宇宙線誕生過程の解明に大きく迫る:スーパーコンピュータ「京」を使った 1 兆粒子シミュレーションで強い天体衝撃波の 3 次元構造を世界で初めて解明

【概要】
千葉大学大学院理学研究院 松本洋介 特任准教授、東京大学大学院理学系研究科 天野孝伸 准教授、星野真弘 教授、国立天文台天文シミュレーションプロジェクト 加藤恒彦 専門研究職員の研究グループは、スーパーコンピュータ「京」を使った超大規模数値実験により、 超新星爆発等によって発生する強い天体衝撃波の 3 次元構造を世界で初めて明らかにしました。約 1 兆個のプラズマ粒子の運動を追跡することで、「冷たいプラズマがどうやって宇宙線のエネルギーまで加速されるのか?」という宇宙線誕生過程の解明に大きく近づくことができました。本成果はアメリカ物理学会が発行する Physical Review Letters 誌に掲載されました。(2017年 9月 25日 プレスリリース)



図:(上段)衝撃波の 3 次元構造。色は電子密度を表す。(中段右)衝撃波の上流側で電場の 波(色)と共鳴するサーフィン加速中の電子の軌道(球)を表す。(中段左)衝撃波近傍の強い乱流磁場(色)によって散乱されながら波面に沿って横滑り(ドリフト)する電子の運動の様子。(下段)それぞれの加速メカニズムに対応するイメージ図(Matsumoto et al., PRL, 2017 の図より改編)

この研究成果は 2017年 9月 25日に千葉大学よりプレスリリースされました。リリースの詳細については以下を御覧ください。
千葉大学プレスリリース「宇宙線注入問題の解決に大きく迫る:スパコン「京」を使った超大規模数値実験の成果を発表」(PDF)

【論文名】
題目:Electron surfing and drift accelerations in a Weibel-dominated high-Mach-number shock (和訳:ワイベル乱流が卓越した高マッハ数衝撃波中の電子のサーフィン・ドリフト加速)
著者:松本洋介(千葉大学)、天野孝伸(東京大学)、加藤恒彦(国立天文台)、星野真弘(東京大学)
掲載誌:Physical Review Letters
DOI:https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.119.105101

本研究成果は、理化学研究所のスーパーコンピュータ「京」(課題番号: hp150133、hp150263、hp160212、hp170231)及び国立天文台天文シミュレーションプロジェクト Cray XC30「アテルイ」を利用して得られたもので、科学研究費補助金基盤研究(C)26400266、文部科学省ポスト 「京」重点課題 9「宇宙の基本法則と進化の解明」および計算基礎科学連携拠点(JICFuS)により援助を受けて行われました。


【研究者からのコメント】

加藤恒彦 (国立天文台天文シミュレーションプロジェクト 専門研究職員)

「宇宙空間には宇宙線と呼ばれる高エネルギー粒子が飛び交っています。その起源についての有力な説のひとつは、超新星爆発などに伴って宇宙空間のプラズマ中に発生する衝撃波で粒子が加速されるというものです。しかし、プラズマ中での衝撃波の形成過程やそこで起きる粒子加速過程は、様々な現象が複雑に関係するとても難しい問題です。特に音速の数十倍以上もの速度を持つ衝撃波の 3 次元的な構造や電子の加速過程については詳しくわかっていませんでした。今回の研究でわたしたちは、主にスーパーコンピュータ『京』を用いて 1 兆個もの粒子を使った大規模な 3 次元プラズマシミュレーションを行いました。それにより、音速を大きく超える高速な衝撃波の 3 次元的な構造を世界で初めて電子スケールの現象レベルから明らかにしたほか、衝撃波周辺で発生する電気的な波と磁場の乱れという 2 つの要因が関係して、電子が相対論的な高エネルギーまで効率良く加速される事を明らかにしました。これは、宇宙の高エネルギー粒子の起源を素過程から理解する重要な一歩になると考えています。なお、この計算の準備段階では国立天文台のスパコン「アテルイ」も使用しました。今後、わたしたちの研究グループでは、様々な状況下での衝撃波の形成や粒子加速過程について引き続き研究していく計画です。」


【関連リンク】
千葉大学大学院 理学研究科
東京大学大学院 理学系研究科
スーパーコンピュータ「京」:独立行政法人理化学研究所 計算科学研究機構(AICS)
HPCI戦略プログラム分野5

「スーパーコンピュータ「京」で解き明かした宇宙線加速:天体衝撃波における高エネルギー電子生成機構の新理論を発表」(2015年 2月 27日 プレスリリース)
「宇宙空間のプラズマ粒子の“なぜ?”に迫る」計算基礎科学連携拠点(2013年 松本洋介インタビュー記事)