巨大な爆発現象である「太陽フレア」は、「磁場のねじれ(磁気ヘリシティ)」が蓄積することで発生しますが、これまでどのように磁気ヘリシティが蓄えられるのかは分かっていませんでした。実際に、ねじれを持たない磁場が太陽内部に存在したとても、それが元になって太陽フレアを起こすことはないだろうと考えられてきました。
太陽内部は望遠鏡で観測することができませんが、スーパーコンピュータを使ったシミュレーションであれば内部のようすを探ることができます。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の鳥海 森准教授、名古屋大学の堀田英之教授、草野完也教授からなる研究チームは、シミュレーションを用いることで、磁気ヘリシティを供給する過程に太陽内部の熱対流がこれまで考えられてきた以上に大きな影響を与えていることを突き止めました。スーパーコンピュータ「富岳」(理化学研究所)および「アテルイⅡ」(国立天文台)を用いた大規模数値シミュレーションにより、太陽の深部から磁力線の「たば」(磁束管)が浮上し、黒点を形成する様子を再現しました。その際、磁束管に与えるねじれの強さを人工的に変化させることにより、磁束浮上・黒点形成に伴って、太陽コロナに磁気ヘリシティが供給されるプロセスの違いを調査しました。その結果、磁束管のねじれがゼロの場合でも、周囲の対流が磁束をよじることで黒点が回転運動し、太陽コロナに磁気ヘリシティが供給されることがわかりました。熱対流によるねじれの供給量は、小規模な太陽フレアを発生しうるほどに達しました。
本研究の結果は、磁気ヘリシティを供給し太陽フレアに必要なエネルギーを蓄える上で、磁束管自体の持つねじれだけではなく、熱対流が磁束管をよじる効果も重要な役割を果たしている可能性を示しており、これまでの認識を改める成果と言えます。本成果は英国の科学雑誌Natureの姉妹誌である『Scientific Reports』誌に 2023 年 6 月 2 日付けで掲載されました。(2023 年 6 月 23 日、本記事公開)