太陽系外惑星系の安定性と起源
伊藤孝士 (国立天文台 天文学データ解析計算センター)

  1995年にMayorとQuelozによって最初の発見がなされて以来、太陽に似た他の恒星の
周りにも惑星が次々と発見され、1999年7月現在でその数は20個近くにも及んでいる。
発見された惑星系の姿は実に多様である。惑星の質量は一般に大きく、木星の質量の
0.5倍から11倍と大きくばらついている。惑星の軌道半長径はどれも2天文単位程度以内
であり、巨大な質量を持つ惑星が主星の近傍を短い周期で公転しているという描像が得
られている。しかも多くの場合、惑星軌道の離心率は私達の太陽系惑星のそれに比べて
かなり大きい。但し、これらの結果には観測限界に依存する選択効果が幾分か含まれて
いることに留意する必要がある。太陽系外惑星の検出は主として、主星の視線方向速度
の変化を観測することによってなされる。この視線速度変化の振幅は、惑星の質量が大
きく、且つ軌道半長径が小さい(=公転周期が短い)ほど大きい。つまり、現在までに観
測されている太陽系外惑星系─中心星の近傍を巨大惑星が周回するような─は観測的に
最も発見されやすい種類の惑星系なのである。

  従来、太陽系外で発見された惑星系はすべて主星と単独の惑星から構成されたもので
あった。しかし1999年の初め、以前から一個の惑星の存在が確認されていたアンドロメ
ダ座ウプシロン星(υ Andromedae)の惑星系が実は三個の惑星から成るものであるという
ことがButlerらによって確認された。長期間の観測データの蓄積により、主星の運動の
原因を複数の惑星の影響に細かく分離することが可能になった結果である。下の表には
Butlerが米国Lick天文台での観測から算出した三惑星の各種軌道要素らを示した。

      軌道半長径 離心率 近点引数 近点通過時刻  質量(下限値)  公転周期
      ─────────────────────────────────
      0.059AU    0.042   16.0°  JD2450315.34  0.72木星質量     4.617日
      0.83 AU    0.23   261.0°  JD2451131.24  1.98木星質量   242.0  日
      2.50 AU    0.36   236.0°  JD2453813.46  4.11木星質量  1269.0  日

  主星の視線方向速度の変化の観測からは、惑星質量の下限値しか求めることができな
い。このため惑星質量の見積もりには常に惑星系の視線方向傾斜角iの不定性、1/sin i
が付き纏う。しかしυ Andromedaeのように複数の惑星がある系に於いては、理論的な手
法によって1/sin iの不定性を取り除き、惑星質量に対して上限値を与えられる可能性が
ある。惑星が単独で存在する場合とは異なり、複数の惑星が相互作用している系は無限
の時間で安定にはいられない。しかも、その安定時間スケールは一般に惑星の質量が大
きいほど短いことがわかっている。そこで各種のsin i, すなわち各種の惑星質量を初期
値として惑星達の軌道進化を理論的に追ってみれば、ある値よりも質量が大きい場合に
は惑星系は主星の年齢以短の時間スケール(υ Andromedaeの場合には約30億年)で不安定
化し、瓦解するという結果が期待される。その時の値が惑星質量の上限値である。現在
行われつつある予備的な数値計算によれば、υ Andromedaeの場合にはsin i<0.8であれ
ば高い確率で惑星系は主星の年齢以短の時間で不安定化するという予測がある。従って,
この場合の惑星質量の最大値は最小値の1/0.8=1.25倍程度と見積もることができる。

  太陽系外惑星についての理論的な研究はその形成過程に関しても多く行われている。
だが、こちらの方は難航していると言わざるを得ない。惑星形成過程の現在の標準理論
と呼ばれるものは、私達の惑星系の起源と進化を説明するのが主目的である。然るに現
状ではその目的すらも十分に達成されているとは言えず、況や太陽系外惑星系への適用
には不十分である。巨大惑星が主星の近傍に形成する要因、大きな離心率の起源、更に
は地球型の岩石惑星が生命の発生と進化にとって"ほどよい"位置に長期間安定して存在
できる可能性の探索など、太陽系外惑星系の理論的研究に対して与えられた課題は非常 
に多い。観測精度の更なる向上に伴い、今後の発展が大きく期待される分野である。