ブラックホールに吸い込まれる降着円盤の乱流構造を解明 ─ 最先端スパコンによる超高解像度シミュレーションで実現 ─

概要

 ブラックホールは降着円盤と呼ばれる回転するガスに取り囲まれており、このガスは複雑な乱流状態にあります。しかし、その性質は長年謎に包まれていました。
 東北大学学際科学フロンティア研究所(FRIS)の川面洋平助教(現・宇都宮大学データサイエンス経営学部准教授および東北大学大学院理学研究科客員研究員)とFRISの木村成生助教(同大学院理学研究科兼務)は、理化学研究所の「富岳」や国立天文台の「アテルイII」などのスーパーコンピュータを駆使して従来にない極めて高解像度のシミュレーションを実施し、降着円盤の乱流が持つ物理的性質を明らかにしました。
 特に注目すべきは、大きな渦と小さな渦をつなぐ「慣性領域」において「遅い磁気音波」と呼ばれる縦波が支配的に存在することを発見したことです。この発見により、降着円盤内でなぜ電子よりプラス電荷のイオンの方が効率的に加熱されるのかという観測事実の理論的説明が可能になりました。この研究成果は、2019年4月にブラックホールの影の撮影成功を発表したイベント・ホライズン・テレスコープによる観測データの解釈にも重要な示唆を与えるものです。
 本研究成果は科学誌Science Advancesに2024年8月28日(米国東部夏時間)付で掲載されました。研究成果の詳細は東北大学プレスリリースをご覧ください。(2024年8月29日掲載)



図1:ブラックホール降着円盤のイメージ図と本研究で行った高解像度シミュレーションによって得られた磁場揺動分布。大きいスケールの渦が分裂していき、細かいランダムな渦構造が生まれる。(クレジット:川面洋平)
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本研究で用いられたスーパーコンピュータについて

 本研究チームが行ったシミュレーションの一部には、国立天文台のスーパーコンピュータ「アテルイⅡ」が使用されました。アテルイⅡは 3.087 ペタフロップス( 1 ペタは 10 の 15 乗、フロップスはコンピュータが 1 秒間に処理可能な演算回数を示す単位)の理論演算性能を有します。岩手県奥州市にある国立天文台水沢キャンパスに設置されており、平安時代に活躍したこの土地の英雄アテルイにあやかり命名されました。「勇猛果敢に宇宙の謎に挑んで欲しい」という願いが込められています。(クレジット:国立天文台)

論文

タイトル:"Inertial range of magnetorotational turbulence"
責任著者:川面 洋平
掲載誌:Science Advances
DOI:10.1126/sciadv.adp4965

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関連リンク

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