5.4 主要研究項目A02 とけい

[研究内容]

堆積物の縞には 0.1mm から数 km 以上の広い空間スケールにわたって多数の周期的な成分とその乱れとがある.縞の周期的成分を時計の目盛に見立ててそれを物理学的な時計として確立する研究を行ない,該当する時代の地球の自転速度を決定する.

縞を読む手法(理論と実際)の確保の他,広い時間スケールをカバーする下記の4系列の時計の研究,および新しい有力な時計の探索も行なう.それらの相互の較正を理論および地層の縞との同定によって行ない,時計の刻みの変動を解明する.

(1)潮汐時計とミランコビッチ時計:天体力学的クロノメーター

地球を質量,慣性モーメント,力学的偏平率 という単純な三本の毛しかない没個性的一天体と見なすことによって,短い時間差測定用のラップタイム計測のための天体力学的な時計が明快に成立する.これは半日の潮汐周期から10万年のミランコビッチ周期まで時間スケール比10^{6}を地球の偏平率という一元的要因でカバーする.

(2)太陽時計: 天体物理学的クロノメーター

天体の恒常的な自励的振動で,地球上にマークを残すものとして,太陽活動の周期性を研究する.地球磁場変動,宇宙線照射変動や気候と相関のある11年周期から 2,300年周期などを縞に同定する.また,さらにもっと長期間にわたる長周期の太陽の活動周期を探索する.

(3)絶対時刻(年代)精密測定用クロック

本研究には高精度の年代測定が不可欠であるので,目的に合うジルコンなどの放射年代測定法(U-Pb)の国内における確立をはかる.

(4)特定時刻をきめるイべントマーカー

地質学における鍵層はこれをもたらした事件とその時刻を示す物証である.このようなイベントマーカーとして,地磁気の逆転,巨大隕石衝突,火山大噴火,太陽系の近傍の超新星爆発など,比較的短時間に起こる現象で地層に痕跡が残る適切なイべントを捜索選択してその時刻を測定する.

(5)データ取得と解析の手法開発

地層の縞の二次元画像データ(歪,欠損,異物をふくむ)の一次元空間系列への変換,空間系列の時系列への変換,および時系列データの解析手法を開発する.これは堆積モデルの非線形逆フィルター理論の確立でもある.


[研究組織]

班長   大江昌嗣  国立天文台地球回転系  教授  測地学
       (月-地球系の進化)
副班長  圦本尚義  筑波大学地球科学系   講師  鉱物学
       (絶対年代測定) 
     木下 宙  国立天文台       教授  天体力学
       (惑星軌道の変動と地球への影響)
     桜井邦朋  神奈川大学理学部    教授  太陽物理学
       (太陽の活動とその地球への影響,宇宙線)
     薮下 信  京都大学工学部     教授  宇宙物理学
       (太陽系の環境,地球外物質)
     平田岳史  東京工業大学理学部   助手  同位体地球化学
       (絶対年代測定)
     池谷元伺  大阪大学理学部     教授  固体物理学
       (ESR計測,年代測定)
     中村俊夫  名古屋大学 年代測定試料 助教授 地球化学
           研究センター
       (13C, 14C 変動分析)
     海老原充  東京都立大学理学部   助教授 地球化学
       (元素分析,試料採集)
協力者  小出良幸  神奈川県博物館     学芸員 地質学
       (試料確保,分析)
(10名)

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