司会:石川 正(高エネルギー物理学研究所データ処理センター)
- 【司会】
- ユーザの方からご質問がありませんでしょうか。なければ発表者の質問に対する回答を、富士通からお願いします。
- 【大空】(富士通(株)HPC本部)
- NQS関係の機能追加の件と、マニュアル配送体系の件は持ち帰らせていただいて、調査、検討させていただきたいと思います。
コンパイラ関係の話がいくつかございました。Cの並列コンパイラの話、コンパイラのトラブルが多いという話、それからコンパイル性能が悪いというお話、これらについては取り組みをしておりますので、責任者の神谷から回答させていただきたいと思います。
- 【神谷】(富士通(株)HPC本部第一開発統括部第二開発部)
- 言語処理系を担当しております。かなり厳しいご指摘がありましたが、現在6つの項目について取り組んでおりますので、答えられる範囲で、その状況をお答えしたいと思います。
まず第一の「並列のプログラミングが難しい」という件についてお答えします。VPPのような分散メモリ型の並列マシンでは、並列化のプログラミングはかな り難しいということが一般的に言われています。その点で、いろいろとユーザの方々にご迷惑をおかけしているというのが現実ですが、私たち自身もこの点を認 識しており、より使いやすいシステムにするためにはどうすべきかを考えて開発を進めています。
その1つとして、いま紹介しましたワークベンチなどのプログラム開発支援環境や、プログラミング・ハンドブックの内容を充実することで、エンドユーザの方々にとって、より使いやすいシステムになるようにしていきたいと考えています。第二の「分散メモリ型の並列マシン向けの自動並列化機能」についてお答えします。自動並列化機能については、使いやすいシステムを追求していけば、最終 ターゲットとして必要であることは明らかだと認識しています。この自動並列化機能に関しては、前々回くらいの科学技術計算関連分科会でも報告しているよう に、テクニカルに非常に難しい点はありますが、積極的に取り組んでいます。具体的には、来年にはプロトタイプ版、再来年には製品化という段取りで現在開発 を進めています。もう少しお待ちくださいというのが、現在のコメントです。
第三の「C言語の早期製品化」についてお答えします。この件につきましては、先ほどの発表にもありましたように、FORTRANを知っている人が最近では かなり減ってきているということは、私たち自身も痛切に感じています。そのための準備を、いままさに行なっているところです。
C言語のベクトル化版につきましては、既にコンパイラを出荷しており、性能もFORTRANに近いレベルまで出ています。
一方C言語の並列版ですが、現在はいわゆるメッセージ・パッシングと言われるプログラミング・パラダイムで並列のプログラムを書いて欲しいということになっています。
データパラレル型のC言語は、当然要請のあるところと認識しています。動向としては、現在アメリカでDPCE(Data Parallel C Extensions)というデータパラレル型のC言語拡張が検討されています。この仕様は来年くらいには「技術文書」という形式でANSIに登録・認定 される予定です。この動向をいち早くウォッチして、キャッチアップしながら、来年のどこかの段階では、DPCEというデータパラレル型のC言語が使えるよ うな言語環境をご提供していきたいと考えています。第四の「コンパイルが遅い」という件についてお答えします。この件は現実問題としては、コンパイラの手続きがすべてスカラーの演算から成っており、コンパイラの手続きの中に並列処理がないことに大きく依存しています。
当然、コンパイラ自身の性能改善も続けています。実は、昨年の今頃からコンパイラ自身の性能改善に着手しており、もう1年くらい経過しています。最新版は、初版に比べてかなりコンパイル時間を早くしているつもりです。
さらに、コンパイラの性能改善だけではなく、VPPの上でコンパイラ自身を走らせることに本当に意味があるかということも検討しています。その第1弾とし て、ワークベンチにクロスコンパイル機能を追加しようとしています。この機能は、本年末出荷を目標としています。これはあくまでもVPPのスカラー演算を 近くのワークステーションにオフロードして、VPPのスカラー演算の負荷を減らすことを目的として取り組んでいます。したがって、クロスの環境すべてを提 供するということまでは考えていません。第五の「マニュアルが分かり難い」という件についてお答えします。この件も昔から言われていまして、私たち自身もそのことを認識しています。いま、並列向きのハンドブックを執筆している最中で、たぶん来年の半ば頃には第1版ができるのではないかと思っています。
更に、現在のマニュアル自身の見直しについても現在着手しており、来年の半ばまでに改版していきたいと思っています。その意味で「いま暫くお待ちください」というのが、ここでの回答かと思います。第六の「トラブルが非常に多い」という件についてお答えします。これは本当に申し訳ないと思っております。富士通は、品質に関しては非常に厳しい会社でありまして、トラブルが多いことは本当に不名誉なことと認識しています。
並列に関して、品質が良くないということは、私たち自身が並列に関して経験があまりないことが、根本的な原因であると考えています。テストプログラムと か、並列プログラミング経験とか、いかに多くの品質に関する資産を持つかということにかなり依存しています。この点については、並列のプログラムを数多く 集め、並列プログラミングの経験を踏みながら、品質強化に地道に取り組んでいきたいと思っていますので、よろしくお願いしたいと思います。その他に、ワークベンチに関していくつかのご指摘があったと思います。これに関しましては、担当の浅井部長が来ていますので、答えさせたいと思います。
- 【浅井】((株)富士通静岡エンジニアリング 第二開発統括部第二開発部)
- それでは順番に簡単に答えさせていただきます。天文台さんにはワークベンチを真正面から評価していただいて、まずこれは本当に感謝申し あげたいと思います。すでに伺っている話もあり、予稿集の方にはその答弁のような形で少し書いてありますので、後でそちらもご覧いただきたいと思います。
まずクロスコンパイラの話ですが、オブジェクトで止まっているというのは、リンカーをクロス側に持ち込むのが難しい事情があるからですが、確かにユーザか ら見るとそれは中途半端なことですので、リンカーはVPP側でやるとしても、クロスの環境ですべてできるようにワークベンチ側で配慮するように改善したい と思います。
ログとソースの連携は全くおっしゃるとおりでしす。せっかくあそこまでできていてファイルを開けないのが私自身もまことに残念な限りです。少し技術的に難しいところがあって、多少の制約は入るかも知れませんが、ぜひそのように改善したいと思います。
部分採取の件ですが、これはバージョンIIからできるようになりました。バージョンIIは年末出荷の予定ですが、そこからできるようになります。ただ、ま だ場所を外から指定するのではなくて、ソースの中に埋め込まないといけませんので、その点はぜひそれ以降また改善していきたいと思います。
ジョブをNQS経由でなくても投入できてしまうというのは、これはむしろデバッグ過程などで少しずつ実行したい、いちいちNQSに投入することになるとか えって使いにくいという配慮から、JOBEXECという機能を入れています。その辺は運用とうまくタイアップして、どのように使っていただくかということ を考えていくのかなと思っております。
ログでの冗長部の区別についてですが、当初冗長というのはパラレルリージョンだけではなくて、スプレッドの中にも出てくるわけで、そういうのは段階的に表 示するのが難しいということで一緒にしてしまいました。これは確かに開発者の怠慢と言いますか、ひとりよがりでありまして、伊藤先生に指摘されて本当に ハッとしました。せっかくのログの絵が、冗長部とそうでないところと一緒だと何もならないですね。これはいくつか指摘していただいたことの中では一番ハッ とさせられたことですので、ぜひ次の機会に改善したいと思います。
最後に残ったのは非常に難しい話です。覚えるのに時間がかかるツールは使いたくないとか、まだ不完全であるとか、こういうことに関しては、なかなか一朝一 夕にスパッと良いものができなくて、段階的な開発ということになります。私たちもできるだけ、せめて半年に1回くらいは改良して良くしていきたいと思いま す。最終的にはメニューとか、GUIとか、そういうものでできるだけ使いやすく、絵そのものが使い方を語るツールにしていきたいと思いますので、どうか今 後ともよろしくお願いいたします。
- 【司会】
- どうもありがとうございました。その他にありませんか。
- 【大空】
- 最後に残っておりますのは、スカラーが遅すぎるというご指摘ですが、これはこの後の藤井先生のお話でも、斉藤先生のお話でもご指摘が出るようですので、全部指摘をしていただいてから、最後に少し時間をいただいておりますので、そこでお答えしたいと思います。
- 【司会】
- 分かりました。それではあと1件だけお伺いします。
- 【阪田】(富士通(株)システム本部科学システム統括部地球科学システム部)
- 天文台さんのシステムを担当させていただいております。厳しいご指摘がございまして、特にトラブルにつきましては私どもフィールドとしましてはお詫びをするしかありませんが、少し釈明させていただきます。
トラブルが50件程度あるというご指摘がありましたが、原因究明に多少時間がかかるものがございます。同じジョブを流しますと同じ現象が起こってトラブル となるというようなものが3ケースくらいありまして、それが数ケース重複してカウントされている部分もあるのではないかと思います。実際のトラブル件数と しては確かにそのとおりですが、そういったものを減じますと30〜40程度になるのではないかと思います。
- 【伊藤】(国立天文台天文学データ解析計算センター)
- 40と50はどう違うかという問題もまたあると思いますが(笑)。
- 【阪田】
- もちろんそうですが、障害は1件でも少ない方がいいわけですから、評価される際に多少でも考慮していただければと思いました。
トラブルの発生については、私どもは謙虚に反省しなければいけないと思っております。私どもは実際にトラブルが発生しますと、事業部、開発部隊と連携して、再発しないように、あるいは予防処置を講じられるようにいろいろと相談をしております。
いったん発生してしまったものにつきましては、いかに早く解決するか、密に連絡をとりながら解決に努力しているつもりでございます。それでも実際に件数が たくさん出ますとご不満をお持ちになるのは当然だと思います。先生方に必ずしも見えない部分もあるかも知れませんが、努力はしておりますので、今後もご指 導のほどよろしくお願いしたいと思います。ワークベンチからのジョブの投入の件ですが、これは先生方からご指摘いただいていまして、事業部、開発部隊に要望を出しております。実際の運用を具体的に どうすればいいかというのはこれからの検討になると思いますが、年内にはご要望の機能が提供できる予定でおります。ですから全く制限なしでジョブが入って しまうのを防ぐ機能は実現されます。実際にエンドユーザにどのようにワークベンチを開放していくかということにつきましては、これからご一緒に検討させて いただきたいと思います。
マニュアルの件ですが、具体的に私がマニュアル関係を充分認識できておりませんので、もう少し実態を詳しく教えていただいて、営業と一緒に改善していきたいと思います。ぜひご協力をよろしくお願いします。
- 【司会】
- それでは少し時間が押してきましたので、これで終了させていただきます。伊藤先生、どうもありがとうございました。(拍手)