全地球史解読ニュースレター No. 5

          July 10, 1996

          発行 全地球史解読事務       
          113 文京区弥生1-1-1 東京大学地震研究所 瀬野徹三 
          tel 03-3812-2111 ex 5747   fax 03-5802-2874
          e-mail  seno@eri.u-tokyo.ac.jp 

−目次−


●研究活動状況

マルチピストンコアによる琵琶湖湖底堆積物の研究

               鳥居雅之(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)

1.はじめに

全地球史解読プロジェクトは,言葉通り地球の歴史のすべてをカバーしようとして いる.もっとも尖鋭な興味はArcheanの環境復元に向けられているが,ごく最近のこと にも,ちゃんと興味を示す余裕があること自体が,お世辞ではなくこの計画のすばらし さを示している.計画を進めている中枢の人達のそのような懐の広さに付け入った感も なきにしもあらずだが,全地球史解読の公募研究のなかに,最近の数万年の古環境変動 研究をターゲットとした琵琶湖の湖底堆積物の研究計画を組み込んでいただいた.昨年 7月に複数のピストンコアの採取に成功し,この3月の合同大会では4件の第一報を報告 できるくらいのペースで分析が進んでいるので,簡単な報告をさせていただく.第0報 は,昨年まだ作業の熱気が冷めやらないうちにしたので,今回は合同大会での発表を踏 まえての報告と今年の計画についてである.

私たちの中期的な目標は,大平洋などの深海底堆積物に記録されている古気候記録 と,ユーラシア大陸内部の陸成堆積物である黄土層に記録されているそれとが,ちょう ど中間に位置する日本列島の堆積物にはどのように記録されているかを検証することで ある.もともと,深海底の古気候記録と陸成堆積物の記録とが結びつけられて議論され るようになったのは,2つの研究の流れが出会ったからであった.1982年にD.V. Kentは, 古気候と地球磁場強度の関係をインド洋の深海底堆積物について調べているときに,酸 素同位体比と初帯磁率の間のきれいな相関を発見した.この発見は彼の論文の主題では 必ずしもなかったが,その後の大きな展開の起爆剤となった.一方,F. Hellerと劉東生 によって1984年に中国洛川の黄土層のボーリングコアの初帯磁率が測定結果が発表され, 大平洋の堆積物の酸素同位体比記録と対比が可能であることが示された.以後,堆積物 の示す初帯磁率記録は,古温度のproxy(代替指標)として急速に注目されることになっ てきた.

このような,堆積物の岩石磁気学的な特徴から古環境を推定しようとする試みは, 最近では環境岩石磁気学と呼ばれている.その中でも中国黄土層の研究はまさに百花撩 乱の感がある.今では,初帯磁率を用いてSPECMAPと対比することにより,まず時間 軸を明らかにし,その上で個々のproxyの意味を厳密に理解したり,あるいは新しい proxyを見つけ出すために,堆積条件の異なる場所で次々と新しい研究が行われている. しかし,意外にもそもそもの発端であった深海底堆積物との対比は,対応するのが当然 のこととして,あらためて問題とされることは少ない.しかし,中国内部でさえ,タク ラマカン砂漠近くの黄土層と,西安近くのそれとではproxyの記録が大きくことなる. このような地域的な差こそが,proxyとしての限界や信頼度を明らかにしていくための 重要なデータである.中国黄土層と深海底堆積物の記録を比較して,そこから新しい情 報をしぼりだすためには,大陸−大洋の境界に位置する日本列島にある堆積物の記録の 持つ意味は少なくないはずである.

琵琶湖の湖底には約250mのほぼ均質な粘土層が堆積している.北湖の中央部に堆 積しているこの粘土層(T層)の年代は,これまでの研究によっておよそ43万年と見積 もられている.T層には,数十枚の火山灰層を別にすれば,砂層などの粗粒な堆積物は いっさい含まれていない.これら火山灰層を広域テフラと対比することによって,T層 の詳細な年代推定が可能となっている.そして,火山灰層を除けばほぼ均質な粘土層の 存在は,琵琶湖が過去43万年間は安定した湖盆として存在してきたことを強く示してい る.いいかえるなら,ごく周辺の環境変動に直接支配されることのない,より広域的な 変動が精密に記録されていることが期待できる.

この琵琶湖湖底堆積物の重要性は,堀江らによって早くから指摘されてきた.1971 年には200mのコア試料が堀江らによって北湖の中央部で採取され,均質な粘土層と多 数の火山灰層の存在が明らかにされるとともに,多分野の研究者による共同した解析作 業という研究形態に先鞭がつけられた.1982年にはほぼ同じ場所で全長1400mのコアが 採取され,約800mの湖底堆積物の全貌が明らかになった .この他にも湖底・湖岸での コアリングが多数行われ,世界的に見てもよく調べられている湖成堆積物といっていい だろう.

2.昨年度にしたこと

1995年7月に北湖の3ヶ所でピストンコアを採取した.ピストンコアラーは高知大の 岡村らによって改良を重ねられてきたアルミパイプを用いる方式で,20mと25mの2種 類の長さが試みられた.1番北のSite 1(高島沖:水深63 m)では,BIW95-2と-3の2本の 20mコアを採取した.この地点は安曇川のファンデルタの先端部にあり,今回採取した コアのなかでは細砂層を含む最も粗粒な堆積物が採取された.これらのコアは高知大学 に運ばれ,1mに切断された後押し出され,記載や初帯磁率測定などがされた.さらに, 半分が京大に転送され試料が採取された.

Site 2(白髭沖:水深67 m)は,1986年に地質調査所によって140mのコアが採取さ れた地点とほぼ同じ場所である.ここでBIW-4と-5のそれぞれ20mのコアが採取された. BIW-5は当日のうちに1mに切断されて押し出しされ,直ちに冷凍されて翌日にはクール 宅急便で都立大に送られて,有機地球化学分析用の試料とされた.

Site 3(雄松崎沖:水深76 m)は,200mと1400mのコアの採取地点とほぼ同じ場所 である.25mのBIW-1と20mのBIW-6と-7の3本が採取された.ただし,3地点いずれのコ アでも,実際に採取された堆積物の長さは10〜15m程度であった.

岡村方式のアルミパイプを用いたピストンコアラーには大きな特徴がある.加工や 取り扱いの容易さなどの技術的なことはすでに他所に報告されているが,今回実際に使 用してみて試料の処理という面でも非常に優れていることが判明した.BIW-1,-4,-6, -7のコアは,いずれまずも2.5mずつに切断し,次にアルミパイプだけを縦に切断し, その後に堆積物試料をワイヤ−で半切する方法で処理をした.この方法の最大の利点は, 堆積物を押し出す必要がないので変形が非常に小さいことである.堆積構造や組織の観 察,あるいは非磁性であるので残留磁化測定用の試料採取にも最適である.また,プラ スティック・ライナーを使用しないため,有機化学分析用の試料としても優れている. アルミパイプの厚さは5mmであるが,市販の電動丸鋸でチップソーを用いれば容易に 切断できるので,簡単なガイドさえ用意すれば誰でも切断できる.ただし,アルミの切 り屑による試料のかなりの汚染だけは避けられないという問題は生じる.

コア試料は,地点ごとに多少処理の仕方は異なっているが,長期の保存による試料 の劣化をさけるため,すでに大部分の試料は分割配布が完了している.試料の配布を現 在までに受けている研究グループの代表は,高知大の岡村(層序),都立大の石渡(有 機地球化学),ミシガン大のP.Meyers(有機地球化学),京大の竹村(火山灰),同志 社大の林田(古地磁気),京大の鳥居(岩石磁気と古地磁気),都立大の福沢(堆積構 造と粘土鉱物),北大の豊田(無機地球化学),日文研の北川(14C年代)などである. 試料の分析はそれぞれの研究室で進行中であり,一部の結果は1996年3月の地球惑星科 学合同大会で発表された(鳥居他,根岸・石渡,竹村他,アリ他).まず,火山灰層の 対比によって,Site 2とSite 3の間の対比と年代推定が行われた.火山灰層の発見には, 初帯磁率の測定が極めて有効であり,肉眼的に確認が困難であった火山灰層も初帯磁率 の異常として検出された.両者の対比はカワゴ平火山灰層(3.0 ka)と鬼界アカホヤ火山 灰層(6.3 ka)によって確実なものとなっている.Site 2では約10mに深度に姶良Tn火山灰 層が発見されたことから,最下部の年代はおよそ3万年と推定された.Site 3の堆積速度 はSite 2のほぼ3倍である.1つの湖盆から堆積速度の大きく異なる堆積物を複数採取し て比較したいという当初の目的にふさわしい試料が採取されたことが分かる.

また,各Siteでの複数のコア間の比較も現在さまざまな手法で行われている.たと えば,Site 3の3本のコア間では,初帯磁率の長周期のトレンドと異常ピークの全てがき ちんと対比できることが分かっている.図(省略)には,磁気ヒステレシス・パラメー タの1つであるBcr/Bc(残留抗磁力/抗磁力)の変化を示した.この比は堆積物中の磁 性鉱物の平均粒径を反映していると考えられるので,他の方法による粒度推定と合わせ て比較してみたいと考えている.いずれにしろ,このような岩石磁気学的なパラメータ が複数のコア間で詳細に比較検討されるのは,琵琶湖については初めてのことであり, 長周期と単周期の変動の意味を探っていくのが大きな楽しみである.

今回の大きな発見として,Site 2のコアの約1万年より古い層準には,ところどころ に黒色の薄層が多数密集しているゾーンがあることを指摘しなければならない.予察的 な分析によれば,黒色ラミナを構成している物質は,植物遺体などの有機物とシデライ トである.もしこのラミナが年縞あるいは季節を反映した堆積物であるなら,琵琶湖堆 積物により精密な時間スケールがはいることになり,研究の意義がますます大きくなる. また,そうでなくても,ラミナ出現の頻度がつぎつぎと変化しているのは,明らかに複 数の周期によって形成されたことを示しており,環境変動解析の有力な手がかりになる だろう.

この一連の作業のなかで行った他の重要な試みとして,コアの処理・保存技術そし て分配方法を再検討とするいうことであった.これは,単にハードを改良するというこ とだけでなく,運用面としてどのような手順でコアを処理し,各分野の必要に応じて適 切に分配していくかということである.これには,これまで琵琶湖で行ってきた何回か のコアリングと国際深海掘削計画(ODP)の経験が基礎となっている.この試みについて はここでは具体的にふれないが,多くの参加者の共通の感想として,いい試料がほしけ れば長期保存を考えないこと.むしろたくさんのコアを採取して,ゆったりと試料を分 配することの方が,結局時間や経費の節約になるのではないかということであった.も ちろん,保存場所や作業場所が十分あり,試料の保存に当てることのできる研究資金に 恵まれていれば,最低限の本数のコアで研究できるかもしれない.実際そういうことは ほとんどありえないので,あまり倫理的には好ましくないが,コアの使い捨ての方がい い結果がえられるということを何となく確信した.それでも,今回の試料の保存のため に,岩石磁気関係だけでも150リッターの冷蔵庫を新たに2台購入しなければならなくな り,なによりも保存場所の確保に頭を痛めている.

3.今年の計画

昨年の計画のポイントは,複数の地点でコアを採取すること.各地点でも複数のコ アを採取すること.この一連の作業によって,得られたシグナルのうちから,意味のあ るものと,偶然のノイズがどのように混在するのかをまず見てみたいと考えた.さらに, 堆積速度が大きくことなる場所で,いろいろなシグナルがどのように表れるのかも検討 したかった.試料としては,これら当初考えた目的にふさわしいコアが7本採取できた と考えている.限られた予算,日数,人手を考えると望外の成功であった.これは,ひ とえに岡村方式のピストン・コアリングのすばらしさを示しているといえる.  私たちの計画は,いずれ近い将来琵琶湖でもう少し長いコア,たとえば10万年以上 をカバーできる試料を採取するための,基礎体力作りという面がある.そのためには, どうしても1本のコアでできることの限界を見据えたいと考えている.そのための作業 として,今年の夏には75cmのグラヴィティコアーを10本ほどSite 2とSite 3の付近で採取 し,湖底表層部で起こっていることを詳細にみることと,ピストンコアリングによって 失われる表層部の見積もりをきちんとしたいと考えている.資金不足ももちろんだが, 何と言っても不足なのは人である.とくに採取した試料を実験室で「腐らせない」うち に分析するための人手不足は深刻である.そういう意識もあって,コアを切断したり分 割したりするまえに行う測定が非常に重要であることが昨年の作業のなかで改めて認識 された.今後ODPで採用している複数の計測器の中をコアが流れていくMSTのような 非破壊の測定システムを開発していくことが非常に重要であろう.私たちも早く「24時 間マシン」を開発しなければ,結局は貴重な試料を宝の持ち腐れに終わらせてしまうの かもしれない.そして研究者の命を,過労によって文字どおり縮めることにもなるだろ う.

なお,今年,都立大の石渡良志教授を代表者に「湖沼堆積物による古環境変動の高 精度復元とアジアモンスーン」という重点領域研究が申請された.もちろん,簡単に採 択されるとは誰も思っていないし,内容的にも今後大きな議論をしていかなければなら ないだろう.しかし,どのような状況になろうとも,琵琶湖の湖底堆積物の研究が重要 な柱になっていくことだけは確かである.そういう意味でも,「全地球史解読」は湖底 堆積物による精密な環境変動研究にすばらしい踏み切り板を提供してくれたといえよう. 1つの研究グループが次々と新しい研究グループを生み出していくのは,本当にすばら しいことである.

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平成8年度公募研究採択課題等一覧

(A01)

角替 敏昭 [島根大学教育学部]
砕屑性ジルコンからみた南部アフリカおよびオーストラリアのクラトンの比較
三室  守 [岡崎国立共同研究機構 基礎生物学研究所]
真核生物間の細胞内共生の実験的解析ー地球共生系の推進力
小澤 大成 [鳴門教育大学学校教育学部]
造山帯中の緑色岩からみたスーパープリューム活動史
廣瀬  敬 [東京工業大学理学部]
緑色岩から太古代のマントル組成をよむ

(A02)

伊藤 孝士 [国立天文台]
正準変換型数値解法による惑星運動の超長期計算
鳥居 雅之 [京都大学理学部]
大洋−大陸境界部での古環境変動記録のマスターカーブ作成 −琵琶湖マルチピストンコアの精密解析−
伊藤  繁 [岡崎国立共同研究機構 基礎生物学研究所]
光合成と地球の共進化

(A03)

井原 邦夫 [名古屋大学理学部]
岩塩試料に残された生物学的痕跡
下山  晃 [筑波大学化学系]
太古代堆積物中に存在する生物関連有機物の探索
熊澤 慶伯 [名古屋大学理学部]
現生生物に残る先カンブリア代の記憶を呼び戻す試み
江崎(横川)美和 [大阪大学理学部]
堆積物の縞模様(ラミナ)形成における物理過程の解明−実験からのアプローチ
高橋 栄一 [東京工業大学理学部]
テクトスフィアの構造とその起源
山岸 明彦 [東京薬科大学生命科学部]
好熱性古細菌と初期生命史
山中 健生 [日本大学理工学部]
地球表層のバイオミネラリゼーションの実験的研究
山本 啓之 [岐阜大学医学部]
初期地球の生態系モデルとしての温泉バイオマット: 高温環境下に生息する微生物の遺伝子によるカタログ作製
酒井 英男 [富山大学理学部]
チャート・BIFの磁気特性から地球のリズムを探る研究
松浦 克美 [東京都立大学理学部]
地球史における光合成細菌の役割
松岡 数充 [長崎大学教養部]
先カンブリア代固結堆積物からパリノモルフを抽出する方法についての研究
菅井 俊樹 [名古屋大学理学部]
地球環境における炭素フラーレンの探索
石渡 良志 [東京都立大学理学部]
生物大量絶滅事変境界層の有機・同位体地球化学的研究
村江 達士 [九州大学理学部]
古細菌の活動記録解読のための堆積高分子有機化合物の利用に関する研究
田崎 和江 [金沢大学自然科学研究科]
現生ストロマトライトの形成機構
福澤 仁之 [東京都立大学理学部]
サプロペルからみたユーラシア大陸周辺のモンスーン変動の高精度検出とその地域性
圦本 尚義 [東京工業大学理学部]
同位体顕微鏡を用いた天然物質の縞々の読みとり

(A04)

河村 公隆 [北海道大学低温研究所(東京都立大学理学部から異動)]
黒色頁岩: その形成メカニズムと物質循環モデルの構築
竹広 真一 [九州大学理学部]
地球内部流体運動基礎過程の研究〜ベナール対流vs凝結性対流
柳田 達雄 [北海道大学電子科学研究所]
地球システムのモデル化による気候動力学の時空間パターンの解析
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96年度アフリカ緑色岩体調査計画

                     廣瀬 敬(東工大)

今年からいよいよアフリカ太古代緑色岩体の調査を始めます.今年は南アフリカ・カ ーパバール地塊にあるBarberton Greenstone Beltとジンバブエ・ジンバブエ地塊に ある Belingwe Greenstone Beltを中心に,7月19日から8月31日までの約6週間 にわたって地質 調査・岩石採取を行う予定です.ジンバブエでは有名なグレートダイ ク(25億年前の 貫入岩)も調査地域に組み入れるつもりです.参加者は丸山・廣瀬・小宮・西川・ 清水(以上東工大),岩森(名大),小沢(鳴戸教育大),角替(島根大)の8人を予定 しています.

南アフリカのBarberton Greenstone Beltは35〜32億年前の緑色岩体で, なかでもKomati 層はコマチアイトがはじめて記載され,模式地として知られるところです. この緑色 岩体のコマチアイトはAl枯渇型で,もし無水条件下で生成されたとするなら ば1900度 程度のマントルの融解温度が必要であるとされています.またジンバブ エのBelingwe Greenstone Beltは29〜27億年前の緑色岩体で,Barberton Greens tone Beltの大部分が角閃岩 相の変成作用を蒙っているのに対し,こちらは比較的低変成度の(緑色片岩相まで) 変成作用しか受けていないことで知られるところです. コマチアイトを主体とする Reliance層では,複数の露頭に新鮮なカンラン石の斑晶を含むコマチアイトがみられ, マグマの化学組成を直接残しているメルト包有物の存在も報告されています.こちら のコマチアイトはAl非枯渇型で生成温度はやや低く1700から1800度と考えられていま す.両地域とも古くから多くの研究があり,いよいよ我々もこれまでの経験を生かし てコマチアイトの聖地に突入と行った感じです.今回は調査初年度ということもあり, 今後のアフリカ調査のまず足がかりをつくることがまず大きな目的です.地質調査に 関しては予察的なものになると思われますが, コマチアイトが噴火したテクトニック セッティングを明らかにしたいと考えています.岩石試料は古地磁気測定用および岩 石学・地球化学用のものを中心に採取する予定です.Greenstone Belt中に含 まれる ストロマトライトも採取してこようと考えてい ます.太古代緑色岩から当時 のマントルの 温度・化学組成を読むことは我々の大きな研究テーマの一つですが,緑色岩は変成岩 であり,どうしても変成作用の影響に目をつぶることはできません.そこで今後SIMS やICP-MSをはじめとした最新の化学分析機器によって,従来の全岩分析ばかりでなく, より変成作用の影響が少ないと考えられる残存鉱物の分析を目的としたサンプリング も計画しています.

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カナダ・19億年前ストロマトライト調査・ サンプリング計画

                    名古屋大理 高野雅夫

この夏、名大・岐阜大・東大グループが中心となって国際学術研究(代表者熊澤峰夫) に よるカナダ調査を行う予定である。この調査の目的は以下のとおり。

  1. 19億年前のストロマトライトの大露頭がある カナダ・グレートスレーブ湖・ Blanchet島(Great Slave Super Group, Hearn Formation)に行って、縞縞の美しい試料を確保すること。
    バクテリアの活動で形成されたストロマトライトは縞縞解析の対象として有望視さ れている。これを解読することで、太古代・原生代の潮汐周期や気候変動周期を読み 取りたい 。しかしながら、現在までに試料を確保・記載したストロマトライトには、 定量的な縞縞解析に耐えうるきれいな縞を保存したものはなかった。Jones (1981)は本 地域のストロマトライトの中にきわめてきれいな縞をもった試料があることを記載し ており、これをねらって ”ピンポイント” サンプリングを行うことが本調査の第一の 課題である。
  2. ストロマトライトの形態・形成環境の調査。
    ストロマトライトは バクテリアが作ったバイオマットの化石である。当時の生命と地球 環境の相互作用を 具体的に明らかにするために、ストロマトライトがどういう環境でどの ように成長し ているかを詳しく調べる。原生代の地球ではどこの海岸にいってもストロマ トライト が成長していた、といっても過言ではなく、いわばこれをつくるバクテリアたち が地 球の主人公だったといえる。当時の主人公がどうその役回りを演じていたかを知る手 掛かりを得たい。
  3. 古地磁気試料の採集、BIFの採集。
    この近くには19億年の堆積岩・火山岩類の他に27億年前のYellowknife Super Groupの堆積岩(BIFもある)・火山岩類があり、太古代/原生代境界をはさんでの縞縞 解析用および古地磁気変動測定用の試料が採集できる。これを系統的に確保して、BIF の縞縞学、古地磁気強度変動および地磁気逆転史解読をめざす。
  4. 「完全連続サンプリング」を楽をしてうまくやる手法の開発。
    露頭にエンジンカッターやポータブルコアドリルを持ち込んで 機械化された試料採集を試みる。

参加者は日本から川上紳一(岐阜大)隊長のもと磯崎行雄(東工大、アメリカから 参加)、高野雅夫、吉岡秀佳、岡庭輝幸、堀 哲(以上名大)、吉原新(東大)の7 名。現 地ではH. Helmshtaedt (Queen's Univ., 熊澤さんの古い友人), B.Padjam (Dep. Indians and Noth. Affairs (DIAND) Chief Geologist), Jhon Brophy(DIAND District Geologist)ら と協力 して調査・サンプリングを行う。すでに5月末に熊澤・川上が事前打ち合わせのため カナダを訪問し、計画をつめて来た。

日程は以下のとおり。

7/9
関空出発、Yellowknife着
7/10−12
現地geologistらと打ち合わせ、Yellowknife周辺での古地磁気試料採集
7/13−21
Yellowknifeを拠点にDwyer Lake, George Lake, Russel Lakeなど Yellowknife Super Group(27億年)の試料採集。特にBIFの連続サンプリングを 試みる。 現地の地質学者はエンジンカッターで露頭を切り出す、という荒業をやってのけるらし い。お手並み拝見。
7/22−28
Blanchet Islandへ移動してストロマトライトサンプリング・調査。 ポータブルな送り機構付き電動コアドリルで径約5cm長さ80cmのコア採集を試み る。古地磁気測定にも使えるよう定方位で採集する。移動(水上飛行機+ボート)や キャンプは現地の釣り宿に手配をたのむ(この湖は夏休みの釣りのメッカらしい)。
7/29−7/31
Yellowknifeで試料の荷作り、発送等+予備日。
8/1
Yellowknife発
8/4
関空着
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●学会・研究集会(終了分)報告

とけい班主催研究会報告

                    大江昌嗣(国立天文台)
日時:
1996.2.9 10:30時から18:30時
場所:
名古屋大学理学部地球惑星科学教室
堀井雅恵(金沢大大学院)
「堆積物の磁化特性の変化と堆積環境変動: バイカル湖底堆積物の帯磁率変動」
堆積物の磁化特性はその堆積環境を反映すると考えられる。帯 磁率等の磁化特性が、δ18OやCaCO3などの気候変動による変化と逆相関にあることが 見いだされる。これは、温暖化に伴う生物活動の活発化した時期には、相対的に陸源 の鉱物が減るためである。これまでのバイカル湖の堆積物の調査から、18万年前に磁 気のinclinationに大きな変化があったことを突き止めた。
V.A.Kravchinsky (Inst. Geochemistry, Irkutsk, Russia)
「Paleaomagnetic investigation in Irkutsk paleomagnetic laboratory」
イルクーツクにおける、古地磁気研究の現状を述べ、 またバイカル湖におけるロシヤー米国ー日本共同の掘削計画を紹介した。
久保健一(東大教養)
「遠洋深海チャート層中の鉄の化学状態変化: P/T境界における環境変動の考察」
犬山のチャートについて、Fe2+/TotalFe(%)が大きい場合は、チャートの色は 灰色で還元的であり、小さい場合は、色が赤で酸化的である。チャートの 変化を観察するこ とにより、P/T境界直後に、海洋は還元的から酸化的に変わって行っ たことが知れる。
高野雅夫(名古屋大理)
「蛍光X線スキャナによる化学柱状図の作成:イスアBIFシリーズ」
蛍光X線スキャナが5時からマシンとして稼働しはじめた。この装置によって測定さ れた化学柱状図の例をいくつか紹介し、鉄とSi酸化物の区別等が明瞭であることを述べ 、また本装置によって(Kよりも放射能発生率の大きい)ジルコンを探せば、年代決定 が容易になることを述べた。
昼食・施設見学
特別講演(教室談話会に合流): 水谷 仁(宇宙研)
「Kuiper Belt 天体と微惑星の力学物性」
伊藤孝士(国立天文台)
「惑星系安定性の数値計算:中間報告(1)」
これまで のSympletic法を用いた、太陽系天体の軌道進化の計算から、内惑星については少な くとも3億年間は安定であるとの予備的結果を得た。今後、全惑星の40億年間につい ての計算は、W. Stationを使えば、4カ月でできそうである。
荒木博志・大江昌嗣(国立天文台水沢)
「数億年前の潮汐のパターン」
数億年前 に考えられる潮汐のパターンについて、資料の収集地点の緯度や、当時予想 される地 軸の傾きの関数として表して行く理論的解析を開始した。
薮下 信(京都大工)
「クレーター形成割合の周期性その後」
白亜紀の大変動は 何によったものであったか、その後の検討結果を述べる。この時期の地層から、アル バレスとミラー(1984)は、大量のイリジウムを見いだしている。生物の絶滅に3千万年 の周期があることが指摘される。それに関連して、銀河面に対する太陽の運動が上下 方向に約3千万年の周期を持ち、それが長周期彗星に影響を与えた可能性があること が上げられるが、他方、クレータの大半は、小惑星落下によることが指摘される。こ のクレータ(2km以上)には周期性は認められない。一方、地磁気の逆転や海水温変化 などに3千万年周期が認められ、白亜紀の大変動が太陽の銀河面での運動とどのよう に関わったのかは、今の所は明らかではない。
熊澤峰夫(名古屋大理)
「リズム・アナリシスとイベント・アナリシス」
単純な リズムの解析ではなく、サンプルに含まれるイベントの抽出を含め多角的な解析法につ いて、新しい手法への試みを述べた。
平田岳史(東工大理)
「ICP質量分析計によるジルコン年代測定法の開発〜ICP質量分析 計の 現状と紫外Nd-YAGレーザーの立ち上げについて」
ICP質量分析計によるジルコン年代測定法の開発を進めている。特に、 従来の液化に よるサンプルの測定に代わって、Nd:YAG Laserの照射による気化法を導 入している。今 回は、その装置とそれによって得られる処理能力の高速化について述 べた。  
大野照文(京大理)
「カンブリア大爆発の生物学的意味」
多細胞の生物(動物) の出現は約5億年前からであった。ストロマトライトが10億年 前以降減っているのは多 細胞動物に食べられたからであろう。バージェス化石動物群( 6億年前)等には、すで に現在のほとんどの種の分類の門が現れている。このような生命の大爆発が、どうし て起こったのか、近年の研究でも統一的な進化の考え方はできていない。おそらく、 殻をもった動物の発生には、大陸の出現に伴う燐成分が大きく関わっていたと思われ る。これらの解明には、今後、分子生物学の情報も必要である。
岡庭輝幸(名古屋大理)
「オルドビス紀縞状石灰質泥岩の縞縞解析」
しわしわしわ伸ばしのアルゴリズムを開発中である。
総合討論・来年度の計画打ち合わせ
次年度の国際学術研究によるカナダでの資料探査への参加、現在までのサンプルのデ ータベース化、測定データの本格的な時系列解析の開始と時計と関連した堆積過程の究 明と時系列解析法への反映、文献等の整理について、ホットな意見が交換され、これら に前向きに取り組んで行くことを確認した。
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ERI Workshop on "Effects of Plumes and Mantle Convection on Surface Tectonics" 報告

                    瀬野徹三(東大地震研究所)
期日:
1996年5月13〜14日
場所:
東大地震研究所

上記のワークショップが,東大地震研究所の共同利用研究集会として行われた.こ の会は,実質的に「全地球史解読」もでる班主催ともいうべきものであったので,ここ で報告する.プログラムは,全地球史解読ニュースレター第4号に載せてあるが,変更 点は,中西一郎(京都大)がキャンセル,

谷本俊郎(東工大)
Upper mantle tomography and plume quantification
および
松野太郎(北大)
A new form of the dynamic equation for viscoelastic media
が追加となったことである.

この集会を企画したのは,最近プリュームとマントル対流の,地球史に果たしてい る役割がますます認識されて来ているからである.プリュームによるエネルギーの放出 は全熱流量のせいぜい数10 %であり大きくないので,テクトニクスに対する意義はそ れほどでもないとする説がある.またプレートはむしろ自分に働く重力によって動いて いるので,その下のマントル対流からはデカップルしているから,マントル対流はテク トニクスとは直接関係がないという説も依然根強いものがある.しかしflushing eventの ようなグローバルなプリュームが起きた場合,あるいはマントル対流のレジームが急激 に変化した場合のテクトニクスに対する影響は,地質や環境に対するものを含めて甚大 である.また私自身,大陸プレートがマントル対流によって能動的に駆動されている証 拠を応力場の計算から最近得ている.このあたりで,もう一度プリュームとマントル対 流の地球史に対する役割を再認識したいというのが,このワークショップを開いた動機 であった.D. Yuen(ミネソタ大)が来日することが判っていたので,彼に呼びかける と,賛同して何人かの外国人に声をかけてくれ,おかげで5人の研究者を海外から費用 を出さずに呼ぶことが出来た.国内参加者を含めて,トモグラフィ,対流計算,テクト ニクスとそれぞれの分野から興味深い発表があった.トモグラフィから指摘された, 1000 km付近の深さの不連続面やスラブの停留が今後焦点となりそうだが,これとマン トル対流やマントル物性との対応づけはまだ容易ではない.いくつかの講演で,現実的 な下部マントル粘性率をもつ計算では,力強い高速プリュームが上部マントルに発生す る可能性が強調されたことも印象に残ったが,この集会には,地質学や地球化学からの 参加者をあまり含めることが出来ず,このような高速プリュームとデータとの対比とい う面では不足であった.今後,マントル対流計算の側の問題意識や計算結果と,地球史 でデータをとる・よむ側の問題意識とのドッキングが課題であろう.以下に個々の発表 の内容を列挙する.なおこの集会のアブストラクトは, http://banzai.msi.umn.edu/japan.html で見ることが出来る.

桜井太郎と深尾良夫は,データ数を増やしてFukao et al. (1992)のトモグラフィの安 定性と解像度を改良し,660 km不連続面の上でスラブがstagnantするケースとして,S. Kuril, Japan, Izu-Bonin, North of New Guinea, その下でstagnantするケースとして,N. Kuril, Mariana, Java,を得た.1100 kmより深いところには西太平洋ではスラブはない. これらのことからマントル遷移層は1000 kmまで及ぶと考えている.

Feng-Lin Niuと川勝均は,地震反射変換波をもちいて,日本とJavaの下で900 km付 近の不連続面の地域性を調べた.日本やJavaでは,Tonga (920 km)より変換点が深いこ とがわかった.またJavaでは,940 kmから1080 kmへと東から西へ不連続面が深くなっ ており,これは桜井・深尾で得られた高速度域が東から西へ深くなっていくことと相関 があるようにみえる.ただし,変換点は,東では高速度域の下になり,西では高速度域 の中に位置する.不連続面の原因に関して,phase changeであり高速度域の中で深くな る,あるいは化学的不連続でそれが垂れ下がっている,という二つの解釈を示 した.

谷本俊郎は,地震波トモグラフィを用いて,プリュームから排出される熱エネルギー の推定を行った.プリュームは境界層理論を用いてレーリー数でスケーリングさ,れる. プリュームヘッドの直径と厚さが観測されると,レーリー数が推定され,熱流量,プリュー ムの太さなどの諸量が推定される.これによって定量化された17個のプリュームから排 出される熱流量は,全地表熱流量の数パーセントであった.粘性率の温度依存性を考慮 しなくていいのか,またもしプリュームが遷移層から発生しているなら,プリュームの 太さと上下スケールが同じとなり,境界層理論が用いられないのでは,という指摘があっ た.

Craig Binaは,スラブやプリュームの中の温度圧力から推定される相転移とそれに 伴う化学成分・地震波速度の分布を上部・下部マントルにわたって詳しくしらべ,それ が地震活動,沈み込み,プリュームの上昇にもららす影響についてのべた.上部マント ルでは,650 kmの上に最も圧縮応力が大きくなるところが生まれ,ここで深発地震活 動が最も高くなる.スラブの中心部のmetastableなα相から相転移を起こすところでは 剪断応力が大きくなり,そこに二重深発地震面が見られる.すなわち深発地震は,個々 のfailure mechanismによらず応力と調和する.下部マントルでは,Liu et al. (1995)のpv --> mw + stの結果を用いると,プリュームの両脇の565-950 kmの深さでこの相転移によ りnegative buoyancyの領域が生じるので,トモグラフィの解釈に影響を与える,とした.  Volker Steinbachは,下部マントルviscosityが温度と深さによる時に,上昇するプリュー ムが,660 km不連続面とどのように相互作用するかを調べた.少数の強いプリューム が下部マントルで安定に存在する,不連続面から2次プリュームが上部マントル中に上 昇する,遷移層では,viscous disscipationによりmeltingやLVZが発生する,などの結果が 得られた.

Brigit A. Schroderは,下部マントルでピークを持つvan Kakenのviscosityを採用し, さらに660 km不連続面でviscosityにジャンプがある時に,下部マントルでプリュームが ゆっくりと成長した後,上部マントル中へ爆発的上昇し(blast),リソスフェアの下部 へ達した後水平方向へ流れて温度異常をもたらす,という現象を見いだした.

玉木賢策と中西正男は,デカンの洪水玄武岩の噴出量と西太平洋のプリューム起源 とみなされるジュラ紀以来の海底台地玄武岩の噴出量を比べた.デカンは,mid-plateで 噴出している,ホットスポット軌跡がある,継続時間が短い,などの特徴があるが,西 太平洋は,海嶺の活動に関連して噴出している,ホットスポット軌跡がない,継続時間 が長い,などの特徴があり,両者に違いがある.これはプリュームの形態の違いによる らしい.

松野太郎は,マックスウェル型の粘弾性構成方程式を数値的に取り扱うことを容易 にするグリーン関数を用いた新しい方法を提案した.

木戸元之は,海嶺の下に低速度の根がある場合とない場合で,海嶺のダイナミック トポグラフィが違ってくることを取り入れて,海底の年代/深度曲線を補正し,新たな 海洋プレートの冷却モデルを得て,いずれの場合が地学的にあり得るかを検討する考え を提案した.また,中波長のジオイドを用いてマントル粘性構造を推定する際に, generic algorithmを用いた逆問題法を試みて,遷移層に低粘性の層があるという解を得た が,まだ使用したトモグラフィに解像力が欠けており,信頼性がおけないと述 べた.

小河正基は,溶融を伴ったマントル対流の数値計算を行い,メルトがマントル対流 によって十分撹拌されるTCブランチ,活発な火成活動で化学的不均質な層が出来るCS ブランチの,二つのブランチが生じること,温度を上げていくと,TCからCSへの転移 が起きるが,これは非線形力学系の分岐現象と考えられることを述べた.CSブランチ で発生したテクトスフェアは,温度が下がるとTSブランチに移行し破壊されて困るが, これは下部マントルを考慮に入れた2層対流の場合には,保存される可能性があると述 べた.

岩瀬康行と本多了は,中心核の冷却を伴った地球の熱史の計算を3次元対流数値計 算によって行い,ローカルNuがローカルRaの0.3乗に比例する結果を得た. 得られた熱史はパラメーター化対流による熱史とよい一致を示した.

David Bercoviciは,いくつかのマントルのレオロジーを仮定し,吹き出し口と吸い 込み口を設けて,トロイダルな速度場が発生するか否かを調べた.stick-slipレオロジー の場合,あるいは温度依存性レオロジーの場合は,トロイダル速度場が発生する.これ らのレオロジーは同等である.

中久喜伴益は,相転移と深さ依存粘性率を考慮して大陸プレートを入れて対流計算 を行い,その影響を調べた.対流セルのアスペクト比が大きくなる,flushing eventが大 きくなる,大陸の下でプリュームは長時間とどまる,プリュームの下降流との相互作用 が大きくなる,などの結果を得た.

David Yuenは,n=3のnon-Newtonian power law rheologyを持つ流体で,かつ深さ・温 度依存粘性率を入れた場合,non-Newtonianの効果として,下降するプリュームに反応 して,プリュームが数m/yrの急速度で上昇する現象を見いだした.高速域とそうでない ところの間は50 km程度である.この現象は,地質現象の時間スケールの解釈に重要で ある.

Desiderius Masaluと玉木賢策は,ホットスポット系に対する中央海嶺の運動を調べ た.地磁気の縞模様の現在の位置から出発して,プレートの運動の復元を用いて過去の 中央海嶺の位置を復元する.大西洋中央海嶺の南の部分はほとんど動いていない.東太 平洋海膨は,イースター付近を回転極として時計回りに回転している.海嶺の移動速度 と玄武岩から推定されるメルトの発生の深度とは関係があるようである.

瀬野徹三は,大陸プレートを動かす原動力は吸い込み力ではなく,マントルドラッ グであり,深部のマントル対流が,プレートの底でプレートとカップリングしているこ とを,南米プレートの応力場の計算から示した.西太平洋は,ユーラシア大陸のドラッ グの働く前縁ではなく脇にある.このような大陸縁では,圧縮も伸張もあり得るが,そ れはスラブ上部の応力で決定される.しかし伸張応力下にあるマリアナは,スラブが down-dip tensionで,背弧は圧縮が期待されることと矛盾する.マリアナ弧の下では,プ リュームが上昇し,マリアナ弧前弧を東へドラッグしている可能性がある.

Dongping Weiと瀬野徹三は,ユーラシアプレートの応力場の観測と計算された応力 場を比較することにより,南海トラフ−琉球海溝での負のスラブ引っぱり力(吸い込み 力)が,応力場の形成に重要な役割を果たしていることを示した.この場合,ヒマラヤ での衝突力はさほど重要でない.今後3次元のより詳細な検討が必要である.

木村学は,過去6億年のプリューム活動の復元を行い,太平洋プレートの中で起き たプリューム活動が,環太平洋の沈み込み帯における付加体を調査することによって定 量的に見積もられる可能性を述べた.

丸山茂徳は,西太平洋のメガジャンクションの沈み込み帯の背後が地震波速度が低 速となり,マントルが高温状態であること,そこで縁海が開いていること,などの事実 は,stagnantしたスラブが下部マントルへ落下するとき,生じた上部マントルの空隙を 埋めるように下部マントルから暖かい物質が上昇するためであるという考えを述べた. このような落下が起きるときは,むしろ上部マントルの物質は引き込まれて下へ移動す るので,そのような穴埋めは起きないのではという意見があった.

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○「生命と地球の共進化」

「生命と地球の共進化」--重点領域研究「全地球史解読」公募成果発表会-- が6月6-7日 京都大学理学部においてひらかれた.ここにはプログラムのみ掲載し,報告は次回に回 します.

プログラム(*は発表者,pはポスター+口頭説明)

6月6日
セッション1 カンブリア大爆発
9:30 *大野照文(京大)・川上紳一(岐阜大)
カンブリア大爆発前史:プレカンブリア代の古生物
10:00 佐藤矩行(京大)
多細胞動物の起源と進化
11:00 川上紳一(岐阜大)
コメント:プレカンブリア代後期の地球環境
11:10 遠藤一佳(東大)
”カンブリア紀の大爆発”と腕足類の起源(P)
11:20 松岡数充(長崎大)(欠席のため大野照文が代読)
バージェス頁岩と反素質化石(P)
11:30-12:00
討 論
12:00-13:00
昼 食
セッション2 地球環境変動を読む新しい手法
13:00 三木俊克(山口大)
CaC3o系地殻物質の縞模様・ESRとラマン分光による研究
13:30 豊田和弘(北大)
KH68-4-15コア中の生物源燐酸塩に濃集した希土類元素の起源
13:50 海保邦夫(東北大)
生物の絶滅事変と多様化事変
14:40 加藤泰浩(山口大)
Ce異常から解読する全地球史を通じての海洋環境変遷
15:10 *木村進一・加藤泰浩(山口大)
生物起源のスペリオル型縞状鉄鉱床
15:30-15:50
休 憩
15:50 丸山茂徳(東工大)
PC/C境界のテクトニクス
16:40 *三田肇・下山晃(筑波大)
生物界大変動に見られる境界層の有機地球化学的研究
17:00 *有信哲哉・石渡良志(都立大)・海保邦夫(東北大)・Marcos A. Lamolada
K/T境界で森林火災はあったのか - 有機地球化学からの知見(p)
17:10 *福沢仁之・大井圭一・山田和芳・岩田修二(都立大)・鳥居雅之(京 大)
日本海-黄土地帯-地中海トランセクトにおける過去250万年間の大気循環変動 -チベット/ヒマラヤの上昇史との関係(p)
---- *福沢仁之・池田まゆみ(都立大)
汽水・淡水湖沼堆積物に記録された環境変動イベント-小川原湖・網走湖・諏訪湖に於ける13.6日〜数年単位の分析の可能性(p)
17:25 *西山亨・村田拓也(名大)
過去の宇宙線変化(p)
17:30 松本省吾(岐阜大)
ペプチド鎖伸長因子の分子進化と鉄鉱床から単離された本因子の進化的位置付け(p)
17:35 寺林優(香川大)
西オーストラリアピルバラ地塊の変成作用(p)
17:40
討 論
18:40
懇親会(会費約5000円)
6月7日
セッション3 バイオマット・バイオミネラリゼーション
9:00 *山本啓之・川上紳一(岐阜大)・牧陽之助(岩手大)・加藤憲二 (信州大)・平石明
初期地球の微生物生態系; 温泉バイオマットの役割
9:30 牧陽之助(岩手大)
硫黄芝の生態と顕微鏡下での観察(p)
9:40 熊澤慶伯(名大)・三田直樹(地調)
多量の酸化鉄を含む濁川源泉バイオマットのキャラクタリゼーション
10:00 田崎和江(金沢大)
様々な環境にみられるバイオミネラリゼーション -伊平屋,神通川における構想
10:50 *井原邦夫(名古屋大)・小川直秀・田中幹衛・向畑恭男
高度好塩性古細菌族のチトクローム酸化酵素
11:10-11:20
休 憩
セッション4 生命の初期進化
11:20 岩城雅代・伊藤繁(基生研)
光合成系の進化
12:10-13:10
昼 食
13:10 松浦克美・花田智・永島賢治(都立大)
好熱性緑色糸状細菌は最古の光合成細菌か?
14:10 山岸明彦(東京薬科大)
古細菌と生命の初期進化
15:10
討 論
15:20 杉山和弘(名大)
現生放散虫類(原生動物)の生態・細胞構造・共生生物について
15:30 増田耕一・*坂元尚美(都立大)
Paleovegetation(生活的古植生)を知りたい
15:40
総合討論
17:00
解 散
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●お知らせ

全地球史解読夏の学校の申込のお知らせ

別のページでごらんください

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京都大学生態学研究センター公募研究会
−地球環境の変遷と微生物のサヴァイバル−

                    山本啓之(岐阜大)
日 時:
1996年8月24-25日
場 所:
岐阜大学教育学部第二会議室
世話人:
片山葉子 (東京農工大学 tel & fax 0423-67-5732)
山本啓之 (岐阜大学 E-mail: kyama@cc.gifu-u.ac.jp, tel 058-265-1241 (ex. 2241)& 058-267-2240 fax 058-267-0156)

微生物生態学の関係でも,地球史のイメージと考え方のうえに微生物の進化と生態 をのせて,8月24から25日の2日間で下記のような研究会を開きます.全地球史解読の関 係者で興味のあるかたにも参加してもらいたいと期待してます.

生物の多様性,中でも微生物の多様性はきわだった特性であり,これは太古から現代 に続く地球環境の変遷を映して進化してきたものと言える.すなわち,夫々の場面にお いてそれまでとは異なるストレスの多い環境へのレスポンスがあり,その結果,新しい 環境での適応と進化を遂げることを可能にした.化石の形態だけでは構造や機能を推定 できない太古の微生物を探るためには,現生の遺伝子塩基配列に残された分子進化の痕 跡から系統を辿るのも必然的である.また初期地球の環境と環境変化の歴史を地層に残 された痕跡から探ることも必要である.さらに今の環境に生息する微生物の生態から類 推する作業も必要である.地球史において微生物が果たしてきた役割は定性的で概括的 にしか理解されてない.初期地球の環境でどのような種類の細菌が存在したのか,どの ような物質が細菌の作用で生成されたのか,また生態系としての構造は,など多くの疑 問が漠然の海に浮かんでいるように思われる.今回の生態研セミナーでは,微生物をひ とつの共通項に地球科学と微生物学の二方向から地球生態系を眺めて,その昔になにが 起こりそして今なにが観察できるのか,過去から現在までの流れを整理できればと期待 してます.

プログラム:

8月24日(土)
13:00-17:00 「地球史と生物の進化」
川上紳一(岐阜大学教育学部)
縞々模様から地球史を解読する
大野照文(京都大学理学部)
プレカンブリア代の生命の化石記録
松浦克美(都立大学理学部)
光合成細菌の進化
平石明(豊橋技術科学大学エコロジー工学系)
細菌の種と系統進化
18:00- 懇親会
  (屋形船で長良川の鵜飼い見物を予定してます)
8月25日(日)
9:00-16:00 「環境と微生物生態」
山本啓之(岐阜大学医学部)
細菌の生態進化
杉本敦子(京大学生態研)
メタン生成をめぐる共生系
田崎和江(金沢大学理学部)
鉱物と微生物
丸山明彦(工業技術院)
海底熱水活動域の微生物群集
木暮一啓(東京大学海洋研)
海洋細菌について
那須正夫(大阪大学薬学部)
都市河川の微生物生態系
加藤憲二(信州大学医療短大部)
環境変化と細菌群集
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国際会議 --太陽系内微小天体の力学と地球史における役割-- のお知らせ

                    京都大学工学部 薮下 信

過去2回にわたって行われました国際研究集会(Dynamics and Evolution of Minor Bodies ... 1991,及び Small Bodies of the Solar System and their Interactions with the Planets 1994)に続きまして,1997年8月(IAU総会の前)に同じ趣旨の国際会議が企画され, その大要がまとまりつつあります.外国からは招待講演者の形で約20名に参加して貰う べく,準備を進めております.

日程:
1997年8月中旬の約1週間(6日間)を予定している.
なお,この時期(8月18日 から)には,国際天文連合(IAU)の総会が京都で開かれ,その前の1週間を予定して いる.約20名の招待講演を1日4講演ずつ消化し,その間に一般講演をはさむという形と したい(過去の京都会議の例).半日は,出席者全員による琵琶湖周遊(または水泳) も企画している.
会場:
ダイニック天究館(滋賀県犬上郡,宿泊無料・食費のみ参加者の負担で交渉中) で4日間,京都にて2日間行う.IAU総会出席者のため,多数の来日が予定される.当会 議への出席者の多いテーマにつき,京都での会場(例えば京大会館)を利用する.
組織委員会:
J.J. Matese(米・南ルイジアナ大学・教授), H. Henrard (ベルギー・ナムー ル大学・教授), D. Steel(豪・英オーストラリア天文台主任研究員), M.R. Rampino (ニューヨーク大学・準教授), 薮下信 (京都大学・教授)
連絡先:
京都大学工学研究科 薮下 信 FAX 075-761-2437
目 的:
太陽系内の微小天体(小惑星,彗星)は,原始太陽系の生き残りとして太陽 系創成時の物理的,化学的情報を保存している点において重要なだけではなく,その運 動は極めて複雑で現在注目されているカオスの具体例として極めて興味深い.さらに太 陽系の属する銀河重力場が長周期彗星の運動の支配的メカニズムでもあることが判明し, 太陽系と銀河を関連づける媒体として注目される.さらに近年,微小天体と地球の衝突 が生物絶滅を惹き起こし,地球史の重大なドライビング・メカニズムとなっていること が判明しつつある.これらのテーマにつき,世界の第一線の研究者を招待し,時間をか け,ゆっくりと討論することを目的とする.
過去の経過:
上記の趣旨に沿った会議(研究集会)は2度行われている.即ち,1991 年11月に京都において行われた.1994年8月にはスカンディヴィア地方バルト海のアー ランド島(フィンランド領)にて行われた.テーマは地質と銀河に関連する微小天体の 力学と進化(1991),太陽系の微小天体と惑星との相互作用(1994)であった. 成果:多くの国際会議は,発表講演の要旨(アブストラクト)を集めて印刷するのみ であるが,上記2会議においては単行本として論文集が発行されている.特に第1回目の ものは,学術誌 Celestial Mechanics and Dynamical Astronomy の特集号としても発刊され, 極めて高い評価を得ている.1994年の会議の論文集は Earth, Moon & Planets 第72巻 (1996)として発行された.
主たる出席者あるいは出席予定者:
H. Henrard (ベルギー・ナムール大学・教授), D. Steel(豪・英オーストラリア天文台主任研究員), M. R. Rampino (ニューヨーク大学・準教授), B. Ivanov(ロシア科学アカデミー),J. J. Sepkoski(シカゴ大学), A. Y. Glikson(オーストラリア地質調査所), J.-Q.Zheng(フィンランド,トルク大学), F. L. Whipple 博士(ハーバード大学名誉教授,前ハーバード天文台長,ただし,高齢のため不参加もある).
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あとがき

全地球史解読も2年目の半ばを迎えつつあり,このプロジェクトの重要な部分をしめ る海外調査によるサンプル採集が,文部省海外学術を含めてこの夏行われようとしてい ます.廣瀬敬と高野雅夫が本号で報告しているアフリカ,カナダの調査の他,西オース トラリア(代表磯崎行雄)が行われます.さらに将来Pc/C解明のために,東オーストラ リアで調査を行う予定であり,ピンポイントを絞り込むためのワークショップを8月 の下旬頃に開くつもりでいます(世話人大野照文).この合間をぬって,夏の学校が8 月下旬開かれます.若い人たちは(年寄りも)ふるって参加されるようお願いします.

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重点領域研究「全地球史解読」連絡先

代表者
熊澤峰夫
名古屋大学理学部, 教授, 464-01, 名古屋市千種区不老町, 052-781-5111ex2536, 052-789-3013, 052-789-3033, kumazawa@eps.nagoya-u.ac.jp
とる班代表
丸山茂徳
東工大理学部地球惑星, 教授, 152, 目黒区大岡山2-12-1, 03-5734-2618, 03-5499-2094, smaruyam@geo.titech.ac.jp
とけい班代表
大江昌嗣
国立天文台水沢観測センター地球回転研究系, 教授, 023, 水沢市星ガ丘町2-12, 0197-22-7136,0197-22-2715, ooe@gprx.miz.nao.ac.jp
よむ班担当
川上紳一
岐阜大教育学部, 助教授, 501-11, 岐阜市柳戸1-1, 0582-93-2262, 0582-30-1888, kawa@cc.gifu-u.ac.jp 
もでる班代表・事務局
瀬野徹三
東大地震研究所, 教授, 113, 文京区弥生1-1-1, 03-3812-2111 ex.5747,03-5802-2874, 03-3816-1159, seno@eri.u-tokyo.ac.jp

このページは、瀬野徹三さんから次のメイリングリスト記事として 提供されたものに基づいています。

Date: Thu, 18 Jul 96 12:40:18 JST
From: seno@seno-sun.eri.u-tokyo.ac.jp (Tetsuzo Seno)
Message-Id: <9607180340.AA00750@seno-sun.eri.u-tokyo.ac.jp>
To: multier-news@seno-sun.eri.u-tokyo.ac.jp
Subject: zenchikyushi newsletter no.5

HTML版作成: 1996-07-23
増田 耕一 (東京都立大学 理学部 地理学科、
「全地球史解読」総括班員・情報処理担当)
masuda-kooiti@c.metro-u.ac.jp
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