近づく双子の天体、ブラックホール合体への道も開く

概要

法政大学、東京大学、北京大学の研究チームは、2つの天体が互いに回り合う「連星」が、周囲から流れ込むガスと磁場の働きによって近づいていく、新しい軌道進化のシナリオを提案しました。これまで、連星のまわりのガスは、場合によっては2つの天体を引き離す方向にはたらくこともあり、近い距離で回り合う双子星がどのようにできるのか、また巨大ブラックホールのペアがどのように合体へ向かうのかは大きな謎でした。本研究では、国立天文台のスーパーコンピュータ「アテルイⅢ」などを用いた3次元シミュレーションにより、連星周囲のガスが磁場で流れを乱されたりガスが外側に吹き出したりすることで、連星の回転の勢いが外へ運び去られ、2つの天体の間隔が縮むことを示しました。この成果は、近接した双子星の形成過程を説明するとともに、銀河中心の巨大ブラックホールが合体し、重力波を生み出すまでの道筋を理解する手がかりになります。
本研究成果は、英国の天⽂学誌 Monthly Notices of the Royal Astronomical Societyに2026年4月10日(日本時間)に掲載されました。(2026年6月5日 プレスリリース)



図1:「アテルイⅢ」によって計算された連星周囲のガスの様子。青いガスは周連星円盤(連星を取り囲む円盤)、赤いガスは星周円盤(各々の星を取り囲む円盤)を表す。2個の濃い灰色の球は連星の位置を表す。星から垂直に伸びる緑色の二対の構造は星から放出されるガス(アウトフローまたはジェット)を表す。アウトフローの芯に磁力線を表示している(クレジット:Matsumoto, Hotokezaka, Inayoshi 2026)
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詳細

宇宙には、2つの星が互いのまわりを回る「連星」*1が数多く存在します。太陽のような星も、必ずしも単独で生まれるわけではなく、2つ以上の星がペアとして生まれることがあります。特に、質量がよく似た2つの星からなる「双子星」は、観測でも多く見つかっています。しかし、観測されるような近い距離で回り合う双子星が、どのようにしてそこまで近づいたのかは、まだよく分かっていません。

同じような問題は、銀河の中心にある巨大ブラックホールにもあります。多くの銀河の中心には、太陽の数百万倍から数十億倍もの質量をもつ巨大ブラックホールが存在します。銀河どうしが合体すると、それぞれの中心にあった巨大ブラックホールもペアを作ると考えられます。しかし、2つのブラックホールが最後に合体するためには、互いの距離を大きく縮めなければなりません。どのような仕組みでそこまで近づくのかは、長年の謎でした。

2つの天体が近づくためには、回転の勢いを外へ逃がす必要があります。ここでポイントになるのがガスです。星が誕生するときには星の材料であるガスが星に降り注ぎ、連星は成長しながら連星の動きも変わります。また、ふたつの銀河が合体するとき、巨大ブラックホールの連星の周囲には豊富なガスがあると考えられています。ところが、これまでの研究では、連星のまわりにあるガスは、場合によっては2つの天体を近づけるどころか、むしろ引き離す方向にはたらくことも示されていました。そのため、「連星はどのようにして近づくのか」という問いは、星の誕生と巨大ブラックホールの合体の両方に関わる重要な問題でした。

法政大学 人間環境学部 松本倫明教授、東京大学大学院 理学系研究科附属ビッグバン宇宙国際研究センター 仏坂健太准教授、北京大学 カブリ天文天体物理研究所 稲吉恒平准教授からなる研究チームは、連星のまわりに外側からガスが流れ込み続ける状況を考え、さらに連星の周囲に存在する磁場*2の効果を取り入れた研究を行いました。磁場は、地球のまわりにも存在する身近なものですが、宇宙ではガスの流れを大きく変える重要な役割を果たします。特に、回転するガスの円盤では、磁場によってガスの動きが乱れたり、ガスの一部が上下方向に吹き出したりします。

このような複雑な現象を調べるため、研究チームは国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイII」「アテルイIII」などを用いて、3次元の大規模シミュレーションを行いました。計算では、2つの天体の動きだけでなく、そのまわりにできるガスの円盤、外から流れ込むガス、磁場、そして外へ吹き出すガスの流れを同時に追跡しました。

今回の研究では、アテルイⅡやアテルイⅢの性能を活かすことで、磁場によって乱れたガスの流れを精度よく計算することができました。さらに、連星の間隔の200倍もの巨大な空間をシミュレーションが可能となり、吹き出すガスの流れの様子を現実に近い形で計算することに成功したのです。

これまでの研究では、計算資源の制約や技術的な困難さから、磁場の効果を取り入れない計算が主流でした。連星周囲へ流れ込むガスの運動と磁場の効果を同時に取り入れたことが本研究の特色です。

動画:「アテルイⅢ」によって計算された連星周囲のガスの様子。動画の前半は連星付近を拡大して表示し、動画の後半は計算領域全体を表示している。周連星円盤(連星を取り囲む円盤)に垂直に伸びるアウトフローが、回転の勢いを遠くに運んでいる様子が分かる。(クレジット:Matsumoto, Hotokezaka, Inayoshi 2026)
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シミュレーションの結果、磁場の効果を入れた場合には、2つの天体の間隔が少しずつ縮んでいくことが分かりました。図1および動画は、その計算結果を可視化したものです。連星の周りのガスの円盤には渦巻き構造の他に、磁場によって乱れたガスの流れが生じています。さらに磁場に沿うようにガスが上下方向へ吹き出していく様子が分かります。これらの働きによって、連星が持っていた回転の勢いが外側へ運び去られ、2つの天体が近づいていきました。

一方、磁場の効果を入れない計算では、2つの天体の間隔はむしろ広がりました。図2は、連星の軌道の大きさが時間とともにどう変化するかを示したものです。磁場がない場合には軌道が広がるのに対して、通常の強さの磁場や、より強い磁場がある場合には、軌道が縮んでいくことが分かります。今回の計算では、磁場がある場合、連星の距離は1周するごとに約0.3〜0.7パーセントの割合で縮みました。一見小さな変化ですが、宇宙の長い時間の中では大きな違いを生みます。



図2:連星軌道の進化。磁場がない場合には連星の軌道長半径は増加する(連星が離れる)が、磁場があると軌道長半径は減少する(連星が近づく)。(クレジット:Matsumoto, Hotokezaka, Inayoshi 2026)
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この結果は、外から流れ込むガスと磁場をともに考えることで、連星が近づく新しいシナリオを描き出しました。これは、巨大ブラックホール同士の連星にも応用できます。近い双子星がどのように作られるのか、また巨大ブラックホールのペアがどのように合体へ向かうのかを理解するうえで、新しい手がかりになります。

本研究は、星の連星と巨大ブラックホール連星という、一見まったく異なる天体を、同じ物理のしくみで理解できる可能性を示しました。今後は、より長い時間の計算や、さまざまな条件でのシミュレーションを行うことで、このしくみがどのような環境でどれほど有効にはたらくのかを明らかにしていく必要があります。

また、巨大ブラックホール連星が合体すると、重力波*3が発生します。近年、非常に低い周波数の重力波を探る観測が進んでおり、本研究で示したようなガスと磁場による軌道の縮小は、将来の重力波観測を解釈するうえでも重要になる可能性があります。連星がどのように近づき、最終的に合体へ向かうのかを明らかにすることは、星の誕生から銀河の進化まで、宇宙のさまざまな階層をつなぐ重要な課題です。

論文情報

タイトル:"Magnetic-field-induced inspiral of binaries with circumbinary disc: black hole and protostellar systems"
著者:松本倫明(法政大学)、仏坂健太(東京大学)、稲吉恒平(北京大学)
掲載誌:Monthly Notices of the Royal Astronomical Society
DOI: 10.1093/mnras/stag669

用語集

1) 連星
2つの星やブラックホールなどの天体が、互いの重力によって引き合いながら、共通の中心のまわりを回っている天体系のこと。夜空に見える星の中にも、単独の星ではなく、連星として存在しているものが数多くあります。

2) 磁場
磁石のまわりにできるような、磁気の力がはたらく空間。地球にも磁場があり、方位磁石の針が北を向くのはそのためです。宇宙にも磁場は広く存在しており、ガスの流れを変えたり、ガスを細長く吹き出させたりする重要な役割を果たします。

3) 重力波
非常に重い天体が激しく動いたときに生じる、空間のゆがみが波のように伝わる現象。特に、ブラックホールや中性子星のような高密度の天体が合体するときに強い重力波が発生します。重力波を調べることで、光では見ることが難しい天体の合体や宇宙の歴史を探ることができます。

本研究で使用されたスーパーコンピュータについて


今回の研究では、国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイⅡ」(Cray XC50、左)および「アテルイⅢ」(HPE Cray XD2000、右)が利用されました。アテルイⅡは理論演算性能3.087ペタフロップス(1ペタフロップスは1秒間に1千兆回の演算ができる性能を表す)のシステムで、2024年8月まで運用されていました。その後継機であるアテルイⅢは2024年12月に運用が開始された天文学専用スーパーコンピュータです。総理論演算性能は 1.99 ペタフロップスの性能を有し、メモリバンド幅が⼤きい「システム M」と、メモリ容量が⼤きい「システムP」の 2 つのシステムから構成されています。(クレジット:国立天文台)

助成等について

本研究で行われたシミュレーションは、国立天文台天文シミュレーションプロジェクト(CfCA)のCray XC50(アテルイ II)・HPE Cray XD2000 (アテルイ III)、ならびに京都大学基礎物理学研究所のYukawa-21によって行われました。
また、JSPS科研費(18H05437, 17K05394, 20H05639, 20H00158, 23K03464, 23H01169, 23H04900)、科学技術振興機構 (JST) 創発的研究支援事業(JPMJFR2136)、National Natural Science Foundation of China (Grant Nos. 12573015, W2532003, 1251101148, and 12233001)、the Beijing Natural Science Foundation (IS25003)、the China Manned Space Program (CMS-CSST-2025-A09)の支援を受けて行われました。

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