偏光観測が明らかにした活動的小惑星フェートンの素顔

【概要】
 小惑星フェートン(Phaethon)は彗星に似た特異な軌道を持つ小惑星で,地球に近づくこともあります.この天体は,ふたご座流星群のもとになる塵(ちり)を供給した天体であるとされており,太陽に近づく時期には定期的に物質を放出するなど,彗星に近い性質を持つ「活動的小惑星」としても知られています.このように彗星的とも小惑星的とも言える天体の表面状態はとても興味深く,また謎の多いものです.
 国立天文台天文シミュレーションプロジェクトの伊藤孝士助教らの研究チームは,北海道名寄市においてフェートンの偏光観測を行い,この天体の表面では他の太陽系天体に比べて偏光度がとても大きいことを明らかにしました.この特徴は,(1)表面にある粒子のサイズが大きい,(2)フェートンの表面が空隙率の高い構造をしている,(3)フェートンの表面物質による反射率がとても低い,という3つの可能性があることを示しています.今回の観測結果は地球に物質を供給しながら太陽に繰り返し近づく天体の起源と進化の理解に大幅な見直しをせまるものです.
 この研究成果は2018年6月27日に英国の科学雑誌『ネイチャー・コミュニケーションズ』に掲載されました.(2018年6月29日プレスリリース)


図1:小惑星フェートンの偏光観測のイメージ図.観測は北海道で実施された.(クレジット:国立天文台)

【詳細】
 小惑星フェートン((3200) Phaethon,ファエトンとも呼ばれる)は彗星に似た特異な軌道を持つ小惑星で,地球にとても近付くこともあります.ふたご座流星群のもとになる塵を供給した天体であるとも推定され,また太陽に近づく時期には定期的に物質を放出するなど,フェートンは彗星に近い性質を持つ「活動的小惑星」として知られています.このような彗星と小惑星の両方の性質を持つ天体の表面状態は太陽系史の研究において非常に興味深く,その一方で多くの謎も残っています.

 太陽系天体の表面について知るには偏光観測がたいへん有効です.光は,それが伝わる方向とは垂直に電場や磁場の強度が変動する波です.電場の強度が変動する方向は太陽の光ではランダムですが,天体表面で反射した光では特定の方向で強く,別の方向では弱くなるという,いわゆる「偏光」を起こします.この偏光度を観測することで天体表面の情報が得られます.特に,太陽-天体-観測者のなす角度によって偏光度がどのように変化するかが重要です.

 国立天文台の伊藤孝士助教をはじめ,ソウル大学,千葉工業大学,北海道大学などの研究者が参加する国際研究チームは,北海道名寄市に設置された北海道大学 1.6 m ピリカ望遠鏡を用いて,2016年秋にフェートンの偏光を観測しました.その結果,フェートンが反射した光は強い偏光を示し,これまでに知られている太陽系小天体のなかで最大の偏光度であることがわかりました(図2).


図2:(左)最大偏光度を観測した2016年9月15日の太陽とフェートン,地球の位置関係.太陽-フェートン-地球のなす角は106.5°であった.画像は4次元デジタル宇宙ビューワー「Mitaka」を使って作成した.(クレジット:国立天文台)
(右)照らされている角度による偏光度の変化.いくつかの太陽系天体について観測値が示されているが,フェートンがもっとも偏光度が大きい.(クレジット:Ito et al. Nature Communications (2018) を改変)

 このような大きな偏光度の原因は何でしょうか.研究チームは以下のような3つの説を考えました.なお以下の説は複数が同時に働くことも考えられます.

(1)フェートン表面を覆う粒子のサイズが大きい
天体表面の偏光度は,表面に存在する粒子の大きさに強く影響され,粒子が大きいほどその偏光度が大きくなることが知られています.この観測で得られた偏光度から見積もられたフェートンの平均的な粒子の大きさは360マイクロメートル以上と推定されました.この値は月表面の粒子(<50マイクロメートル)と比べてたいへん大きなものです。フェートンは太陽のごく近くを定期的に通過するため,太陽からの熱や光の影響を強く受けます.太陽の熱で天体表面の粒が焼き固められ,サイズの大きな粒が形成されたと考えられます.また,微細な粒が太陽からの光によってフェートンの表面から吹き飛ばされたのかもしれません.

(2)フェートン表面の空隙率がとても大きい
一般に,天体表面の空隙率(すかすかな度合い)が大きいほど偏光度が大きくなることが数値シミュレーションからわかっています.フェートンの表面を覆う粒子の形状が粗く不規則な場合には,そこでの空隙率は大きくなります.不規則に粒子同士が隣り合うもののうまく収まらず,お高いの間に広いすき間を空けている状況を想像してください.このようにしてフェートン表面の空隙率が増し,大きな偏光度が達成されている可能性も考えられます.

(3)フェートンの反射率(アルベド)が従来の推定よりも低い
天体表面の反射率が低いほどその偏光度は大きくなることが知られています.先行研究によるフェートンの反射率の推定方法やデータを研究チームが再検証したところ,従来の推定よりも2割ほど反射率が低くなることがわかりました(12%→10%).フェートンの明るさ(等級)に関する従来の測定の不定性を考慮すると、この値が実際には更に小さいことも十分にあり得ます。反射率の大きさは天体の表面物性を決定する極めて基本的な情報ですが,本研究によって大きな不定性が見出され、抜本的な見直しが必要となったのです.

 これらのどの説が原因であっても,これは太陽系天体の起源と進化について大きな見直しをせまるものです.伊藤助教は以下のように語ります.「フェートンの非常に強い偏光度,そしてそれが示唆するこの天体の反射率の低さまたは表面粒子の粗さは,私達の想像を超えるものでした.特に,天体表面の反射率は天体の形成・進化の過程に関係しています.したがってフェートンの反射率が従来の推定より本当に低いのなら,天体の進化を記述する理論的な枠組みも見直しが必要となるでしょう.この事は,フェートンに代表される太陽系天体に関する私達の知識がいかに限られているかを意味します.今回の成果が契機となり,太陽系天体の研究がさらに広い視野を持って進むことを願います.」

 フェートンは宇宙航空研究開発機構(JAXA)と千葉工業大学が中心となって検討が進められている宇宙機探査計画「デスティニー・プラス」(DESTINY+,2022年打ち上げ予定)の探査対象天体であり,この興味深い天体の理解が深まることが期待されています.

 この研究成果は,イギリスのオンライン科学雑誌 Nature Communications に6月27日に発表されました.

※著者による,より詳細な解説はこちら(PDF)をご覧ください.


【論文について】

題目:Extremely strong polarization of an active asteroid (3200) Phaethon
著者:Takashi Ito, Masateru Ishiguro, Tomoko Arai, Masataka Imai, Tomohiko Sekiguchi, Yoonsoo P. Bach, Yuna G. Kwon, Masanori Kobayashi, Ryo Ishimaru, Hiroyuki Naito, Makoto Watanabe & Kiyoshi Kuramoto
掲載誌:Nature Communications
DOI:10.1038/s41467-018-04727-2

なお,この研究は韓国研究財団 研究助成番号 2015R1D1A1A01060025,日本学術振興会 科学研究費 JP25400458,JP215K13604,JP216K05546,JP218K03730,および文部科学省 科学研究費 JP217H06457 の助成をうけて行われました.

【画像の利用について】

【関連リンク】

国立天文台 プレスリリース 「偏光観測が明らかにした近地球小惑星フェートンの素顔」