1.3 本研究の必要性

宇宙のなかで生命とわれわれ人類を生み育んだわが地球と太陽系がたどってきた長い歴史を,博物学としてだけでなく,現代の物理科学の実証的方法と論理で理解しようとすることが,人智の発露として,また,科学研究にオリジナリティを発揮することが,我が国の国際社会におけるステータス確立にとって重要かつ必要なことだと考える.

本研究の重要目標には,寒冷化温暖化など気候変動の主な要因である太陽活動の変遷,ミランコビッチサイクル*の変動,地球システムの応答特性,特定の地質時代に存在した酸素欠乏事件,隕石の衝突事件など,最近社会的に話題になっている環境問題と関係する事項が含まれている.この研究ではこれらの分野でも相当の成果が期待できる.

本研究の本来の趣旨と意義は,人類の発生よりはるかな昔(2億年以前)に的を絞り,実証的全地球史の解読に焦点をあてることであって,この研究が,昨今の環境問題の解決に実際的な意味で直接役に立つということではない.したがってここで,本研究が環境問題と関係があることを強調するのは本意ではない.それにも関わらず,この研究とその発展は,いやでも結局,地球環境とその変動の理解に役だってしまうであろう.例えば,実利的環境問題についてわれわれ人類の理解と経験は,わずか数100年間(事柄によっては数10年間)のデータにしか基づいていない.地球の長い過去には,現在の地球に起こりえることは大抵起こっており,昔の地球の環境を明らかにすることによって,我々はそれに学ぶことができる.とくに,地球システムに内在する相互作用の理解は環境変動の根本的解明の基本でもある.

本研究は,諸外国で先行している研究に追いつくためのものではなく,やれば成果の期待できる新しい研究目標を設定し,そのための手法を案出したので,地球惑星科学研究の発展段階から見て,諸外国も追従して大きな発展が予測される成長期にあり,宇宙科学や生命の進化など他の研究領域の研究の発展にも波及効果をもたらす意義がある.

周知のように,わが国は惑星探査分野では欧米に大きく水をあけられている.もう一つの探査と呼ぶべきーA Missiion to Planet Earth dating back over Four Billion Yearsというべき本研究は,幸いにして比較的少ない投資でめざましい成果が期待できる.


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