくさん存在することなどが分かっています.このリング構造を作り出す要因のひとつに,円盤内で形成される惑星の存在が考えられています.これまで惑星によって作られたリング構造には,常に惑星が付随するものと考えられてきました.しかし今回の計算から,惑星が生まれたときに形成されたリング構造はその場所に残る一方,惑星は中心の星に向かって,リングを「置き去り」にして移動する場合があるということが分かりました.移動した惑星はその先で新たなリングを作ることから,原始惑星系円盤内で動いた惑星の「始点」と「終点」に2つのリングが作られることになります.この計算結果は,観測されているリング構造が惑星形成の歴史をそのまま残している可能性を示唆しています.今後,次世代の望遠鏡であるTMTやngVLAによって,内側に移動した惑星を直接見つけることが出来れば,この説が裏付けられると期待されます.この成果は,2021 年 11 月 12 日付で,米国の天文学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に掲載されました.

世界最大規模の“模擬宇宙”を公開―宇宙の大規模構造と銀河形成の解明に向けて―

千葉大学 石山智明 准教授を中心とする国際研究グループは、国立天文台のスーパーコンピュータ「アテルイII」の全 CPU コアを用いて、世界最大規模のダークマター構造形成シミュレーションに成功し、100 テラバイト以上のシミュレーションデータをインターネットクラウド上に公開しました。現在、国立天文台のすばる望遠鏡などを用いた大規模天体サーベイ観測が進められていますが、観測から多くの情報を引き出し検証するには、銀河や活動銀河核の巨大な模擬カタログが必要です。本データはそのための基礎データとして位置づけられ、宇宙の大規模構造と銀河形成の解明に向けた研究に役立てられます。本研究の成果は、2021 年 9 月に英国の『王立天文学会誌』に掲載されました。( 2021 年 9 月 10 日プレスリリース)

埋もれた暗黒物質の地図を掘り起こす ―観測・シミュレーション・人工知能のタッグで描くクリアな宇宙―

【概要】

これまでの天文観測により、我々の宇宙を占める物質の80パーセント程度は光を発することのない物質であることが示唆されています。この物質は暗黒物質と呼ばれ、その正体はいまだ謎に包まれています。暗黒物質の正体を解明するには、暗黒物質が宇宙のどこにどれくらいあるかを調べる必要があります。暗黒物質の地図を作成するために、遠方銀河の重力レンズ効果を利用する手法が近年注目されています。今回、統計数理研究所で研究をすすめる白崎正人 国立天文台助教らの研究チームは、実際の銀河データから暗黒物質地図を作成する際に生じるノイズを軽減するため、最先端の深層学習技術を応用し、これまでノイズに埋もれていた暗黒物質地図を描くことに成功しました。この深層学習に必要な大量の学習データを、国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイⅡ」を用いた大規模なシミュレーションによって構築しました。研究チームの提案する手法は、既存の手法では調べることの難しい暗黒物質密度が小さい領域を明らかにでき、平均密度や粒子質量など暗黒物質の基本情報を厳しく制限することに役立てられます。

直角に折れ曲がるジェットが描き出す銀河団の磁場構造

【概要】

国立天文台,ノースウェスト大学(南アフリカ),東京大学宇宙線研究所,オランダ宇宙研究所,鹿児島大学,名古屋大学,九州大学,南アフリカ電波天文台,SKA機構などからなる国際研究チームは,はと座の方向6.4億光年の距離にある銀河団Abell 3376を,南アフリカ電波天文台が運用する電波干渉計「ミーアキャット」を使って観測しました.この銀河団は,大小ふたつの銀河団が合体している現場で,この観測から銀河団の中心に位置する銀河から噴射されるジェットが,小さい銀河団の境界面で二手に折れ曲り,細くたなびくようすが初めて捉えられました.
この構造を作るメカニズムを解明するため,国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイII」を用いたシミュレーションを実施しました.その結果,銀河団を包み込む磁場にジェットがぶつかることで二手に折れ曲り,折れ曲がった先から磁場に沿って細く伸びる構造を再現することに成功しました.
本研究によって,銀河から吹き出すジェットと銀河団磁場の相互作用の現場が初めて捉えられました.ジェットの構造を詳細に調べることで,直接観測することが難しい磁場の構造を明らかにするという新しい手法が得られたことになります.

多波長同時観測でさぐるM87巨大ブラックホールの活動性と周辺構造―地上・宇宙の望遠鏡が一致団結―

【概要】

2017 年 4 月、イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)と地球上の各地の望遠鏡、さらに宇宙空間にある電波望遠鏡、可視光線・紫外線望遠鏡、X線望遠鏡、ガンマ線望遠鏡が、一斉に楕円銀河 M87 の中心にある巨大ブラックホールを観測しました。これら多波長域の観測データを組み合わせた結果、巨大ブラックホールから噴き出すジェットの詳細な姿が描き出され、この時期のブラックホールの活動は非常に「おとなしい」状態にあったことが明らかになりました。
さらに今回の観測結果と、理論・シミュレーション研究で得た結果との比較から、EHTで観測されたブラックホール近傍のリング状の電波放射領域とは異なる場所からガンマ線が放射されていると考えると、観測結果をうまく説明できることが分かりました。これは、巨大ブラックホールから噴き出すジェットが複雑な構造を持っていることを示す結果であり、ジェットの形成や多彩な電磁波放射メカニズムの解明の手掛かりとなる重要な成果です。