ブラックホールの自転による超高光度円盤の歳差運動を世界で初めて実証

概要

 ブラックホール周囲のガスの渦巻きである超高光度降着円盤が、ブラックホールの自転によって歳差運動することを、一般相対性理論に基づく大規模数値シミュレーションで実証しました。この結果、超高光度降着円盤の周期的な光度変動が、ブラックホールの自転に起因している可能性が示されました。

 ブラックホールの周囲には、強大な重力によってガスが渦を巻いて形成される「降着円盤」が存在します。この降着円盤は、宇宙で最も効率的なエネルギー変換機構の一つであり、ブラックホール周辺で起こる光の放射やジェット(プラズマの噴出)と考えられています。ここで、ブラックホールが自転していると仮定すると、降着円盤が、回転するコマの軸がぐらつくような歳差運動を起こす可能性があり、これまで光度の低い円盤について調査・実証が進められてきました。しかし、強力な放射を生み出す超高光度降着円盤でも同じ現象が起こるかどうかは、まだ解明されていませんでした。
 本研究では、一般相対性理論に基づく大規模な放射電磁流体力学シミュレーションを実施し、超高光度降着円盤がブラックホールの自転によって歳差運動することを世界で初めて実証しました。また、この歳差運動が、ブラックホールから噴出するジェットや放射の方向を周期的に変動させることが明らかになり、これまで原因が不明だった超高光度降着円盤の周期的な光度変動が、ブラックホールの自転に起因している可能性が示されました。
 今後、さらに長期間のシミュレーションと観測データの比較によりブラックホールの自転の有無を検証することで、これが宇宙現象に与える影響が解明されると期待され、ブラックホールの時空構造や一般相対性理論のさらなる理解にも貢献すると考えられます。

 本研究は、Asahina and Ohsuga, "General relativistic radiation-MHD simulations of Precessing Tilted Super-Eddington Disks" として、2024年9月17日にアストロフィジカル・ジャーナル誌に掲載されました。この研究は、理化学研究所のスーパーコンピュータ「富岳」や国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイⅡ」などの計算資源を用いて行われたものです。研究の詳細は筑波大学プレスリリースをご覧ください。(2024年10月11日 掲載)



図1:ブラックホールのイメージ図(クレジット:高橋博之,大須賀健,中山弘敬,国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト)
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図2:歳差運動する超高光度円盤の模式図。自転するブラックホールの周囲では、回転するコマの軸がぐらつくように降着円盤の回転軸がブラックホールの自転軸の周りを周回する(歳差運動)。円盤の歳差運動によってジェットや放射の噴出方向が変化する。歳差運動による時間変化は、ブラックホールが自転していることの証拠となる。(クレジット:朝比奈雄太)
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論文

タイトル:"General relativistic radiation-MHD simulations of Precessing Tilted Super-Eddington Disks"
著者:Y. Asahina and K. Ohsuga
掲載誌:The Astrophysical Journal
DOI:10.3847/1538-4357/ad6cd9

本研究で用いられたスーパーコンピュータについて

 本研究チームが行ったシミュレーションのコード開発には、国立天文台のスーパーコンピュータ「アテルイⅡ」が使用されました。アテルイⅡは 3.087 ペタフロップス( 1 ペタは 10 の 15 乗、フロップスはコンピュータが 1 秒間に処理可能な演算回数を示す単位)の理論演算性能を有します。岩手県奥州市にある国立天文台水沢キャンパスに設置されており、平安時代に活躍したこの土地の英雄アテルイにあやかり命名されました。「勇猛果敢に宇宙の謎に挑んで欲しい」という願いが込められています。(クレジット:国立天文台)

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