リリース

星のゆりかごに広がる放射状ガス構造の起源を解明―⼤質量星や星団が⽣まれる環境を読み解く鍵に

九州⼤学と名古屋大学の研究グループは、3 次元磁気流体数値シミュレーションを⽤いて、星間衝撃波と砂時計型の磁場構造を持つ分⼦雲との相互作⽤を調べました。その結果、曲がった磁⼒線に沿って⽣じる斜めの衝撃波によって特徴的なガスの流れが発⽣し、中⼼へ向かって放射状に整列した複数のフィラメント状ガス構造が発達することを⽰しました。さらに、形成されたフィラメントの幅や⻑さ、ガスの流れる向きが、実際に観測されるハブ・フィラメント系分⼦雲の特徴とよく⼀致することを明らかにしました。本研究のシミュレーションには、国⽴天⽂台が運⽤する天⽂学専⽤スーパーコンピュータ「アテルイⅢ」 が利⽤されました。今回の成果は、⼤質量星や星団がどのように材料となるガスを集めて成⻑するのかについて、新しい理解の仕⽅を⽰すものです。
本研究成果は、⽶国の天⽂学誌 The Astrophysical Journal Letters に 2026年3⽉18⽇(⽇本時間)に掲載されました。(2026年4月22日 プレスリリース)

木星と土星の衛星系の違いを決めるのは磁場

京都大学の藤井悠里助教らの研究グループは、惑星の表面磁場強度の違いに着目し、木星と土星の周りの巨大衛星に関する謎を解くシナリオを提唱しました。形成直後のガス惑星の内部構造をシミュレーションし、惑星表面における磁場強度を計算しました。そして、惑星の周りのガスの流れを詳細に解析し、円盤状に回転するガスの中での衛星の形成とその軌道進化を国立天文台の「計算サーバ」を用いた数値シミュレーションによって研究しました。表面磁場強度が強い木星では、磁気圏降着という、木星の磁場に沿ったガスの流れが生じる一方、土星は磁場が弱いため磁気圏降着が起きません。この違いが、惑星近くに4つの巨大衛星をもつ木星と惑星から離れた位置にひとつだけ巨大衛星をもつ土星という、衛星系の違いの謎を解く鍵になります。この成果は、今後の系外衛星の探査において発見が期待される衛星系の構造の予想にも役立ちます。
本研究成果は、2026年4月2日に英国の国際学術誌Nature Astronomyにオンライン掲載されました。

すばる望遠鏡が見つけた太陽系の「化石」

すばる望遠鏡による観測で、小天体セドナに代表される、太陽系外縁部を特異な軌道で公転する小天体群「セドノイド」の一員となる4番目の天体が新たに発見されました。研究チームによって「アンモナイト」の愛称がつけられたこの天体「2023 KQ14」は、太陽系形成初期から安定した軌道を持っていたことが、国立天文台の「計算サーバ」などを用いた数値シミュレーションから示されました。アンモナイトの発見は黎明期の太陽系の記憶をとどめた「化石」として、未知の第9惑星の存在や太陽系の成り立ちを解明する手がかりになると期待されています。(2025年7月15日 プレスリリース)

新天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイⅢ」始動!

国立天文台 天文シミュレーションプロジェクトは,天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイⅡ(ツー)」に替わる新たなスーパーコンピュータとして,HPE Cray XD2000システムを導入し,2024年12月2日より国立天文台 水沢キャンパス(岩手県奥州市水沢)にて運用を開始しました.この新システムの愛称は,前システムを引き継ぎ「アテルイⅢ(スリー)」と名付けられました.
アテルイⅢは,1.99 ペタフロップスの総理論演算性能を有し,メモリバンド幅を重視した「システムM」(1ノードあたり 3.2 TB/s,アテルイⅡの 12.5 倍)と,メモリ量を重視した「システムP」(1 ノードあたり 512 GB,アテルイⅡの1.3 倍)で構成されています.得意とする計算が異なる2種類のシステムを用いて運用することで,多様なシミュレーションにおいてアテルイⅡよりも計算速度の向上が見込まれ,さまざまな天体現象を検証するための「理論天文学の実験室」としてのさらなる活躍が期待されます.(2024年12月2日 プレスリリース)

最先端のシミュレーションによって明らかになった中間質量ブラックホール形成過程

東京大学大学院理学系研究科の藤井通子 准教授をはじめとする研究グループは、球状星団の形成過程で、星の合体から超大質量星を経て中間質量ブラックホールが形成され得ることを、数値シミュレーションにより明らかにしました。
本研究では新たに開発した計算手法により、世界で初めて球状星団の形成過程を、星一つ一つまで数値シミュレーションで再現しました。その結果、形成中の球状星団の中で星が次々と合体することによって、太陽の数千倍の質量を持つ超大質量星が形成され得ることが分かりました。さらに、星の進化の理論に基づいた計算によって、この超大質量星は後に太陽の数千倍の質量を持つ中間質量ブラックホールへと進化することを確かめました。これまでの観測から長年論争となっていた、球状星団における中間質量ブラックホールの存在を理論的に強く支持する結果です。
本研究で星一つ一つを再現した球状星団の形成シミュレーションは、国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイⅡ」を用いたことで実現しました。(2024年5月31日プレスリリース)

衝突シミュレーションで探る氷衛星エウロパの構造

木星の衛星のひとつであるエウロパは氷殻で覆われており,その下には海があると考えられています.そのため,生命が存在する可能性がある天体として注目されています.パデュー大学(米国)の脇田茂 研究員らによる研究チームは,エウロパ表面の「多重リング盆地」と呼ばれる地形に着目し,国立天文台が運用する「計算サーバ」を用いて天体衝突シミュレーションを行うことで多重リング盆地の形成過程を調べ,エウロパの氷殻の厚さを導きだしました.計算の結果,硬い層ともろい層から成る少なくとも約20キロメートルの厚さの氷殻を考えると,多重リング盆地の地形をよく説明できることが明らかとなりました.氷殻の厚さはエウロパでの生命居住可能性を議論する上で重要な情報であり,今後の進展が期待されます.
この研究成果は Wakita et al. “Multiring basin formation constrains Europa’s ice shell thickness” として,2024年3月20日付けで Science Advances に掲載されました.(2024年3月22日 プレスリリース)

歳差運動するM87ジェットの噴出口―巨大ブラックホールの「自転」を示す新たな証拠―

Zhejiang Lab(中国)、国立天文台、東京大学宇宙線研究所、総合研究大学院大学、工学院大学などの研究者らによる国際研究チームは、東アジアVLBIネットワークをはじめとする観測装置を用いて、楕円銀河M87の中心から噴出するジェットの運動を詳しく観測しました。過去20年以上にわたって得られた多数の画像を分析しまとめた結果、ジェットの噴出方向が約11年周期で一般相対性理論が予言する歳差運動(首振り運動)をしていることを発見しました。本成果は、M87の巨大ブラックホールが自転(スピン)していることを強く示すとともに、強力なジェットの発生にブラックホールの自転が深く関与していることを裏付けるものです。研究成果は、英国の科学雑誌『ネイチャー』に2023年9月27日付で掲載されました。(2023年9月28日プレスリリース)

3本の腕でガスを吸い込む三つ子の赤ちゃん星

ソウル国立大学のジョンユァン・リー 教授、法政大学の松本倫明 教授らの国際研究チームは、3つの原始星からなる星系 IRAS 04239+2436 についてアルマ望遠鏡を用いて高い解像度で観測し、ガスの詳細な構造を調べました。その結果、衝撃波の存在を示す一酸化硫黄分子が発する電波輝線を検出し、その分布が細長くたなびく大きな3つの渦状腕を形作っていることを発見しました。観測から得られたガスの速度情報を、国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイ」および「アテルイⅡ」を用いた数値シミュレーションと比較することにより、3つの渦状腕は3つの原始星にガスを供給する「ストリーマー」の役割も担っていることがわかりました。これまでストリーマーの起源については未解明でしたが、観測とシミュレーションのタッグによってストリーマーの起源を多重星のダイナミックな形成過程からはじめて明らかにしました。
この研究成果は Jeong-Eun Lee et al. “Triple spiral arms of a triple protostar system imaged in molecular lines” として米国学術雑誌 The Astrophysical Journal に2023年8月4日付で掲載されました。(2023年8月4日 プレスリリース)

天文学的要因が左右する更新世前期の地球の気候と氷床量変動

東京大学大気海洋研究所の渡辺泰士特任研究員(研究当時)・阿部彩子教授、国立天文台天文シミュレーションプロジェクトの伊藤孝士らによる研究グループは、気候モデルを用いた大規模な数値シミュレーションにより、現代との違いが特に顕著である約160-120万年前の氷期・間氷期サイクルをコンピュータ上で再現する事に成功しました。シミュレーションからは、天文学的外力が従来の認識よりもはるかに精妙に地球の気候に影響を与え、現代との差異を生んでいることも分かりました。将来、この方向の研究が進む事で、地球の気候に関する天文学的外力の役割や氷床と気候変動の仕組みが更によく理解され、地球の歴史や未来の変化をよりよく把握できることが期待されます。
この研究の成果は,2023年5月15日付で国際学術誌 Communications Earth & Environment に掲載されました。(2023年5月15日 プレスリリース)

貴金属に富んだ星々は 100 億歳―世界最高解像度の天の川銀河シミュレーションに成功―

私たちが暮らす太陽系を含む天の川銀河は、宇宙が誕生した 138 億年前の数億年後から形成されてきたとみられています。しかし誕生から形成の過程は謎に満ちており、今でも解明されていないことがたくさんあります。
東北大学大学院理学研究科の平居悠 研究員(日本学術振興会特別研究員 - CPD (国際競争力強化研究員)/ノートルダム大学物理天文学科)らは国立天文台、計算基礎科学連携拠点、神戸大学と共同で、国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイⅡ」を用いて、天の川銀河ができる様子を世界最高解像度でシミュレーションすることに成功しました。その結果、金、プラチナなど鉄より重い貴金属の元素を多く含む星は、100 億年以上前、天の川銀河の元となった小さい銀河で形成されたことを明らかにしました。また、本シミュレーションで形成された星の元素量、運動は天の川銀河の星の観測と一致しました。今後、国立天文台のすばる望遠鏡(注1)などでの観測が進むと、貴金属に富んだ星を指標として、長年の謎であった 100 億年以上前の天の川銀河形成史を辿れるようになることが期待されます。
本研究成果は、英国の学術誌「Monthly Notices of the Royal Astronomical Society(王立天文学会月報)」で、2022 年 11 月 14 日(英国時間)にオンライン公開されました。