赤ちゃん星のスピンダウン: 大規模シミュレーションでそのメカニズムを発見

概要

 大阪大学大学院理学研究科の髙棹真介 助教、久留米大学の國友正信 講師、東京大学の鈴木建 教授、国立天文台の岩﨑一成 助教、東北大学大学院理学研究科の富田賢吾 准教授の研究グループは、ガスを食べて成長中の赤ちゃん星、すなわち原始星の大規模シミュレーションを実施することで、原始星がどんどんと回転の勢いを弱めていく新機構(スピンダウン機構)を発見しました。
 原始星は回転する原始惑星系円盤のガスを食べることで、回転の勢いを表す「角運動量」を増加させていきます。そのうえ原始星は徐々に半径も縮めていくため、まるでフィギュアスケート選手が腕や脚を縮めて回転の勢いを増していくように、原始星の回転も速くなると予想されます。しかし観測は、予想よりもはるかに遅い自転速度を示唆しています。その理由は、長年の謎となっていました。
 本研究グループは、太陽の原始星に注目し、国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイⅡ」を使った大規模シミュレーションでスピンダウンの仕組みを調査しました。そのような原始星は、強い磁場を持っていると考えられています。本研究グループは、原始星の強い磁場が、原始星から角運動量を引き抜きつつ、円盤の磁場が原始星の食べるガスから角運動量を引き抜く様子を明らかにしました。したがって、この2つの効果が合わさることで原始星がスピンダウンするという可能性が初めて見えてきました。
 星の自転は、星の進化や星近くでの惑星形成に影響を与えます。本研究により、今後はこれらについても理解が進むことが期待されます。
 本研究成果は、米国の天文学専門誌アストロフィジカルジャーナル(The Astrophysical Journal)に、2025年2月10日に出版されました。詳細は 大阪大学プレスリリース をご覧ください。(2025年2月14日 掲載)



図1:シミュレーションで捉えられた、強い磁場をもつ原始星が円盤ガスと相互作用する様子。(クレジット:髙棹真介)
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図2:原始星と円盤を繋ぐ磁場が、原始星に食べられる前のガスから効率的に角運動量を抜き取っている様子。左と中央はアテルイⅡによるシミュレーション、右は模式図を表す。原始星磁場と円盤ガスの磁場がつながり、スパイラル状の磁場ができる(右図のオレンジ色の線)。この磁場に沿って原始星に近づくガスが、磁場を通じて角運動量を円盤ガスへ受け渡す。このようにして角運動量を失ったガスを原始星が食べることで、原始星の角運動量が低く抑えられる。(クレジット:髙棹真介)
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論文情報

タイトル:"Spin-down of Solar-mass Protostars in Magnetospheric Accretion Paradigm"
著者:Shinsuke Takasao, Masanobu Kunitomo, Takeru K. Suzuki, Kazunari Iwasaki, and Kengo Tomida
掲載誌:The Astrophysical Journal
DOI: 10.3847/1538-4357/ada364

本研究で使用されたスーパーコンピュータについて

今回の研究では、原始星と円盤ガスのシミュレーションに、国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイⅡ」(Cray XC50、左)が利用されました。アテルイⅡは理論ピーク性能3.087ペタフロップスを有し、2024年8月まで国立天文台水沢キャンパスで稼働していました。また、原始星の進化の計算には国立天文台の「計算サーバ」(右)が用いられました。計算サーバでは、規模は小さいながらも長い時間を要する計算や、スーパーコンピュータで行うシミュレーションのテスト計算などが行われています。(クレジット:国立天文台)

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