アテルイが描く宇宙 第1回

2014.11.25 掲載

2014年9月にアップグレードされ,同10月から共同利用運用を開始したCfCAのスーパーコンピュータ「アテルイ」.これまでどのような研究がアテルイによって行われてきたのかをここでは紹介していきます.また新しいアテルイに対しての研究者の方々の期待の声もご紹介いたします.

【ダークマターハローの形成と進化】

石山智明(筑波大学 計算科学研究センター 研究員)


 宇宙には,我々が普段目にする通常の物質の他に,その約5倍の質量のダークマター*が存在しています.このダークマターの分布の進化を解明することで,現在の宇宙の構造や銀河がどのようにしてできてきたのかの理解につながります.

 私はこのダークマターの分布の進化をさぐるため,アテルイを用いて粒子数687億の宇宙論的重力多体シミュレーションを行いました.これまでのスーパーコンピュータでは,限られた狭い範囲の大きさのダークマターハロー(銀河や初代星を宿す母体となるダークマターの塊)のみしかシミュレーションすることができませんでした.しかしアテルイの強力な計算能力により,非常に幅広い範囲のダークマターハローの進化の詳細を初めて明らかにすることができたのです.図は,宇宙初期(ビッグバンからおよそ1億年後)のダークマターの分布を表します.小さなダークマターハローと,それらが合体・成長してできるより大きいハローが無数に形成している様子をみることができます.このシミュレーションにより,我々が住む天の川銀河を取り囲むダークマターハローの微細な構造を推定することが可能になり,宇宙の構造形成がどのように進んだのかを,幅広いスケールで知ることができるようになったのです.



図:ダークマターハローのシミュレーション可視化画像.左側がシミュレーション全体.右側がその一部を切り出してきたもの.
[クレジット] 石山智明(筑波大学)

 新しいアテルイはピーク性能が2倍になったことはもちろん,ノードあたりのメモリが2倍になったことが非常に魅力的です.この計算では,高密度領域を追うほど各ノードの使用メモリ量の不均一さが増していきます.そのため計算によっては,サイズや分解能が全メモリ量ではなく,ノードあたりのメモリ量によって制限されることもありました.この問題が新しいアテルイでは緩和されることが期待されます.そして,さらに強力になったCPUパワーを最大限活かすことで,より高密度な領域を追うことが可能になり,銀河や銀河団のより細部な構造にせまれると考えています.

 本研究は,文部科学省HPCI戦略プログラム分野5「物質と宇宙の起源と構造」および計算基礎科学連携拠点の元で実施したものです.

【注】
*ダークマター:重力相互作用だけが働く物質で,素粒子としての正体は解明されていない.宇宙初期に存在したダークマターの密度揺らぎが重力相互作用により成長して,至るところにさまざまなサイズの天体を形成し,その中で陽子や中性子といった通常物質を集め,現在の宇宙で観測される銀河のような構造を作ってきたという理論「低温ダークマターモデル」がある.これが,宇宙の構造形成を記述する標準的なモデルとして広く受け入れられている.


【論文】
"Hierarchical Formation of Dark Matter Halos and the Free Streaming Scale", Tomoaki Ishiyama, 2014, ApJ, 778, 27
[ADS][arXiv]

【関連リンク】
「天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイ」,さらに2倍の計算速度へ」(2014年11月13日リリース)
筑波大学 計算科学研究センター
計算基礎科学連携拠点
HPCI戦略プログラム分野5「物質と宇宙の起源と構造」

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