Smoothed Particle Hydrodynamics(SPH)法は, 流体を粒子の集合体として解く粒子法です。完全ラグランジュ法であるために,大きな密度差が存在する問題に有利です。 そのため,宇宙物理学では,広くSPH法が使われてきました。
多くの宇宙現象では,磁場が重要な役割を果たしている事が知られています。 しかしSPH法には,磁気流体が扱えないという問題がありました。 もちろん,SPH法を磁気流体に適用した先行研究はありましたが,人工粘性を用いた手法で,各種波動や不連続面が精度良く解くことができませんでした。
我々は,"物理的な最小限の散逸"を取り入れるために,メッシュ法で標準化しているGodunov法をSPHに適用する方法を編み出しました。 開発した計算法は,高精度かつ安定にMHDの不連続面(衝撃波面,回転不連続面)を捕らえることができます (Iwasaki and Inutsuka 2011)。 さらに,非理想磁気流体効果の一つであるオーム散逸の実装もおこないました(Tsukamoto, Iwasaki, and Inutsuka 2013)。 本来存在しない磁気発散が数値的に生じる問題については,メッシュ法で使われている双曲型発散除去法を適用し軽減することに成功しました (Iwasaki and Inutsuka 2013)。 強磁場場環境下で数値解の精度を向上させる方法も提案しました(Iwasaki 2015)。
我々が開発した手法は,原始星周囲を回転する星周円盤形成に関する研究に適用されています (私が共著で入っている論文のみ列挙 Tsukamoto, Iwasaki et al. 2015a, Tsukamoto, Iwasaki et al. 2015b, Tsukamoto, Okuzumi, Iwasaki et al. 2017 )。
以下は,二次元コードでのテスト計算例です。
星・惑星形成では,ガスの電離度が非常に低いため, 完全導体を仮定している理想磁気流体力学では不十分な場合が多くあります。 非理想磁気流体効果にはオーム散逸,ホール効果,両極性拡散の3種類があります。 オーム散逸と両極性拡散は拡散過程なのですが,ホール効果は 拡散過程ではなく,小スケールでホイッスラー波とイオン・サイクロトロン波と呼ばれる波を生じます。 特にホイッスラーは波長が短いほど,より速く伝播する波なので, ホール効果の数値解法によっては,グリッドスケールの数値的な不安定性が発生してしまうことがよく知られていました。 これまで,数値不安定性を止めるための手法が複数提案されてきましたが,どの手法が安定かつ高精度な解 を導くのかは明らかではありませんでした。また,各種手法が含むパラメータの最適値も不明でした。 そこで,我々は,これまで提案されてきたホール効果の実装方法を,解析的手法と数値実験を通して注意深く検証し, 最適な手法を提案しました (Iwasaki and Tomida 2025)。