日本でも活発に海外調査ができるようになり,世界各地にある太古代の地質調査が精力的になされ,得られた試料の年代測定が行われた.わが国の研究者によって導かれた新しい説得力のある結論は「地球表層の運動形態としてのプレートテクトニクスは約40億年前まで 遡って辿れる」ことである.具体的に言えば,海洋地殻岩石(最下端のかんらん岩から,はんれい岩,玄武岩まで),その上に堆積している遠洋性堆積物,海溝付近の陸源堆積物が,一連の連続地層の付加体として明快に認識・同定されたのである.すなわち,われわれは40億年前の海溝付近におけるマントルまでの垂直断面を露頭で確認し,かつその試料を実験室で扱えるようになったのである.
これは,「深海底におけるマントルまでのボーリングコアに相当するものがここにある」,「40億年前までの連続的地球史を具体的に解明する記録テープとしての物証がここにある」と明快に位置づけたことに相当する.古い時代の堆積岩は熱変成や変質を受けているために情報は完全に失われているというのが常識であったが,そうでない堆積岩も多量に存在することが見出)された.現在,このような深海底堆積物の連続試料の組織的採集が全世界をカバーして行ない,それらを研究室で扱えるようにした.このような状況は,もっぱらわが国の地質学者の広い視点に立った先見性と実務的努力の結果もたらされたのである.
このように40億年前までの地球史記録媒体が存在し,それが地球惑星研究の現状を変えつつある事実とその意義はまだ地球科学のコミュニティーに(国の内外共に)広く知られていない.特に火成活動の激しい日本列島では,ほとんどの岩石は形成後数千万年で熱変成を受けるのが普通であるから,何10億年も前の堆積岩が未変成で残存することを信じられない研究者も多い.したがって,上記の発見は地質学のなかの一つの些細な記載的事項の研究成果としてしか認識されていなかった.
しかし,幸運にも,われわれはこの発見のもつ重要性とその意義の本質に気づくことができた.それは地球物理学,太陽物理学,地質学などの関連分野の研究者が集まって地球惑星科学の新しい方向を模索してきた総合研究 (多圈地球,MULTIER,10ページ参照)の成果である.その後のインテンシヴな技術調査,文献調査,理論研究,研究戦略検討の結果,われわれは新しい地球史解読試料をどこでどう手に入れ,それをどう解読すればよいのか,また何が解読できるかを後述のようにいち早く理解したのである.