ブラックホール観測の国際的な研究チーム,イベント・ホライズン・テレスコープ(Event Horizon Telescope,以下EHT)が2020年の基礎物理学ブレークスルー賞を受賞しました.
ブレークスルー賞は,生命科学・基礎物理学・数学の分野において重大な問題を解決した研究成果に対して与えられる賞で,ブレークスルー賞財団と設立出資者によって授与されます.EHTチームは,世界の8か所の電波望遠鏡をつないで観測することで,世界で初めて巨大ブラックホールが作り出す「ブラックホールシャドウ」の撮影に成功しました(詳しくは「史上初,ブラックホールの撮影に成功―地球サイズの電波望遠鏡で,楕円銀河M87に潜む巨大ブラックホールに迫る」をご覧ください).このことが「ブラックホールはどのように見えるか?」という問いに対する重要な成果と評価され受賞にいたりました.2019年4月に発表されたブラックホールシャドウ観測に関する6本の論文の著者347人が受賞対象となり, EHTチームに参加する天文シミュレーションプロジェクトの川島朋尚 特任助教も受賞者に含まれています.
川島氏を含むEHTの理論・シミュレーションワーキンググループの働きによって,観測されたブラックホール・シャドウの画像とシミュレーションとの比較検証が行われました.それにより,中心の超巨大ブラックホールの質量や,周囲のガスの回転方向,ブラックホールの自転の方向に制限をあたえました.川島氏は,国立天文台が運用するスーパーコンピュータ「アテルイⅡ」を用い,シミュレーションに用いられる一般相対性理論の効果を取り入れた光の伝わり方を計算するプログラムの開発と検証に貢献しました.詳細はCfCAウェブリリース「地球規模の望遠鏡とスーパーコンピュータで,ブラックホールの素顔にせまる」をご覧ください.
川島氏は今回の受賞を受けて「この度は非常に名誉ある賞を受賞し,チームの一員として大変嬉しく思います.今後,様々な波長での観測と理論・シミュレーションとの比較を通して,ブラックホールのごく近傍での降着円盤やジェットの物理,そしてこれらとブラックホールの自転との関係を明らかにしていきたいです」と語ります.
授賞式は2019年11月3日アメリカ合衆国 NASA エイムズ研究所で行われ,EHTチームに賞金300万ドルが授与されました.
(2019年 11月 5日 掲載)
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