地球は大気圈,海洋・雪氷圈,マントル,核など多くの層からなり,それらが複雑に相互作用する一つのシステムを構成している. このような地球システムが外部からのフォーシングに対してどのように応答し,また自律的な変動をするかを地球史の時間軸上で因果と相互の関係において理解することがわれわれの目標である. 外部フォーシングで最も重要なものは,太陽エネルギーであり,内部変動はマントル内の熱エネルギーによって駆動される.
モデル班では,これらのエネルギーに対する地球システムの応答を解明するためにフルモデル(物理過程をなるべくまじめに表現し,観測事実と定量的に比較できるようなモデル)の数値シミュレーションを行なう. これらのモデルに基づき,
太古代−原生代境界付近に起きたいくつかのイベントのうち,超大陸の生成とウイルソンサイクルの開始(E4 )は,地球内部熱輸送システムが大きく変動したことの表れである. われわれは,これは主として二つの要因に分解できると考えている.一つは大規模部分溶融を伴った対流によりマントルが熱的化学的進化を引き起こし,超大陸とその下のテクトスフェア*を形成してより新たな対流レジ−ムに移行したこと,もう一つはレーリー数の減少に伴って,上部マントル下部に溜まったスラブが下部マントルへと崩壊し,2層対流から1層対流へ進化したこと,である. このようなシステムの変動やその帰結としてウィルソンサイクルおよびその他地表に表れる現象が生じるのかどうかを,現実的なマントル対流をモデル化することによって明らかにする.
堆積物に現われるシグナルは直接には地球表層系(水圏,雪氷,大気)の環境を反映している. それは,地球外からのフォーシング(太陽放射の変動など)や,マントルからのフォーシング(熱・物質輸送と海水準・海陸配置の変化)への表層系の応答である. そこで,表層系の多相間の物質分配,海洋大循環,氷床の消長などのモデルを作成し,まず比較的最近の地質時代について定量的検証を行ない,続いて理想化されたフォーシング・境界条件に対する表層系の応答を系統的数値実験によって調べる. これによって表層系のふるまいの特性の理解を深め,超大陸の形成が表層環境に及ぼす影響,ペルム紀−三畳紀境界における生物大量絶滅の原因,ミランコビッチ・フォーシングに対する応答特性の変遷について考える.
班長 瀬野徹三 東京大学地震研究所 助教授 固体地球物理学 (ウイルソンサイクル) 副班長 小河正基 東京大学教養学部 助教授 地球惑星科学 (大規模溶融) 本多 了 広島大学理学部 教授 固体地球物理学 (マントル対流) 増田耕一 東京都立大学理学部 助教授 地球環境学 (地球環境変動) 中嶋悟 東京大学理学部 助教授 堆積学・地球化学 (地球物質循環) 山中康裕 東京大学気候 助手 気候力学・海洋物理学 システムセンター (地球物質循環と気候変動) 阿部彩子 東京大学気候 学振特別 気候力学・雪氷学 システムセンター 研究員 (氷床と環境変動) 吉田茂生 東京大学地震研究所 助手 地球電磁気学・測地学 (地球回転と核の相互作用) (8名)