概要
宇宙では、星は分⼦雲*1と呼ばれる低温のガスの集まりの中で⽣まれます。なかでも、⼤質量星や星団が形成される現場として注⽬されているのが、「ハブ・フィラメント系分⼦雲」です。この天体では、複数の細⻑いガス構造が、中⼼の⾼密度領域へ向かって集まっています。しかし、このような放射状に整列したフィラメント状ガス構造が、どのような物理過程によって作られるのかは分かっておらず、その形成機構の解明が求められていました。
本研究では、磁場がくびれた形を持つ分⼦雲に、⾼速の星間衝撃波*2がぶつかる状況に着⽬しました。そして、中⼼に向かって放射状に伸びるフィラメント状ガス構造が形成されることを明らかにしました。さらに、星の材料となる⾼密度ガスが、フィラメントに沿って選択的に中⼼へ流れ込み、周囲の低密度ガスとは異なる運動を⽰すことを⾒いだしました。
九州⼤学⼤学院理学研究院町⽥正博教授の研究室所属の⼤学院理学府博⼠課程 3 年の野﨑信吾⽒、名古屋⼤学⼤学院理学研究科の⽝塚修⼀郎教授の研究グループは、3 次元磁気流体数値シミュレーションを⽤いて、星間衝撃波と砂時計型の磁場構造を持つ分⼦雲との相互作⽤を調べました。その結果、曲がった磁⼒線に沿って⽣じる斜めの衝撃波によって特徴的なガスの流れが発⽣し、中⼼へ向かって放射状に整列した複数のフィラメント状ガス構造が発達することを⽰しました。さらに、形成されたフィラメントの幅や⻑さ、ガスの流れる向きが、実際に観測されるハブ・フィラメント系分⼦雲の特徴とよく⼀致することを明らかにしました。本研究のシミュレーションには、国⽴天⽂台が運⽤する天⽂学専⽤スーパーコンピュータ「アテルイⅢ」 が利⽤されました。
今回の成果は、⼤質量星や星団がどのように材料となるガスを集めて成⻑するのかについて、新しい理解の仕⽅を⽰すものです。特に、ガスが分⼦雲全体から⼀様に集まるのではなく、⾼密度のフィラメント状ガス構造を通じて選択的に運ばれることを⽰した点は重要です。この結果は、星形成の効率が数パーセント程度にとどまる理由を理解するための鍵となります。今後は、観測との詳細な⽐較を進めることで、銀河の中で星や星団がどのような環境で⽣まれるのかの理解が深まることが期待されます。
本研究成果は、⽶国の天⽂学誌 The Astrophysical Journal Letters に2026年3⽉18⽇(⽇本時間)に掲載されました。(2026年4月22日 プレスリリース)

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詳細
宇宙で星が⽣まれる場所として、分⼦雲の中に⾒られる細⻑いガス構造「フィラメント」が注⽬されています。なかでも、複数のフィラメントが中⼼の⾼密度領域へ向かって放射状に集まるハブ・フィラメント系分⼦雲は、⼤質量星や星団が形成される重要な現場として注⽬されています。実際に、近年の観測によって、このような構造はさまざまな星形成領域で⾒つかっています(図1左) 。⼀⽅で、なぜこのような整った放射状構造ができるのか、その物理的な起源はこれまでよく分かっていませんでした。これまでの理論研究で、星間衝撃波と磁場の相互作⽤によってフィラメントが形成されることは明らかになってきました。しかし、ハブ・フィラメント系分⼦雲に特徴的な「中⼼へ向かって放射状に並ぶ複数のフィラメント」の形成メカニズムは未解明のままでした。
そこで本研究グループは、実際の分⼦雲では磁場が⼀様ではなく、重⼒の影響で中央に向かってくびれた形をしていることに注⽬しました。そして、そのような分⼦雲に⾼速の星間衝撃波がぶつかったときに何が起こるのかを、国⽴天⽂台の天⽂学専⽤スーパーコンピュータ「アテルイⅢ」を⽤いた 3次元磁気流体数値シミュレーションによって詳しく調べました。その結果、衝撃波の通過後に、衝撃波によって掃き集められたガスがくびれた磁場によって流れの向きを変えられ、中⼼⽅向に向かって細い流れに分裂しながら集まることで,放射状のフィラメント構造が形成されることがわかりました(動画,図2)。また、形成されたフィラメントの⻑さや幅は、実際に観測されているハブ・フィラメント系分⼦雲の特徴とよく⼀致していました。
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さらに、ガスの運動には密度による明瞭な違いが現れることもわかりました。⾼密度のガスほど中⼼⽅向に⼤きな速度を持つ⼀⽅で、周囲の低密度ガスは中⼼⽅向の速度が⼩さいことが明らかになりました。これは、分⼦雲全体のガスが⼀様に中⼼へ集まるのではなく、衝撃波によって形成された⾼密度のフィラメントが、中⼼部への質量輸送を主に担っていることを⽰しています。こうした構造と運動の違いは、衝撃波が曲がった磁場構造と相互作⽤することで特徴的なガスの流れが⽣じ、圧縮された層が分かれて複数の細⻑い構造が形成されることで⽣まれると考えられます。今回の結果は、ハブ・フィラメント系分⼦雲に⾒られる特徴的な形と、⾼密度ガスが選択的に集まる仕組みを、⼀つの物理過程で説明できることを⽰しています。
近年の観測では、ハブ・フィラメント系分⼦雲には、放射状に強く整列したものから⾮対称で複雑な形を⽰すものまで、さまざまな形態が⾒つかっています。その違いが何によって決まるのかは、星形成研究における重要な課題です。今後は、衝撃波の向きや強さ、分⼦雲の密度構造、磁場構造などの条件を系統的に調べることで、こうした多様なハブ・フィラメント系分⼦雲を統⼀的に説明する形成シナリオの構築が期待されます。さらに、今回明らかになったような衝撃波起源のハブ・フィラメント系分⼦雲から、どのような⼤質量星や星団が⽣まれるのかを調べることが重要です。これにより、分⼦雲の環境の違いが、そこで⽣まれる星や星団の性質にどのように影響するのかを理解する研究へと発展すると考えられます。こうした研究が進むことで、銀河の中で星や星団がどのような場所に、どのような条件のもとで⽣まれるのかを理解する、より⼤きな枠組みの研究へとつながることが期待されます。
本研究をリードした九州大学大学院理学府 博士課程3年の野﨑信吾さんは、「今回の研究では、観測で⾒えている特徴的なガス構造が、どのような物理過程で作られるのかを⽰すことができました。放射状に並ぶ構造は⼀⾒すると特殊に⾒えますが、衝撃波と磁場の組み合わせによって⾃然に⽣まれることがわかりました。今後は、さまざまな形のハブ・フィラメント系分⼦雲を統⼀的に理解することを⽬指したいです」と、本研究の意義と今後の展望を述べています。
論文情報
タイトル:"An Origin of Radially Aligned Filaments in Hub-filament Systems"
著者:野﨑信吾(九州大学)、犬塚修一郎(名古屋大学)
掲載誌:The Astrophysical Journal Letters
DOI: 10.3847/2041-8213/ae4c84
用語集
1) 分子雲
星の材料となる、低温で濃いガスや塵の集まり。宇宙の中でも⽐較的密度が⾼く、⽔素分⼦を多く含むため「分⼦雲」と呼ばれます。新しい星は主にこの中で⽣まれます。
2) 星間衝撃波
宇宙空間のガスの中を伝わる、強い圧縮の波。⼤きな星のまわりでガスが勢いよく広がるときや、星が⼀⽣の最後に⼤爆発を起こすときなどに⽣じます。通り過ぎるとガスが急激に押し縮められ、密度や流れ⽅が⼤きく変わるため、分⼦雲の形や星形成に影響を与えることがあります。
