魅力のある研究の構想

本研究計画は,地球惑星科学における新しい流れを形成するものであろう.昨年3月に福岡市で開催された科学技術庁国際異分野交流フオーラム「地球環境進化40億年」(参考資料B・4参照)における諸外国研究者との討論と評価を通じて,われわれはその事実を確信できたと考えている.このフオーラムにおいてわれわれは,本計画の研究構想・最新のアイディア・最新のデータ・最新の解釈などを提示し,それを国内外研究者の討論と批判の場に公開してみた.招待した研究者達の専門分野は極めて広範囲にわたり,天体物理学から古生物学,非線形数理物理学,野外地質学者に至るまでの第一線で活躍する研究者が七日間にわたって一堂に会した会場での議論は,連日早朝から深夜に及んだ.後半になると議論のほとんどがわれわれの計画に対し肯定的なものとなり,建設的な示唆も得られた.外交辞令分を差し引いても,われわれの研究計画が地球惑星科学の将来を見据えたものであり,諸外国の指導的研究者にとっても非常に魅力的なものであるということが確認されたし,われわれが既に得た成果も高く評価されたと考えている.


諸外国が必ず追従してくる全地球史解読という目標の意義

堆積物のなかには1年単位の縞模様の見られる地層もあるので,全地球史を年単位で解読できるであろう.環境によっては浅海性陸源堆積物が潮汐のリズム(半日単位)まで記録しているものもある.縞のある地層の連続試料は地球史はもとより宇宙史までを記録しているほとんど唯一の媒体であり,いわばタイムマークつきテープとみてよい.これを調べれば高い時間分解能で現象の変動が解読でき,そのために解明できそうな謎はたくさんある.例えば 30億年前の特定の100万年の間に火山爆発や隕石衝突がどの程度あったか? 1000年間に大地震や台風は何回あったのか?恐竜の絶滅は本当に一瞬の出来事であったのか? あるいは,特定の1年間について,気温,降水量,季節変化などの日常的環境はどんなものであったのか? ひょっとすると,現在のわれわれに想像できないような何事かがあったかもしれない.ただし,このテープは人間が設計したものでなく変質もしているから,タイムマークまで含めて解読を必要とする.

全地球史を年単位で解明することは,一見馬鹿げたことに見えるかも知れない.このテープから読み取れる情報には,地球上の環境変動はもとより,生命の発生進化,銀河系や太陽系の変動まで含まれている.その解読は天文学,生物学など他の分野にも大きな波及効果がある.このような性格の解読計画には,人類が総智をかたむけるに値する重要な意義があるといえよう.もちろん,それは易しくはなく,長年月を要する仕事である.しかし,われわれは具体的な研究戦略を確保したので,実行可能で挑戦に値する研究計画であり,始めれば諸外国でも組織的なやり方で追従してくるものと確信できる.


意義の大きさを認識して戦略を考える

我々はアメリカを中心にして多大な成果をあげた深海掘削計画に学ぶことができる.この計画は1968年から始まり,地球のほぼ全域をカバーする海洋地域に約900本の掘削を完了した現在もなお,ODP計画*として引き継がれているが,国家が組織的なやり方で莫大な資金を四半世紀にわたって投下し,膨大な数の研究者を国の内外にわたって集めた.その結果,プレートテクトニクスの確立という大きな成果を産み出したが,アイデアの起源はヨーロッパの小国,オランダ,フランス,ドイツ,及び特に英国に蓄積されていた地球的規模の学問観と海洋調査の実績にあり,それをアメリカが組織的なやり方で追随,凌駕した例である.

このODP計画の場合には,過去2億年の地球の環境の歴史を読みだすことができた.われわれは,このような国際的に大きな諸計画がどのように発想され,どのように発展してきたかその経緯を調べ,今だ手のつけられていなかった過去40億年間を扱う本研究の立案にも役立てている.すなわち,原理的,基本的な考えや方法論をまずおさえ,重要な具体例を示すことでパラダイム形成を計ろうという計画である.


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