原始惑星系円盤の構造と進化を理解することは,その中での惑星形成を理解する上で不可欠です。 原始惑星系円盤を構成するガスは,中心星に落下していることが観測的にわかっています。したがって,ガスが回転しながら中心星に 近づいている(降着している)ということになります。しかし,地球が太陽に近づいていないように,中心星の周りを回転するガスは,中心星への方向に沿った力以外に何も 力を受けていなければ,回転運動を続けます。中心星に近づくためには,回転の勢い(角運動量)を弱める(角運動量輸送)が必要があります。
磁気回転不安定性(MRI)という現象が角運動量輸送に重要な役割を果たしています。 ブラックホール周囲の降着円盤はこのMRIによってガスが降着しています。 磁気回転不安定性が起こるためには,ガスに十分な電離度が必要なのですが,原始惑星系円盤の場合は, 円盤の領域によっては電離度が極めて強く,磁気回転不安定性が起こらない領域(デッドゾーン)が存在します。 中心星近傍の円盤内側領域は高温なため,MRIが起こりますが,外側に行くと,デッドゾーンが広がっています。 これまでは,MRIが起こる領域と,デッドゾーンの夫々に着目した研究がおこなわれてきましたが,両者を含む数値シミュレーションを おこない,両者がどのように接続するのかを明らかにした研究はほとんどありませんでした。
我々は,MRIが起こる領域とデッドゾーンの両方を計算領域に含む,3次元大局円盤磁気流体シミュテーション
をおこないました
(Iwasaki et al. 2024)。
デブリ円盤は,一千万年以上の年齢の主系列星に対して淡い赤外線放射を出す天体として観測されます。 この赤外線放射は塵(デブリ)から放射されています。 デブリ円盤は原始惑星系円盤の成れの果てと考えれています。原始惑星系円盤はガスを大量に保持していますが, おおよそ数百万年で散逸すると考えられています。 ガスが非常に少なくなると,赤外線放射の大部分を担う小さい塵は中心星からの輻射によって吹き飛ばされてしまいますが, 惑星や微惑星同士の衝突によって継続的に供給されると考えられています。
これまでデブリ円盤にはガスがほとんど存在しないということが一般的な認識でしたが, 一酸化炭素(CO)や炭素イオン(C+)・酸素原子(O)などのガス成分が多くのデブリ円盤で観測されるようになってきました。 デブリ円盤中のガスの起源としては,原始惑星系円盤のガス成分が消失したあと,塵や彗星からガスが供給されるという説が, 大勢を占めていましたが, 私たちはまず観測されているCOの量を化学反応だけから供給可能かどうか,という基本的な問題を明らかにするため,詳細な輻射輸送と化学反応計算をおこないました。 その結果,COを作るには実は水素が必要で,水素の含有量が多ければ多いほど,COの量も多いことが分かりました。 下図はCO形成に重要な役割を果たす化学反応ネットワークを抜き出したものです。 水素が多い場合は赤色や青色で示す経路でCOが作られます。水素の量が炭素や酸素と同程度になると,水素を介さない緑色の反応経路が有効になります。 詳細な化学反応計算を基にして,デブリ円盤のCO量を予測するモデルを作りました (Iwasaki, Kobayashi, Higuchi, Higuchi 2023)。 複数のデブリ円盤の観測結果をIwasaki et al. 2023で作ったモデルを比較し, CO量の多いデブリ円盤では, 始原ガス中の化学反応だけで観測されたCO量を説明可能であることを示しました (Cataldi, Aikawa, Iwasaki et al. 2023)。