本研究は日本の研究者独自の発見,アイディア,新しい手法などの実績を組み合わせた特色のある構想に基づく. しかし,すでにわが国の研究者によって発表されている文献から,あるいは国際会議などにおける討論を通じて,この考え方が諸外国に真似され,先方が先に走ることが予測される. 従来しばしばそうであったように,新しいやり方の組織的研究の着手が日本では遅れ,せっかく得ている我が国の先導的地位(滅多にないことだ)を失うのは,「国粋主義である」といわれてもやはり残念である.
全地球史を解読する試みは,生命科学におけるヒトの全ゲノム(約40億個)解読の地球宇宙科学版であると言える. これは,われわれの手法が明らかになれば,諸外国が必ずすぐに追従してくる大きな研究目標のひとつである.
このようなわが国の地質学者の先駆的寄与と実績を受けて,それを生かして具体的な全地球史解読を推進するために,われわれは必要な物理的考え方やテクノロジーを精力的に検討した. その結果関連分野が協力することで直ちに研究をブーストすることが可能であり,かつ時機を得ていることが明らかになったのである.言わばわれわれは「ヤレル!」と確信し,特に若手研究者のやる気が昂揚しているところである. そこで,このような研究を実質的に遂行するためには,多方面の専門家による組織的な研究の推進を速やかに計るのが最も適切であると判断されたので,これにそった重点領域研究班を組織したのである.
この研究課題の性格と趣旨は,地球惑星科学関係の諸分野間の相互連携を,単にデータの流通や個別研究の協力共同だけでなく,地球惑星科学研究の考え方や方法に新しい総合的要素を加えることによって進めることにもある. 折しも昨今,わが国の国立大学における地球科学系学科は再編と大学院重点化政策の模索段階にある. 具体的には従来,博物学的色彩の濃い個別的地質学の対象であった地層や岩石の研究に物理学の方法を導入することにより,地質学関係の諸分野の刷新をはかり,地球惑星科学の研究教育の基盤確立と研究手法の刷新近代化を行なおうとしている. 本研究はそのような方策における先導試行の具体例であり,これを明示して実効をもたらすのは,今をおいて他に機会は少ない.