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AI が描く超新星爆発の広がり―深層学習を用いた超新星爆発シミュレーションの高速再現技術―

超新星爆発は、銀河の星形成や元素分布に影響を与える重要な現象です。しかし、この超新星爆発の計算をこれまでの銀河形成シミュレーションに組み込むと、計算コストが増大し、最先端の計算機を使用しても、銀河内での超新星爆発の影響を直接的に計算するのは困難でした。東京大学大学院理学系研究科天文学専攻の平島敬也大学院生、藤井 通子准教授、物理学専攻の森脇可奈助教らによる研究グループは、従来のシミュレーションに替わり深層学習を用いて超新星爆発の広がりを予測する手法を開発しました。今後、この深層学習による予測結果を銀河形成シミュレーションに組み込むことで、銀河形成シミュレーションの精度の向上と高速化が期待されます。この深層学習の教師データの作成に、国立天文台が運用する天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイⅡ」が用いられました。(2023 年 10 月 23 日掲載)

宇宙の塵の塊の「跳ね返り」が衝突合体による微惑星形成を阻害する―大きくなるとくっつきにくくなる粉状体の衝突挙動を発見

「惑星の種」である微惑星注1は、原始惑星系円盤注2において固体微粒子同士が付着による衝突合体を繰り返すことで形成されたと考えられています。しかし、どのような条件の下で 2 つの微粒子の塊が衝突合体するのかという重要な問題が未解明のままでした。
 海洋研究開発機構(JAMSTEC)ヤング・リサーチ・フェローの荒川 創太氏らは、国立天文台の「計算サーバ」を用い、惑星の材料物質である固体微粒子の塊について、その衝突挙動を数値シミュレーションによって調べました。様々な大きさの塊について数値シミュレーションを実施した結果、塊が大きい場合に 2 つの塊が衝突合体する確率が低下することを明らかにしました。本研究の結果は、微粒子の塊が大きくなるにつれて衝突合体しにくくなるため、微粒子同士の衝突合体による成長のみで微惑星を形成することは困難であることを示唆しています。これは惑星形成プロセスを理解する上で重要な知見となります。
 本成果は、S. Arakawa et al. "Size Dependence of the Bouncing Barrier in Protoplanetary Dust Growth" として、「The Astrophysical Journal Letters」に 7 月 6 日付け(日本時間)で掲載されました。(2023 年 7 月 6 日 記事公開)

太陽フレアを熱対流が駆動するメカニズム―スーパーコンピュータ 富岳・アテルイⅡにより解明

巨大な爆発現象である「太陽フレア」は、「磁場のねじれ(磁気ヘリシティ)」が蓄積することで発生しますが、これまでどのように磁気ヘリシティが蓄えられるのかは分かっていませんでした。実際に、ねじれを持たない磁場が太陽内部に存在したとても、それが元になって太陽フレアを起こすことはないだろうと考えられてきました。
 太陽内部は望遠鏡で観測することができませんが、スーパーコンピュータを使ったシミュレーションであれば内部のようすを探ることができます。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の鳥海 森准教授、名古屋大学の堀田英之教授、草野完也教授からなる研究チームは、シミュレーションを用いることで、磁気ヘリシティを供給する過程に太陽内部の熱対流がこれまで考えられてきた以上に大きな影響を与えていることを突き止めました。スーパーコンピュータ「富岳」(理化学研究所)および「アテルイⅡ」(国立天文台)を用いた大規模数値シミュレーションにより、太陽の深部から磁力線の「たば」(磁束管)が浮上し、黒点を形成する様子を再現しました。その際、磁束管に与えるねじれの強さを人工的に変化させることにより、磁束浮上・黒点形成に伴って、太陽コロナに磁気ヘリシティが供給されるプロセスの違いを調査しました。その結果、磁束管のねじれがゼロの場合でも、周囲の対流が磁束をよじることで黒点が回転運動し、太陽コロナに磁気ヘリシティが供給されることがわかりました。熱対流によるねじれの供給量は、小規模な太陽フレアを発生しうるほどに達しました。
 本研究の結果は、磁気ヘリシティを供給し太陽フレアに必要なエネルギーを蓄える上で、磁束管自体の持つねじれだけではなく、熱対流が磁束管をよじる効果も重要な役割を果たしている可能性を示しており、これまでの認識を改める成果と言えます。本成果は英国の科学雑誌Natureの姉妹誌である『Scientific Reports』誌に 2023 年 6 月 2 日付けで掲載されました。(2023 年 6 月 23 日、本記事公開)

M87 巨大ブラックホールの降着円盤とジェットの同時撮影に初めて成功

国立天文台や東京大学の研究者らが参加する国際研究チームは,波長 3.5 ミリメートル帯で観測する地球規模の電波望遠鏡ネットワークを用いて,楕円銀河 M87 の中心部を詳しく観測しました.その結果,巨大ブラックホールの周囲に広がる降着円盤の撮影に初めて成功するとともに,ジェットの根元の構造をこれまでで最も高い視力で捉えました.本成果は,巨大ブラックホールに落ち込むガスから膨大な重力エネルギーが解放される現場を初めて直接的に捉えたもので,ブラックホールジェットの駆動メカニズムの解明を大きく前進させる成果です.詳しくは以下をご覧ください.
国立天文台プレスリリース:M87 巨大ブラックホールの降着円盤とジェットの同時撮影に初めて成功
EHT-Japan プレスリリース:M87 巨大ブラックホールの降着円盤とジェットの同時撮影に初めて成功

木星と土星の不規則な運動が地球型惑星たちの形成の鍵を握る

近畿大学総合社会学部のソフィア・リカフィカ・パトリック 准教授と国立天文台天文シミュレーションプロジェクトの伊藤孝士 講師からなる研究チームは,地球型惑星と小惑星帯の形成を一度に説明できる条件を数値シミュレーションによって探し,新しいシナリオを提唱しました.このシミュレーションは,地球型惑星と小惑星の形成を同時に説明するだけではなく,これらの軌道や質量などの観測的特徴もよく再現しました.さらに,月の形成時期や,地球の水の起源となる水を豊富に含んだ微惑星の集積時期など,これまでに行われた様々な研究結果と矛盾しない結果を得ることができました.本研究成果は,Lykawka and Ito, “Terrestrial planet and asteroid belt formation by Jupiter-Saturn chaotic excitation” として, 2023 年 3 月 27 日付で英国の科学専門誌『サイエンティフィック・リポート』に掲載されました.( 2023 年 3 月 29 日公開)

「富岳」を用いた宇宙ニュートリノの数値シミュレーションに成功―2021年ゴードン・ベル賞ファイナリストに選出―

【概要】

 筑波大学計算科学研究センターの吉川耕司 講師らの研究チームは,ブラソフシミュレーションと呼ばれる全く新しい手法を世界で初めて採用し,理化学研究所のスーパーコンピュータ「富岳」注1の全システムを用いて宇宙大規模構造におけるニュートリノの運動に関する大規模数値シミュレーションを実行することに成功しました.ブラソフシミュレーションは,従来の計算手法(重力多体 [N体] シミュレーション)に比べて,ノイズのない数値シミュレーションを実行することが可能ですが,計算量や必要なメモリ容量がかなり大きくなることが問題でした.本研究では,革新的な計算アルゴリズムと「富岳」に最適化したコーディング手法と並列化手法を用いて,90%を超える並列化効率を達成し,さらに,富岳の全システムを用いた数値シミュレーションによって,計算領域を約400兆個ものメッシュに分割した世界最大のブラソフシミュレーションを実施することに成功しました.これにより,N体シミュレーションによる過去最大規模のニュートリノの数値シミュレーションと同等規模の数値シミュレーションに要する時間を約10分の1に短縮することができました.

片岡章雅 助教が日本惑星科学会2020年度最優秀研究者賞を受賞

天文シミュレーションプロジェクトの片岡章雅(かたおか・あきまさ)助教が2020年度の日本惑星科学会最優秀研究者賞を受賞しました.片岡助教は,原始惑星系円盤内のダストによる電波偏光放射に対して新たな機構を理論的に提唱し,アルマ望遠鏡による観測とこの理論を組み合わせることで,ダストの大きさが従来考えられていたよりも小さいことを発見した業績が評価されました.

片岡章雅 助教,守屋尭 助教が2020年度日本天文学会研究奨励賞を受賞

天文シミュレーションプロジェクトの片岡章雅(かたおか・あきまさ)助教と守屋尭(もりや・たかし)助教が,2020年度の日本天文学会研究奨励賞を受賞しました.この賞は,優れた研究成果を挙げている35歳以下の若手天文学研究者を日本天文学会が表彰する制度です.2020年度の受賞者は2021年6月に決定・発表され,受賞記念講演が9月15日にオンラインで行われました.

スーパーコンピュータ「富岳」で 太陽の自転の謎、解ける―世界最高解像度計算で太陽の自転分布を世界で初めて再現―

 千葉大学大学院理学研究院の堀田英之 准教授と名古屋大学宇宙地球環境研究所⻑の草野完也 教授は、 理化学研究所のスーパーコンピュータ「富岳」による超高解像度計算によって、太陽内部の熱対流・磁場を精密に再現しました。それにより、太陽では赤道が北極・南極(極地方)よりも速く自転するという基本自転構造を、世界で初めて人工的な仮説を用いずに再現することに成功しました。
 本成果では、「富岳」の計算力を用いることで太陽と同じ状況をコンピューター上に再現することが達成できたと考えられます。今後、更なる高解像度計算を引き続き実行していくことで、太陽物理学最大の謎「太陽活動 11 年周期」の解明に近づくことが期待できます。
 本研究成果は、英科学誌『Nature Astronomy』に2021年9月13日付けで発表されました。また、本研究の計算の一部では、国立天文台のスーパーコンピュータ「アテルイⅡ」が用いられました。(2021年10月4日 ニュース掲載)