文部省国立天文台は東京大学東京天文台・名古屋大学空電研究所第三部門・緯度観測所を改組統合して発足した組織であり,日本の天文学研究において中心的な役割を果たすべく 1988年に設立された研究機関である。
1966年 3月,東京天文台時代に初めて導入された計算機はOKITAC 5090Dであった。その後FACOM 230-58,UNIVAC 1100-80B,FACOM 380Rを経て,昨年度まではFACOM M780/10Sが置かれていた。
然るに,M780の 1995年度の稼働率は平均 30%を下回るものであった。このことはひとえに,当時のマシンの能力が現代の天文学の要求を満たすものではなく,速度の面からも使い勝手の面からも普及型のワークステーションに及ばなくなってしまっていたという状況を如実に指し示している。
こうした事情,言ってみれば大型計算機の長期低落傾向が見え始めた数年前から,我々は大学共同利用研究機関としての国立天文台が保有するにふさわしい計算機システムについての検討を開始した。
理論天文学の望遠鏡という役目を持つ計算機システムに要求される条件はいくつもあるが,その中で我々が最も重視したのは,計算速度よりもむしろ主記憶の大きさである。天文学における数値実験やデータ解析で最も重要になってくるのはとにかく大きな記憶領域であり,どこまで大きな配列を扱うことができるかによって,その計算の能率や速度,更には結果の学術的意義までが決定されてしまう面すらある。
小規模な計算ならば研究室のワークステーションを何箇月も連続で動かしていれば良いし,その方が速いであろう。しかしながら,500×500×500 個の格子数,あるいは 200×200×200個の粒子数を擁する大規模数値実験をたかだか O (100)M バイトの主記憶しかないワークステーションで実行するのは現実的に不可能である。
結果的にかなり主記憶に偏ったシステムを我々が要求するに及んだのは以上のような理由に因っている。平成 6年 7月 20日に官報公示された我々の計算機調達招請には,国立天文台スーパーコンピュータシステムの満たすべき基本的要件が以下のように記載されている。
1) 主記憶容量が 8.5Gバイト以上,拡張記憶容量が 12Gバイト以上
2) 単一プロセッサの性能が 1GFLOPS 以上,システム全体の総合性能が 10,000×10,000の LINPACKで 15 GFLOPS以上
日米貿易摩擦の影響により,スーパーコンピュータという名称を冠した途端に計算機の買物はややこしいものになる。けれども,天文学の健全な発展のためには何としても理論天文学の大望遠鏡を作り上げることが必要であると判断し,我々は敢えてこうした「スーパー」な仕様を策定したのであった。
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