重力波天体追跡観測チームの研究者らが文部科学大臣表彰の科学技術賞を受賞

 国立天文台のすばる望遠鏡やスーパーコンピュータ「アテルイ」を用いた研究などで業績をあげた研究チームの研究者が、平成31年度 科学技術分野の文部科学大臣表彰の科学技術賞(研究部門)を受賞しました。受賞者は、国立天文台ハワイ観測所長の吉田道利(よしだみちとし)教授、東北大学の田中雅臣(たなかまさおみ)准教授、スタンフォード大学の内海洋輔(うつみようすけ)物理科学研究員です。
 受賞対象となった業績は「中性子星合体重力波現象の光赤外線対応天体の研究」です。表彰式は、2019年4月17日に文部科学省 (東京都千代田区) にて執り行われました。



図1:本賞を受賞したスタンフォード大学の内海洋輔物理科学研究員(左)、国立天文台ハワイ観測所長の吉田道利教授(中央)、東北大学の田中雅臣准教授(右)。2019年4月17日、表彰式会場にて撮影。(クレジット:国立天文台)

 2017年8月17日、米国、欧州の重力波望遠鏡が、重力波源「GW170817」からの信号を観測しました。吉田教授らを始めとする日本の研究チームは、その重力波源の追跡観測をいち早くすばる望遠鏡などを用いて行い、その結果、重力波源の光赤外線対応天体を捉えることに成功しました。重力波源の電磁波観測の初めての例となったのです。さらに、この天体の明るさの変化の特徴が、中性子星同士の合体に伴って鉄よりも重い元素が合成される際に生じる電磁波放射現象のシミュレーション予測とよく一致することも明らかになりました。これは、宇宙における重元素の起源の解明につながる重要な成果です。



図1:日本の重力波追跡観測チームJ-GEMが撮影した重力波源GW170817。うみへび座の方向にある銀河NGC 4993で発見され、地球からの距離は約1億3000万光年。ハワイのすばる望遠鏡のHSCによる可視光線観測(zバンド:波長 0.9マイクロメートル)と、南アフリカのIRSF望遠鏡のSIRIUSによる近赤外観測(H バンド:波長 1.6 マイクロメートル、Ks バンド:波長 2.2 マイクロメートル)を3色合成したもの(青:z バンド、緑:H バンド、赤:Ks バンド)。2017年8月24日-25日の観測では、天体が減光するとともに赤い色を示している(近赤外線で明るく光る)ことが分かる。(クレジット:国立天文台/名古屋大学)

 このたびの受賞に際し、研究グループを代表する吉田教授は次のように述べています。「重力波と電磁波の協調観測によるマルチメッセンジャー天文学の創生に寄与することができて、たいへんうれしく思います。今回の成果は、すばる望遠鏡と、日本の大学の望遠鏡群との緊密な連携なくしては成しえませんでした。研究チームのメンバーに感謝いたします。今後も、大学共同利用機関と大学とのコラボレーションを進め、より大きな成果へとつなげていきたいと思います」

 また、すばる望遠鏡による観測で中心的役割を担った内海研究員は、「自分たちで開発した観測装置、ツールを駆使し、分野の垣根を超えて集まった仲間が知恵を出し合うことで、今回の初めての観測を達成できました。そして、このような名誉のある賞につながったことをとてもうれしく思います。これからも成果を挙げられるように頑張ります」と述べています。

 理論予測を中心に研究を進めてきた田中准教授は、「このような栄えある賞をいただきたいへん光栄に思います。シミュレーションで予想していたような電磁波のシグナルが観測されたこと、そして長年の謎だった重元素の起源を解く手掛かりを得られたことをとてもうれしく思っています。しかし、まだ一例の観測ができただけで、元素の起源が解明されたとは言えません。今回の受賞を励みにして、今後さらに重力波天体のマルチメッセンジャー観測を成功させたいと思います」と語っています。田中准教授が行ったシミュレーションには、スーパーコンピュータ「アテルイ」が用いられました。



図3:重力波源GW170817で実際に観測された明るさの変化(●)と、田中准教授が行ったシミュレーション(実線・破線)の比較。青が可視光線、赤が近赤外線を表している。実線は重元素の生成が起こる場合、破線は重元素の生成が起こらない場合に予測される明るさの変化をあらわしている。重元素の生成が起こる場合のシミュレーション結果と観測とがよく一致していることが分かる。(クレジット: 国立天文台)

(2019年 4月 18日 掲載)

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