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論文 "Constraining the Formation of the Four Terrestrial Planets in the Solar System" に関する補遺
論文
公式なリリース、ウェブページ、広報等
このページについて
上述した近畿大学のニュースリリースと国立天文台CfCAのウェブページでは、
上記した論文(以下では「本論文」と呼びます)の主な結論とそこから得られる示唆が
一般に公開されています。
本論文の結果とその意味するところをより深く議論し、
既に公開されたニュースリリースやウェブページを更に補完する情報を提供することが
このページの開設目的です。
この論文で行われた研究の核心
以下にある模式図は本論文の方法と主要な結論をまとめたものです。
この図では、初期太陽系に存在し得た異なる種類の原始惑星系円盤が
4億年の進化を経て明確に異なる地球型惑星系へとどう進化するかが示されています。
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本論文の主な結果を示す模式図。
左パネル:
古典的な原始惑星系円盤では、
質量分布は円盤全域にわたり単一の羃乗則で表されます。
地球型惑星領域に於いては円盤の面密度に大きな変化はありません。
中パネル:
「グランド・タック・モデル」などに代表される
最近の原始惑星系円盤モデルによれば、
大きな質量が円盤内の狭い領域に集中するとされます。
この時、円盤の面密度は円盤全域にわたりほぼ同一です。
右パネル:
これは現在の金星-地球軌道の領域に多くの質量が集中し、且つ
水星方向と火星方向へは低質量の領域が広がる原始惑星系円盤です。
この原始惑星系円盤は三成分から成ります。内側成分、中核、外側成分です。
円盤の中核は、
最近の原始惑星系円盤モデル(中パネル)が予想するものと同様な質量分布を持ちます。
円盤の内側成分に於いては太陽から遠ざかるにつれて面密度は増大し、
外側成分では太陽から遠ざかるにつれて面密度は減少します。
古典的な原始惑星系円盤(左パネル)および幅の狭い原始惑星系円盤(中パネル)から出発しても、
現在の太陽系に存在する四つの地球型惑星の軌道と質量は再現されません。
それに対し、
より複雑な質量分布を持つ「ハイブリッド」な原始惑星系円盤(右パネル)から出発すると、
地球型の4惑星の軌道と質量が再現される確率が大きく向上します。
本論文の主な結果について、もう少し詳しく
以下では、
ここまでに述べた本論文の主要な結論を支持する主な大きな発見について議論します。
以下に示される数値は本論文の表4から表7にあるものの中央値(median)に基いています。
これらの値(値域)は、本論文で得られた結果とそれが含む不定性を組み合わせたものです。
これ以上の詳細については本論文をご覧ください。
1. 地球型惑星の軌道の特性
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内側成分を持つ原始惑星系円盤内では
水星アナログは(地球から見て)金星アナログよりも遠い場所、
現実の水星軌道に近い場所で形成します (軌道半長径 a水星 ~ 0.40-0.50 天文単位)。
言葉を変えると、この円盤では
水星-金星間の間隔が良く再現され、またそれとは別に、
水星アナログは実際の惑星に近い場所で形成します。
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外側成分を持つ原始惑星系円盤内では
火星アナログは(太陽から見て)地球アナログよりも遠い場所、
現実の火星軌道に近い場所で形成します (軌道半長径 a火星 ~ 1.45-1.55 天文単位)。
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内側成分と外側成分の両方を持つ原始惑星系円盤内では、
水星アナログと火星アナログは共に
力学的により励起された軌道を持って形成されます。
これらの軌道は実際の惑星の軌道に類似するものです (水星アナログ: 離心率 e ~ 0.05-0.15, 軌道傾斜角 i ~ 3-6 度。火星アナログ: 離心率 e ~ 0.02-0.06, 軌道傾斜角 i ~ 2-3 度)。
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すべての数値シミュレーションに見られる一般的な傾向として、
内側成分を持つ原始惑星系円盤に於いてより多くの水星アナログが形成されました。
2. 地球型惑星の質量分布
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内側成分を持つ原始惑星系円盤内では
水星アナログの質量はやや小さくなります (質量 M水星 ~ 0.05-0.15 地球質量)。
この質量範囲は実際の水星/地球の質量比(0.0553)よりもやや大き目であると言えます。
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原始惑星系円盤内に外側成分があっても無くても、
実際の火星に匹敵する小さな火星アナログが形成します (質量 M火星 ~ 0.20 地球質量。実際の火星質量は地球質量×0.10745)。
けれども原始惑星系円盤内に外側成分がある場合にのみ、
このように小質量であり且つ軌道が励起された火星アナログが
地球アナログよりも以遠に形成されます。
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外側成分を持つすべての原始惑星系円盤から、
金星アナログ-地球アナログの質量比 (M金星/M地球) について良い値が得られました。
それは M金星/M地球 ~ 0.81-1.01であり、
実際の金星-地球の値は M金星/M金星 = 0.82 です。
3. 形成史
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水星アナログが巨大衝突を経験するのは内側成分を持つ原始惑星系円盤に於いてのみです。
先行研究によりその発生が示唆されている
水星での複数回の「hit-and-run衝突」仮説が成立するためには、
このように水星アナログが巨大衝突を経験することが必要です。
4. 水の分配
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内側成分と外側成分の両方を持つ原始惑星系円盤に於いて、
水星アナログはより多くの水(そして恐らくは他の揮発性元素も)を獲得できます (例えば WMF = water mass fraction ~ 10-3)。
また、外側成分を持つ原始惑星系円盤では水の分配は一般的に発生します。
それから、水星と同様な傾向が火星アナログにも見られます (WMF = 10-4 ~ 5 x 10-4)。
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外側成分を持つ原始惑星系円盤に於いては、地球アナログはより多くの水を獲得できます (WMF = 7x10-5 ~ 2x10-4)。
また個別の地球アナログの統計に基くと、
外側成分を持つ原始惑星系円盤では地球の水の量を説明できる確率がより高くなります (内側成分・外側成分の無い狭い円盤ではこの確率はほぼ 0 ですが、この円盤では確率~25-40%です)。
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金星アナログへの水の分配は、地球アナログへのそれとほぼ同程度です (WMF = 5x10-5 ~ 2x10-4)。
結論をまとめれば、内側成分と外側成分を持つ原始惑星系円盤は
現在の太陽系の地球型惑星の幾つかの特性をより良く説明することが出来ます。
更なる情報と今後の研究
(作成中)
最終更新日時: 令和元年 10月11日 金曜日 16時04分49秒 JST