【中性子星合体からの電磁波放射】
宇宙には「中性子星*」と呼ばれる,1cm3あたり1兆kgもの超高密度をもつ極限天体が存在しています.2つの中性子星が合体すると,非常に強い重力波**が放たれることが予想されており,KAGRAをはじめとする次世代重力波望遠鏡は,この「中性子星合体」からの重力波を直接検出することを目指しています.中性子星合体からは電磁波も放出されることが期待されていましたが,その性質は謎に包まれていました.
私たちは,アテルイを用いて中性子星合体からの電磁波放射をシミュレーションすることに成功しました.その結果,可視光線から近赤外線にかけて「赤い」放射が起き,超新星爆発とは全く異なる見え方をすることが明らかとなりました.この計算によって,重力波が検出された後にどのような電磁波観測をすれば良いかが分かったため,重力波と電磁波の観測を合わせた「マルチメッセンジャー天文学」への道が開かれたと言えます.
動画:アテルイを使ってシミュレーションした中性子星合体の時に放射される電磁波の様子.
[クレジット] 田中雅臣,仏坂健太,国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト
アテルイでは中性子星合体そのものの数値相対論シミュレーションも盛んに行われており,中性子星合体の理解は急速に進んでいます.アップグレードしたアテルイを使って,最新の数値相対論シミュレーション結果をもとにした,より高い解像度の計算を行うことで,さらに正確な放射の予言を提供したいと考えています.
【注】
*中性子星:重い星の進化の最終段階で生成される,中性子でできた高密度な天体.太陽ぐらいの質量をもちながら,半径は約10kmほどしかない.
**重力波:一般相対性理論によって予言されている,光速でつたわる時空のさざ波.中性子星連星合体のような強重力をもつ天体が高速で運動をする現象の他に,超新星爆発の瞬間や,宇宙初期のインフレーションによっても発生すると考えられている.
【論文】
"Radiative Transfer Simulations of Neutron Star Merger Ejecta", Masaomi Tanaka and Kenta Hotokezaka 2013, ApJ, 775, 113
[ADS][arXiv]
【関連リンク】
・「天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイ」,さらに2倍の計算速度へ」(2014年11月13日CfCAプレスリリース)
・「中性子星合体からの電磁波放射」:国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト
【画像の利用に関して】
本サイトの画像の利用に関しては「自然科学研究機構 国立天文台 ウェブサイト 利用規程」に従ってください.