本研究班では,2項目からなる重点課題(1ページ参照)を実現するために,とる班によって採集された世界各地のさまざまな時代の堆積岩や火成岩,変成岩試料から地球表層環境の変動史を解読する.
地球環境の変遷には,潮汐,年変化のような極めて規則的な周期変動,ENSO,地震活動,火山活動,氷期-間氷期サイクル,ウイルソンサイクルのようにサイクリックではあるが不規則な周期を持つ変動,生物大量絶滅や小惑星衝突のように現象予測が困難な変動,地球の熱的進化にともなう地球システムの形態や組成の変遷のような永年変化があるが,ここでは次の2つの課題に焦点をしぼる.
とる班によって採集された,BIF,ストロマトライトや縞状チャートなどの試料に認められる縞模様をさまざまな分析機器を用いて分析し,その周期性と原因を解明する.縞模様の意味を解読することにより,地質時代に遡って日変化,年変化といった日常的な環境の繰り返しを解読する.また,堆積岩や火成岩の化学組成から,大気,海洋,地殻やマントルの化学組成の時間的変遷を明らかにする.堆積物中に含まれるIrのような微量金属元素の濃度を測定することにより,地球外物質の地球への集積率の時間変動を解明する.
A/P境界付近で地球磁場強度が急増したイベントE3(27億年前)の原因としては,地球中心核の構造および運動様式の変化を,また,超大陸の出現とウイルソンサイクルの開始で特徴づけられるイベントE4(19億年前)の原因としてはマントル対流の運動様式の形態変化を,それぞれ作業仮説として採用する(p.24参照).これらは,地球システムの体制を変えるようなステップ関数的な変化であったとわれわれは考えている.E3では,核の安定成層が崩壊することによってダイナモ作用が活性化され,地球磁場強度が大きくなり,それと同時に潮汐摩擦によって地球回転速度が減少したと期待される.また,E4では,上部マントルにたまった沈み込んだプレートの崩壊(コールドプルーム)によって,マントル対流が全層対流へと変化した結果,超大陸の形成が可能となった.これらの説の妥当性を採集した試料の堆積リズムや岩石の化学組成をもとに検証する.
西南日本に分布する遠洋性堆積物(チャート*)中のP/T境界層から産出する有機炭素量,炭素同位体組成,鉄鉱物の種類や鉱物組み合わせから,P/T境界で起こった超酸素欠乏事件の実態をあきらかにする.
研究代表者 川上紳一 岐阜大学教育学部 助教授 固体地球物理学 (堆積リズムの解析) 研究分担者 大野照文 京都大学理学部 助教授 古生物学 (生物成長縞の解析) 海保邦夫 東北大学理学部 助手 古生物学 (大量絶滅の実態解明) 小泉 格 北海道大学理学部 教授 微化石層位学 (堆積リズムの解析) 多田隆治 東京大学理学部 助教授 堆積学 (堆積リズムの解析) 増田富士雄 大阪大学教養部 助教授 堆積学 (堆積リズムの解析) 濱野洋三 東京大学理学部 教授 地球電磁気学 (地球磁場の変動解析) 藤巻宏和 東北大学理学部 助教授 同位体地質学 (元素分析) 小沢一仁 東京大学理学部 助教授 マントル岩石学 (元素分析) 広井美邦 千葉大学理学部 教授 変成岩岩石学 (元素分析) (10名)