P/T境界問題へのアプローチ

わが国におけるP/T境界層の発見は,微化石放散虫による中-古生代付加体の内部構造の解明によってもたらされた.一般にチャートは赤鉄鉱の色を反映して赤みを帯びているが,P/T境界周辺だけは暗緑色ないし黒色で,有機炭素や硫化鉄が含まれている.現在までにP/T境界周辺のチャート層の詳細な調査が行われ,図のような地質柱状図が得られている.また,P/T境界層から採集された試料の硫黄同位体組成の分析も行われており,得られたデータは当時の深海底に還元的な環境が出現したことを示唆している.酸欠状態がどれくらい激しかったかを推定するために,P/T境界層中に含まれる有機炭素量を見積る必要がある.よむ班における当面の課題は,

  1. 有機炭素が生物起源であるかどうかを炭素同位体組成の分析で明らかにすること
  2. 硫化鉄の沈殿した環境を化学熱力学的に明らかにし,当時の酸欠状態を定量化すること
である.


初期地球における地球外物質の集積率

地球史を通じて,地球外から彗星や小惑星がたびたび衝突して地球システムにインパクトを与えた.その結果は恐竜の絶滅のように生態系の破壊から気候の激変,ひいては大陸分裂や大規模火成活動を誘発した可能性がある.このような地球外物質の落下頻度は,堆積物中のイリジウムの異常濃集から推定できる.

グリーンランドのイスアから採集された38億年前のチャート中のイリジウムの分析が進められている.厚さ5mのチャート層中に5層準からイリジウムの濃集層が発見された.過去1億年間(固結した地層に換算すると約100m)で深海底堆積物中にイリジウムの濃集が発見されたのは,白亜紀末と始新世末だけであり,初期地球では地球外物質の落下頻度が高かったことが明らかにされつつある.

sample#	Ir/ppb  Ru/ppb
524	2.6	     -
525	5.6          -
575	1.5	     -
576	1.8	     -
655	3.0	   4.5
(分析は東京都立大学海老原充による)


太古代マントルの化学組成

現在までに,オーストラリアのピルバラクラトン(35億年前)の玄武岩(太古代のMORBとOIB)の分析が進められている.その結果,太古代のマントルは現在よりもFeOに富んでいることが分かった.現在の海洋上部マントルのオリビン結晶のMg値は90であるが,太古代では86である.このようなデータから,太古代の中央海嶺玄武岩の生成圧力が,現在(7-8kb)に比べてかなり高く(20kb),より深部で融解したこと,結晶分化を受けた深さも深いこと,部分融解の程度も大きかったことがわかってきた.希土類元素の存在度は,現在のものよりコンドライト組成に近く,地殻とマントルの分化は進んでいなかったらしい.


BIF,ストロマトライトの縞の解析

これらの縞の成因を解明し,その周期性を明らかにすることによって,太古代の環境の周期的繰り返しに関する情報が得られ,ひいては月-地球系力学進化やA/P境界の仮説検証の材料となる.現在,オーストラリアのピルバラクラトンのBIFの化学組成,鉱物組成の分析が進められ,縞の周期性の解析が進められている.BIF試料にシュウ酸鉄が発見され,BIFの形成にバクテリアが関与している可能性が高まった.

ストロマトライトの縞の解読のため,シアノバクテリアの飼育実験が開始されている.


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