最近の地球科学の発展の大きな特徴は,
以前は,地球科学研究は固体地球物理学,地質学,海洋学,気象学といった個々の学問領域にわかれて進展してきた.おのおのの専門領域がとり扱う対象は,例えば太平洋プレートのユーラシアプレートに対する運動というように,それぞれが独立した地球科学の一要素にすぎなかった. 最近になって,上の(1),(2)のような条件が成立してはじめて現実に,地球を相互作用をする要素からなる一つのシステムとしてとらえることが可能となったのである. 特に,海洋大気大循環と気候変動の関係を追究する気候システム研究や,地球圏-生物圏国際共同研究計画(IGBP, International Geosphere-Biosphere Program),その一部で,地球の各層で物質循環を明らかにし環境問題への貢献をなそうとする地球規模大気化学国際研究計画(IGAC, International Global Atmospheric Chemistry Project)などはその典型的なものである. また10年前から米国のNASA, NOAAは地球システム科学の重要性を明確に述べ,それに基づいた地球観測計画を推進している.また本申請領域に特に関係が深い国内計画としてMULTIER (= Multisphere Interaction,Evolution and Rhythm,右ページメモ参照)計画がある.
世界の海洋底の深海掘削が900ケ所で行われているが,それらの試料の年代は2億年よりも新しいものばかりである. より古い時代の深海掘削試料に相当するものは,最近になって我が国の地質学者によって採集が開始されたところであり,系統的試料確保とその解析は,諸外国ではなされておらず,これからの課題といえる.このような試料にはさまざまな変動が記録されており,地球システム科学の方法にのっとった全地球史解読の道が開かれようとしている.
要約すると,この分野の研究の国際的動向は,上記(3)地球システム科学の考えを,どう具体的に推進するかにある. 現時点ではもっぱら過去2億年間とくにそのうちの第四紀の地球環境の直接的解明に向けられているようである. もっと長い時間スケールにわたる実証的研究の必要性はまだ提案されていない. 具体的な長時間スケールの地球システム科学研究の新提案が本研究なのである.