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 銀河は恒星やダークマターだけでなく,摂氏マイナス263度(絶対温度10度)の極低温ガスから摂氏百万度以上の極高温ガスまで,さまざまな状態のガス(星間ガス)で満たされています。 ガスはその状態に永久にとどまるのではなく,超新星爆発および渦状腕による擾乱を受けて,銀河の進化の中で移り変わっていきます。 星が生まれるのは,分子雲と呼ばれる極低温(絶対温度10度)のガス雲です。分子雲が作られ,その中で星が誕生し,星からの放射や超新星爆発で高温ガスが生成され,分子雲が霧消していきます。そしてまた新たな分子雲が作られるというふうに物質が輪廻しています。

分子雲形成

星は分子雲と呼ばれる温度が絶対温度10度(摂氏-263度)程度で高密度なガス雲の中で形成されます。 この分子雲がどのように作られるのかを理解する事は、星形成がどのように起こるのかを決めるために不可欠です。 分子雲は,より密度の低い原子ガスと呼ばれるガス成分から作られます。 原子ガスは,超新星爆発など大質量星による高エネルギー現象や銀河渦状腕などにより 衝撃波圧縮を受けると,暴走的に冷却して温度が下がるとともに密度が上昇するという興味深い 性質があります。 下図は,我々がおこなった原子ガスの衝撃波圧縮により分子雲が作られる様子をシミュレーションした結果です (Iwasaki and Tomida 2022)。 淡い赤で示されたガスがHIガスを表し,青から緑・黄色に変わる領域が分子雲です。 常に細かい複雑な構造をしていることがわかります。

様々な環境下での原子ガスの圧縮をシミュレーションした結果, 分子雲の物理状態は,原子ガスの圧縮環境に強く依存することがわかりました (Iwasaki et al. 2019)。 一方で,星を作る高密度領域は,分子雲の大局的な物理状態に依存せずに,観測と整合的な普遍的な 物理的性質をもつことがわかりました (Iwasaki and Tomida 2022)。 これは星の初期質量関数で見られる規則性の起源にもしかしたら繋がっているのかもしれません。

その他,大小マゼラン雲のような重元素が少ない低金属量環境下での分子雲形成 (Kobayashi, Iwasaki et al. 2023)や, 分子雲形成時の詳細な化学進化 (Komichi, Aikawa, Iwasaki, Furuya. 2023)を 調べました。

原子ガスのダイナミクス

上で登場した原子ガスは,外部から飛んでくる光による加熱と放射冷却によって,その熱力学的状態が決まっています。 放射冷却は,衝突によって励起された原子の自然放射によって起こるので,密度が上昇すると,効率よく冷却して温度が急激に低下します。 その結果,密度が低く温かい状態(Warm Neutral Medium, WNM)と密度が高く冷たい状態(Cold Neutral Medium, CNM)が,隣り合って 共存しています。 下の動画は,原子ガス乱流を調べたシミュレーション結果を示しています。青い塊状の領域がCNMで,その周囲の領域がCNMです。 このシミュレーションでは,乱流を駆動させるような外力をいれていませんが, 乱流が駆動され続けています。 我々は、WNMからCNMへの相転移の際に、同時に運動エネルギーが 輸送される事によって乱流が駆動されいている事を見出しました (Iwasaki and Inutsuka 2014)。

その他,原子ガスが暴走冷却で凝縮する過程を記述する厳密解(自己相似解)を求めたり (Iwasaki and Tsuribe 2008)。 ,その安定性を調べたり (Iwasaki and Tsuribe 2009)。 異なる状態間の相転移過程を調べたりしました (Iwasaki and Inutsuka 2012)。

二相乱流(動画)


誘発的星形成

有力な星形成シナリオの一つに、 外的作用が分子雲に加わることで,星形成が誘発されるという,誘発的星形成があります。

フィラメント状分子雲同士の衝突

分子雲には,細長いフィラメント状の構造が普遍的に存在することがわかっています。 大部分の原始星(星の赤ちゃん)は,そのフィラメントの中で生まれています。 大質量星は,「ハブ」と呼ばれる複数のフィラメントが重なった結節領域で生まれていることが観測結果によって示唆されています。 ハブ構造を作るメカニズムの一つとして,フィラメント同士の衝突が提唱されています。 我々は,どのようなフィラメントの衝突であれば,大質量星が形成されうるのかを明らかにするために, 2本のフィラメントの衝突現象の3次元磁気流体シミュレーションをおこなっています (Kashiwagi, Iwasaki, and Tomisaka (2023), Kashiwagi, Iwasaki, and Tomisaka (2024))

電離領域の膨張

例えば,形成された大質量星は強力な紫外線を放ち,周囲に電離領域が形成されます。 この電離領域は周囲よりも高圧なので,膨張しながら周囲の分子雲を掃き集め,強く圧縮されたシェル状の構造をつくります。 このシェルが重力不安定英を起こし,次世代の星形成を誘発するというシナリオ(Collect and Collapse model)が提唱されています(模式図参照)。


我々は、線形解析 (Iwasaki, Tsuribe, and Inutsuka (2011a)) と多次元数値シミュレーション (Iwasaki, Tsuribe, and Inutsuka (2011b)) を駆使して、誘発的星形成過程の理論的解明に取り組んでいます。 下の動画は、粒子法であるSmoothed Particle Hydrodynamics法を用いた3次元シミュレーションの結果です。 計算資源の節約のために,シェル全体を解かずに,一部のみを解いています。シェルが膨張するにしたがい,密度の揺らぎが成長して分裂している様子がわかります。 これらの分裂片が重力収縮し,次世代の星が作られます。

膨張シェルの自己重力的分裂の三次元シミュレーション結果(動画)