(12:00〜 オプショナル・ツアー「都立大構内の建築石材の見学」) 13:00〜「縞縞解析・基礎の基礎”何をどー見てどーするの”」加藤研 「堆積物中の縞縞解析からの古気候復元」 山田和芳 15:00〜 休憩&軽食 16:00〜「堆積物の化学分析 有機物分析の基礎」 吉井広太 「堆積物の化学分析 有機物分析の応用」 吉川博康 18:00〜 参加者の自己紹介コーナー 19:30〜 懇親会
今回は堆積物、特に「堆積岩」になる前の未固結な堆積物からどう情報を引き出す かについて、地理学科と化学科の方からそれぞれに話がありました。参加者は東大、 東工大、都立大、横浜国大、静岡大、名大、京大、富士通(!)から合計20人くらい ありました。以下、講演のダイジェストです。
1.「縞縞解析・基礎の基礎”何をどー見てどーするの”」 加藤研(地理学科)
湖底堆積物のコアから縞縞(葉理)の形成過程を探る。葉理の形成には堆積物の 供給量の変化によるもの、堆積後の交代作用の違いによるものなどがあり、それらの 違いを生み出す原因としては季節による水温や塩分濃度、pH、生物生産量の変化など が考えられる。よって堆積物の縞はこれらの通年変化を記録している。また、広域テ フラなどによって年代が決まると年縞の数を数えることで堆積物に一年刻みの時間軸 を入れることが可能であり、突発的なイベント(洪水や地滑りなど)の記録をも見る ことができる。
2.「堆積物中の縞縞解析からの古気候復元」 山田和芳(地理学科)
地中海の深海掘削コア(ODP)中の、特に風成塵起源の粘土鉱物の組成変化からヒ マラヤ・チベットの隆起と北アフリカの砂漠化の関係について考察する。風成塵の後 背地の乾湿指標としてはイライト結晶度を、風成塵に混じって堆積する砕屑物、有機 物の量には方解石量(ナンノプランクトンの生成量を示し逆相関する)、初生磁化率 、色指数を用いる。
また堆積物中に時折挟まれるサブロペルと呼ばれる有機物濃集層の形成は、10万 年周期のミランコビッチサイクルに関連したものであるということが、パワースペク トル解析の結果から示唆される。
3.「堆積物の化学分析 有機物分析の基礎」 吉井広太(化学科)
堆積物中から有機物を抽出する方法としては、最初に分析試料中に有機物がある かどうかを元素分析法という便法で調べた後、各種溶媒を用いて中性成分、酸性成分 、残さに分別する。その後、ガスクロマトグラフィーの一種であるカラムクロマトグ ラフィーを用いて物質を同定する。堆積物中に含まれる有機物は、その起源によって 異なった物質になる。例えば中性成分であるbis-phytaneは古細菌起源であることを 示し、非溶解成分であるvanillineは維管束を持つ植物によって作られる。これによ り堆積物の供給源にある程度見当をつけることができる。
4.「堆積物の化学分析 有機物分析の応用」 吉川博康(化学科)
非溶解性の巨大分子の同定に用いられる手法として、TMAH(Tetramethyl Anmonium Hidroxide)法がある。これは分子中のエーテル結合或いはエステル結合 をメチル化により切断し、より分子量の小さい分子に分けて同定するものである。 例として、リグニンという物質は植物の維管束にのみ存在する巨大分子であるが、 これをTMAHによりメトキシ化すると数種類のリグニンフェノールに分解するが、 それらのリグニンフェノールの種類によってもとの植物の種類を更に絞り込むことが 可能である。
地質学という学問の難しさのひとつは、基本的に現象が起こっているところをリ アルタイムで見ることができない点にあります。形成されてから何百万或いは何億年 経た地層を見て当時の状態を想像するのは大変なことです。その点で今まさに堆積し つつある湖底堆積物などを見て、そのメカニズムを理解するというのは古い地層のこ とを考える上で重要であると思います。後半の分析の話は、普段私にはあまり馴染み のないもので、岩石の化学分析といえば、粉に挽いて測る全岩分析やEPMAによる鉱物 の元素分析がまず頭に浮かぶ私には、全く違った方法で違うものを分析している彼ら の話はとても目新しく感じられました。
難を言えば、前半の堆積の話も後半の分析の話も、我々が普段問題にしているよう な時間スケールとは桁で違っており、それをそのまま地質学の興味の対象に応用する のは難しいという点でしょうか?
文責:東工大・真砂英樹