概要
京都大学大学院人間・環境学研究科 藤井悠里助教、上海交通大学李政道研究所 荻原正博准教授、岡山大学学術研究院環境生命自然科学学域 堀安範准教授の研究グループは、惑星の表面磁場強度の違いに着目し、木星と土星の周りの巨大衛星に関する謎を解くシナリオを提唱しました。形成直後のガス惑星の内部構造をシミュレーションし、惑星表面における磁場強度を計算しました。そして、惑星の周りのガスの流れを詳細に解析し、円盤状に回転するガスの中での衛星の形成とその軌道進化を国立天文台の「計算サーバ」を用いた数値シミュレーションによって研究しました。表面磁場強度が強い木星では、磁気圏降着という、木星の磁場に沿ったガスの流れが生じる一方、土星は磁場が弱いため磁気圏降着が起きません。この違いが、惑星近くに4つの巨大衛星をもつ木星と惑星から離れた位置にひとつだけ巨大衛星をもつ土星という、衛星系の違いの謎を解く鍵になります。この成果は、今後の系外衛星の探査において発見が期待される衛星系の構造の予想にも役立ちます。
本研究成果は、2026年4月2日に英国の国際学術誌Nature Astronomyにオンライン掲載されました。(2026年4月8日プレスリリース)

ダウンロード: [PNG (4.9 MB)]
詳細
太陽系には、木星と土星のふたつのガス惑星があります。木星には100個以上の衛星がありますが、なかでもイオ、エウロパ、ガニメデ、カリストの4つが他の衛星に比べて抜きん出て質量が大きく、木星の衛星全体質量のほぼ全てを占めています。これら4つは、17世紀にイタリアの科学者ガリレオ・ガリレイによって観測されたことから「ガリレオ衛星」と呼ばれています。一方、土星は280個以上の衛星を持つことが知られていますが、それら全ての質量の95%以上を巨大衛星タイタンが占めています。ガリレオ衛星が木星のすぐ近くの軌道を回っているのに対し、タイタンは土星から少し離れたところを周回しているという特徴の違いがあります。このような巨大衛星の個数やその軌道の違いがどのようにして生じるのかは、よくわかっていません。
巨大衛星系の違いを知る上で重要と考えられるのは、その形成プロセスの違いです。ガス惑星がガスの大気を獲得する際には、惑星の周りにガスが円盤状に集まります。巨大衛星は、このガス円盤の中で形成されたと考えられています。したがって、ガス円盤の構造や組成によって、そこで生まれる衛星の特徴が大きく影響を受けます。ガス円盤の構造は、ガスの密度や温度、惑星の質量、惑星が持つ磁場などによって決まります。ガス円盤の構造やその時間変化の様子が惑星磁場から受ける影響を仮定して、木星と土星の衛星系の違いを説明するという研究はこれまでにもありましたが、その設定が正しいかどうかについての検討は十分ではありませんでした。衛星形成における惑星磁場の影響を理解するためには、惑星磁場強度を計算し、ガス円盤と磁場との相互作用を調べる必要があります。
本研究では、ガス惑星の内部構造やガス円盤にはたらく基本的な物理メカニズムを考慮した計算を行うことで、ガス惑星の周りで起こる衛星形成の様子を調べました。形成初期の木星と土星の内部構造を数値シミュレーションによって調べ、惑星表面における磁場強度を計算しました。その結果、内部では数倍程度の差しかない磁場強度が、惑星表面では100倍程度木星のほうが強くなることが分かりました。土星に比べ木星の半径は1.2倍程度ですが、質量は3倍以上あります。実はこの差が、木星と土星の表面磁場強度の差を生み、さらに衛星系の違いを生んでいたことが分かりました。
惑星の表面磁場に加え、研究チームはガス円盤構造の詳細な解析と衛星の形成・軌道移動の数値シミュレーションを国立天文台が運用する「計算サーバ」を用いて行いました。ガス円盤の一部が電離されプラズマ化すると、ガスは惑星の磁場に沿って流れます(図2左)。これを「磁気圏降着」と呼びます。磁気圏降着が起きるかどうかは、ガスの流れの勢いと磁場の強度の兼ね合いに依って決まります。十分磁場が強い木星の場合は、この磁気圏降着が起こります。そしてガス円盤内に形成された衛星は、円盤ガスとの相互作用で木星に向かって円盤内部を軌道移動しますが、円盤の内縁で堰き止められます。そのため、円盤の内縁に移動してきた衛星が、衛星同士の重力相互作用で次々と安定した軌道を持つようになり、ガス円盤にとどまります。一方、磁場が弱い土星の場合は、磁場がガスの勢いに負けてしまうため、磁気圏降着が起こりません(図2右)。土星の付近に移動してきた衛星は円盤にとどまることができず、土星に飲み込まれてしまいます。その結果、土星の近くには衛星が生き残らず、外側の軌道で形成されたタイタンだけが生き残ります。

ダウンロード: [JPG (269.5 KB)]
本研究が行った惑星の磁場強度や惑星を取り巻くガス流、衛星の形成と軌道の時間変化を取り入れた初めての整合的な計算によって、木星と土星の巨大衛星系の違いを説明することに成功したのです。それぞれの惑星が誕生した頃の表面磁場の強さの違いが、巨大衛星系の違いを生み出したのかもしれません。
木星と土星の最大の違いとも言える土星の環の形成について、土星に近づきすぎた衛星が潮汐力で粉々に砕かれるという研究があります。衛星の形成に着目した本研究では、環の形成については議論しませんでしたが、本研究が提唱するシナリオは、土星の周りに環の形成材料となる衛星が供給されるという状況と整合的です。
さらに本研究の結果から、今後の発見が期待される太陽系外惑星の衛星を探査する上での重要な示唆が得られました。木星やそれより大きな系外惑星の周りには、惑星の近くに複数の衛星が、土星くらいのサイズの惑星の周りには、惑星から少し離れた辺りに1-2個の衛星が発見される可能性が高いと予想されます。
本研究をリードした京都大学の藤井悠里 助教は、「木星と土星の質量の違いが惑星表面での磁場強度の違いを生み、それによって巨大衛星系の違いを説明できることを初めて示しました。太陽系の外にはまだ衛星は発見されていませんが、将来の発見に向けた探査計画で探るべきパラメータの選定に役立つことを期待します」と、本研究の意義と将来への展望を述べています。
論文情報
タイトル:"Different architecture of Jupiter and Saturn satellite systems from magnetospheric cavity formation"
著者:藤井悠里(京都大学)、荻原正博(上海交通大学李政道研究所)、堀安範(岡山大学)
掲載誌:Nature Astronomy
DOI: 10.1038/s41550-026-02820-x
本研究で用いられた計算機について
関連リンク
- 国立天文台:木星と土星の衛星系の違いを決めるのは磁場
