April 18, 1996 発行 全地球史解読事務 113 文京区弥生1-1-1 東京大学地震研究所 瀬野徹三 tel 03-3812-2111 ex 5747 fax 03-5802-2874 e-mail seno@eri.u-tokyo.ac.jp
小河正基 (東大・教養)
(HTML版では今のところ図は省略されています。)
筆者のこれまでのマントル対流・火成活動結合系の数値シミュレーショ ンにより,(i)初期の上部マントルは化学的に成層しており,深部はソ リダス温度付近とかなり高温になり,火成活動も活発に起こるが,(ii) やがて,放射性元素の壊変の結果内部での発熱が弱くなると,ある時突 然,化学的成層はカタストロフィックにこわれ,深部の温度は急激に下 がり,火成活動もほとんどやんでしまうことが示唆されてきた.なぜ, (i)から(ii)への変化がカタストロフィックに起こるのかを理解する ため,一定の強さの内部熱源が一様に分布する深さ650kmの2次元の箱の 中での粘性率一定の流体の鉛直対流とマグマ生成・移動の数値シミュレー ションを行い,定常状態における箱の中の熱・化学的状態が内部熱源の 強さに応じてどう変化するかを調べた.
図1に対流の2乗平均速度および箱の下面での温度と内部熱源の強さの 関係を,図2に図1に示されたA,Bの点における温度・メルトの分布・化 学組成(玄武岩的物質の量)の分布を示す.化学組成の図で影を付けた 部分は玄武岩的物質の少ない,低密度の絞りかす物質の占める領域をあ らわす.これらの図から明らかなように,火成活動・マントル対流結合 系には,二つの枝が存在する.一方の枝(CS-branch)では,活発な火成 活動のため箱は化学的に成層し,深部の温度はマグマが生成されるほど に高くなり,対流は化学成層のため押さえられているが,他方の枝 (TC-branch)では,箱の中の温度が比較的低いため,火成活動はあまり 起こらず,箱は化学的に均質になり,対流はほぼ純粋な熱対流として活 発に起こる.この二つの枝の間には,内部熱源の強さの増減に応じてヒ ステリシスが見られる.
さらに,TC-branchは,図3に模式的に示したように,geothermの肩の部 分がソリダスに触る程までに内部熱源が強くなると不安定になり CS-branch にとって替わられることがわかった. 筆者のこれまでの数値シミュレーションで見られたカタストロフィッ クな遷移は,放射性元素の崩壊のため内部熱源が弱くなることによって 起きるCS-branchからTC-branchへの転移の結果である.
最近のArchean MORBの研究から,Archeanのころの海嶺の下のマントル の温位は,1420度程度と見積もられている(丸山,1995).この温位は, Archeanの頃は,平均的geothermの肩がソリダスにぶつかっており,従っ て,このころの上部マントルの熱・化学的状態はCS-branchに属していた ことを示唆している.他方,Proterozoicに入ると,上部マントルの状態は 今と同じでTC-branchに属していたと思われる.このことから, Archean-Proterozoic境界は,CS-branchからTC-branchへの転移に対応する ことが示唆される.
[目次へ]吉田茂生(東大地震研)・浜野洋三(東大理)
(HTML版では今のところ図と数式は省略されています。 また、本文中「???」としたところに欠落があるので、追って補充する 予定です。)
昔の地球磁場の情報から昔の地球深部について何が読みとれるかを考 えてみる.そのためには,今の地球磁の情報から今の地球深部について 何が読みとれるのかを知らなければならない.まみる.現在の磁場の大 きさが何を意味しているのかは今のところわかっていない.パターンに ついてはさらに「移動成分」と「停滞成分」とに分ける.「移動成分」 は数十から数百年のスケールで見て(主として西に)移動しているよう に見えるパターン,「停滞成分」はその時間スケールでは止まっている ように見えるパターンである.
それらが何を意味しているかを考える.現在の主流の考え方によれば, 「移動成分」は外核表面の流れを直接反映している.我々はそうは考え ない.「停滞成分」こそが外核表面の流れを直接反映しており,「移動 成分」は外核深部まで含んだ波動的な運動の現れであると考えている. その最大の理由は,パターンがマントルに対して停滞しているというこ とは,マントルと外核との強い相互作用を示唆していると見ているから である.そうでなければ,磁場のパターンがマントルに対して固定され る理由がない.したがって「停滞成分」はマントルの強い影響を受けて いるはずの外核表面近くの流れによって作られており,「移動成分」は マントルの影響を受けにくいより深部の流れを反映していると考えてい る.
さて,「停滞成分」が外核表面近くの流れによって作られていると仮 定して,その流れを求める方法があるだろうか? 本稿ではその予備的な結 果を紹介する.
従来は「移動成分」が外核表面の流れを反映していると見て,いわゆ る凍結磁場近似
(1)略によって外核表面の流れを推定してきた.その結果によれば,もっと も目立つ特徴は,熱帯大西洋の下の外核表面に強い西向きの流れがある ということである.しかしながら,そういう流れは,下部マントルの対 流パターンとは全く関係がないように見え,外核はマントルの強い影響 を受けているはずだという私達の偏見からすれば受け入れ難いものであ る.
もし「停滞成分」が外核表面の流れを反映しているものならば,「定 常拡散近似」
(2)略によって外核表面の流れを求めるべきである.しかし,この方法には 大きな問題がある.それは磁場の動径微分がわからないため,上式の右 辺が見積もれないことである.その対策はまだ十分にはできていないが, いい加減に胡麻化して,IGRF (Langel, 1992) の磁場の波数3までのパター ンを再現するように求めた流れとその収束発散を示したものが図1である. もっとも著しい特徴は,北米,ヒマラヤ,オーストラリアの南側,南太 平洋の東側に収束域が存在することである.これらの収束域は下部マン トルの低温部(図2)にほぼ対応しているように見える.すなわち,マン トル対流の下降流域と,外核対流の下降流域とは非常に良く対応してい る.つまり,マントルの対流の下降流のところは,外核から良く熱を奪 うので,その部分が冷えて下降流になる,という関係があると考えられ る.これは,外核の流れがマントルの強い影響を受けているはずだとい う私達の偏見にぴったり合っている.したがって,このような流れこそ が,外核表面に存在している流れであると私達は考えている.
そういうわけで,磁場の停滞成分は外核表面の流れのパターン,そし てひいては,下部マントルの対流パターンを反映していると考えて良さ そうである.全地球史解読という観点からすれば,昔の磁場のパターン から下部マントルの対流の様子が変わっていく様子が解読できる可能性 を示唆するものである.古地磁気から磁??? しかし,もしそれができれば,マントル対流の歴史がわかるはずだ.
図1 IGRF 90 から求めた外核表層の流れ場と発散場 (実線が発散,点 線が 収束)
図2 下部マントルのS波速度構造(実線が高温と考えられる低速度域, 点線が低温と考えられる高速度域)(Dziewonski et al., 1993)
[目次へ]椛島太郎・寺林 優(東工大)
遅ればせながら,95年12月24-25日に東京工業大学において開かれた, 『とる班』 主催の研究集会について報告する.この集会は当初,12月 25-26日に予定されていた が,『もでる班』の集会が26-27日に予定され ていたためオーバーラップしないよう に急遽変更された.2日間で35件 の講演が行われ(ニュースレターNo.2参照),参加人数はのべ100名程 度であっ た.また,約90ページに及ぶ講演要旨が配布された.
『とる班』の目的は,「とる班は,よむ班のために試料を集めるだけが任務ではな く,自ら読む努力もする.我々の目的は,精密な地質調査を行い,その 結果から
このような目的に向かって,以下のような セッションが設けられた.1日目 :(1)今年度の成果報告の概要, (2)地球化学,(3)地域地質,(4)地質時代境界,2日目:(5) マントル,(6)大陸衝突帯,(7)方法論,(8)平成8年度の研究 計画および総合討論.
初日は,丸山氏による今年度の成果報告からはじまり,山口大グルー プの講演では 海底堆積物から大気−海洋−地殻−マントル−核からなる 地球システムの相互作用を 解読する試みが紹介された.午後は主に東工 大グループによる本年度のオーストラリ ア調査に関する報告が続いた. 翌日は正門近くの百年記念館に会場を移して行われた .マントルセッショ ンでは太古代緑色岩に始まって顕生代の火山岩,現在の地震波ト モグラ フィーに至るまで,大陸衝突帯セッションでは19億年前の造山帯とヒマ ラヤと いうように,地球史を通じた活発な議論が行われた.方法論セッ ションでは本重点領 域の中でも重点的に投資されている『5時からマシ ン』と『改造型ICP-MS』について の現状が報告された.高野氏はイス アのBIF連続試料の分析結果を報告した.平田氏 は,イギリスのサウザ ンプトン大学で行った予察的実験から,東工大に設置された改造型 ICP-MSの測定誤差が例えば3800±1 Maを切るほど高性能であることを示 した.川 上氏から次の重要なターゲットとして,太平洋の誕生や生命の 急激な多様化が起きた ,先カンブリア/カンブリア時代境界が提案され た.地球史の解読には現在の地球で 起こっている現象の理解が不可欠で あり,特に2日目にはそのような発表(例えば, 阿部ほか,大林ほか, 小木曽など)を多く取り入れたプログラムが組まれ,相互の理 解が進ん だように思える.一方,『とる班』の研究対象が太古代に偏りすぎてい ると いう指摘があり,今後その対象を原生代にも広げていくことが提案 された. 最後に来年度の研究計画について話し合われた.具体的には 海外学術調査について ,「カナダ(代表:熊澤)」,「西オーストラリ ア(磯崎)」,「東太平洋海膨(浜 野)」がすでに決定していることが 報告された.廣瀬氏から自由度の大きい「東太平 洋海膨」で南アフリカ へという嘆願がなされたが,インド洋を越えるのは難しいらし く,熊澤 氏から「旅費の一部を海外調査に当てられるかも」というコメントが出 た. また,先カンブリア/カンブリア時代境界の調査のため,「西オー ストラリア」にリ ンクして南オーストラリアのアデレードに行くことが 提案された.
25日の夜に行われた懇親会には,40名を越える方々が参 加し,一時は席が足りない という事態に陥りながらも大変盛り上がった. 「若者への配慮ということで24日に懇 親会を開かなかった」と世話人か ら説明があったが,遠方からの参加した若者からは 陰謀ではないかとの ブーイングがあった.また,クリスマス・イブに家に帰れないの は「お 父さんにもつらい」という声も聞かれた.懇親会最大のハイライトは当 日お誕生日を迎えられた高野氏と前日お誕生日を迎えられた丸山氏によ るケーキカットであった.
[目次へ]瀬野徹三(東大地震研)
もでる班主催の研究集会が東大地震研究所において95年12月26-27日開 かれた.正確な参加者人数は,記名していない人も多かったのでわから ないが,延べ100人くらいになるであろう.すなわち二日とも会議室が一 杯となった.この直前の二日間東工大においてとる班主催の研究集会が あり,そこではとる班の目標のもとにいろいろな側面から実際の作業を 行っている学生や研究者が多数発表し,その機動力を見せつけられる思 いがした.もでる班周辺では,普段一丸となって研究しているわけでは ない.むしろ個々の研究者の自発性にまかせるやり方をとっている.こ れは,個性の強い研究者が多いということもあるが,モデル化という作 業がすぐれて個人的な営みであることにもよるだろう.それにしても 「全地球史解読」というプログラムのもとに研究を行う以上,共通の目 的意識のもとに問題意識を深め,研究者同士の相互作用をはかる必要が ある.というわけでそのような相互作用を目的として,研究発表のプロ グラムを,吉田茂生,伊東敬祐,阿部彩子,中久喜伴益,本多了各氏に 助けて頂いて組んだ(ニュースレターNo.2参照).便宜上,多圏相互作 用,非線形力学,マントル対流,ウイルソンサイクルと地球環境,とい うセッションに分け,それぞれ計画研究や公募研究に参加している人た ちのみならず,なるべく広い範囲の人に講演をお願いし,また参加も呼 びかけた.その結果,常連の人々の参加は当然として,相当数の常連以 外の方々や若い学生諸君が参加されたこと,また熱心に討議やポスター に参加していただいたことは主催者としては大変うれしいことであった. また講演内容も充実したものが多く,この種の研究集会としては質の高 いものであったと感じたのはひいき目であろうか?
この研究集会はカバーする範囲がマントル対流から環境,古生物,気 象,気候,非線形にまで渡っていたので,すべてをよく理解するのは並 大抵ではない.なるべく他の分野の人にわかるように話をして頂くこと をお願いはしたが,それにしても限度があろう.講演時には間に合わな かったが,理解を助けるために講演者に講演要旨を出して頂き,報告書 として印刷する予定でいる.
最後の総合討論の時にも甲斐さんから,なにを焦点にしているのかわ からない,もっと中心となるものを絞るべきではないか,という意見が 出されたが,熊澤氏も当日述べたように,我々はこのような雑多な研究 者同士の相互作用(もちろん各自がそれぞれ自分の得意な研究手段をも ちながら)こそが,全地球史を多圏相互作用の観点から明らかにしてい くすべではないかと考えている.そのような研究者同士の相互作用の展 開があちこちで,例えば講演後の質問時や懇親会の時,あるいは休憩時 に見られたように思われる.このような研究者どうしの相互作用をいか に深めたらよいのかは,総合討論の時にも議論されたが,今回のような 研究集会や夏の学校,さらにはゲリラ的ワークショップを開くこともや りながらも,共同研究へ発展させ,それを論文として結実させる積極性 をもつことが必要であろう.最終的には研究者の業績は論文でしか評価 されない.全地球史解読という研究プロジェクトも,どれだけすぐれた 論文を排出したかによって究極的には評価されることになろう(この3年 以降も含めて).海外への宣伝・波及効果もすぐれた論文が一番効果的 ではないだろうか.そういうわけで今回の研究集会のようなイベントは もちろん欠かせないが,論文を生産することにもシビアであらねばなら ないと,自戒の言葉としたい.基本的なデータベースの構築も,メール で流れたように増田耕一氏を中心として総括班で検討中である.メール リストのzebraとmultierをさらに活用することも必要であろう.以上研究 集会の簡単な報告と感想です.講演内容に関する報告は,別に何人かの 方にお願いする予定です.
[目次へ]吉田茂生 (東大地震研)
多圏相互作用の部の講演は吉田茂生(東大地震研), 佐藤正樹(埼玉工大), 巌佐庸(九大理)の三氏によって行なわれた. 巌佐さんは全地球史の メン バーではないが, 数理生物学の第一人者として特別に来ていただき 講演 をしていただいた.
吉田はマントルと外核の対流の熱的相互作用,および外核と内核の 流 れの相互作用とその地球史との関わりについての全般的なレビューを 行 なった.吉田はまず,磁場のパターンから外核表面の流れを求める 新し い方法論の可能性を示し, その結果求められた流れに マントル対流のパ ターンと良い相関があることを明らかにした. それゆえに, 古磁場のパ ターンの観測が昔のマントルと外核の対流の様相を 明らかにしてくれる 可能性があることが示唆される. 次に, 吉田は 内核の流れが外核の対 流の非等方性によって起こること, それが 地震波速度の異方性の観測に よってわかることを示した. 内核が地球史に渡って成長を続けているこ とを考えると, 地震波の詳しい観測から内核の成長史と外核の対流の変 遷が 読みとれる可能性が示唆される.
佐藤さんは, 大気と固体地球との角運動量交換の物理的メカニズムに 関して 解説をした. 特に, 大気の角運動量がどの程度変わりうるもの であるか, と いう点に関して大循環モデルを用いて調べた結果を解説し た. 数年来, 吉田・浜野は固体地球の角運動量の数十年スケールの変動 は 地球表層に原因があるのではないかと考えているが, 佐藤さんの結果 によると, 大気だけではオーダーが一桁程度足りないということである. 熊沢尊師から吉田に対し, 佐藤さんへの愛が足りないのである, という お叱りがあった.
巌佐さんは, 生物の絶滅の数理モデルのレビューおよび最近の 研究結 果について解説をした. 特に, 大量絶滅の痕跡が遺伝子情報に残りうる か どうか, というトピックについて話しがあった. 数理モデルを使っ た 研究の結果によると, 種の大量絶滅の痕跡は残らないが, 種の爆発 的分化の 記録は残るということであった. 全地球史解読のグループには, 数理 生物学の研究者はいないので, 筆者には非常に新鮮で面白い話しで あった. 地球の生物の進化史に数理的モデルを応用することは, まだ不 確定な部分が 多く困難であろうが, 可能性はあるだろうと感じた.
[目次へ]以下のような研究集会・学会が開かれた.プログラムを今号では載せ 報告は次回以降に回します.
世話人:丸山茂徳・熊澤峰夫
平成7年度から3年計画で発足したこの重点領域研究における地球惑 星科学 としての研究戦略とその展望,これまでに得られた成果のいくつ かを提示し, 批判を受けて将来へのさらなる発展を期したい.「全地球 史解読」の「全」 は「地球」にかかり,「史」にかかり,かつ「解読」 にかかる.全が地球に かかるとき,地球を取り巻く宇宙環境から中心の コアまで,いわゆるテクト ニクスから大気海洋,生命の発生進化まで, それらのすべての相互作用を考 慮する.全が史にかかるとき,われわれ は物証に基づくという拘束をみずか らに課すので,40億年前までを日 変化の時間スケールで考える.全が解読 にかかるとき,歴史的事件とし て反復再現実験できない進化を科学として解 明する常套手法として,さ まざまな階層のモデリング手法を開発しこれを組 織的に使って作業仮説 転がしを行う.解読実務作業には新しいテクノロジー を自ら開発し,楽 をして多量の新しい質のデータを得る近代的研究手法を開 拓し,そのデー タに基づいて新しい概念を生み出そうとする能動的で知的な 環境の普及 を目指す.当然,地球惑星科学以外の諸分野との強い連係共進化 を策し, 古典的意味における地質学の枠をこえて,それを包含する新しい研 究ス タイルとパラダイム創造を目標にする.
増田 耕一(都立大学・地理)(オリジナルを瀬野が改変)
「全地球史解読」の総括班に名前を連ねている増田です. 科学研究の成果を人類共有の知的財産にするためには,それを多くの 人がアクセス可能な形にしていかなければなりません.つまり,データ ベースの「全地球史解読」という科学運動は,もちろん3年で終わるもの ではありません.むしろ重点領域プロジェクトはその「始まり」にすぎ ないでしょう.しかし,プロジェクトで動いた期間に得られた知識をま とめておくことは,研究費がむだになっていないことの証拠としても, また次に進む準備としても重要なことと思います.
データベース作りと言っても,いろいろな課題があります.地質サン プル自体の保存は別に考えるとしても,サンプル自体をいろいろな方法 で画像化したもの(使っても減らない)をデータベース化することも有意 義だと思います.一方,ある程度の想像をまじえて,各時代の世界像を 描き出す,いわば「全地球史絵巻」ができるといい,とも思います. 自分の課題として取り組めそうなものとして,次のようなことを考え ました.やや流行的な名前をつければ,「全地球史ナビゲーター」です. 「時代を指定すると,世界地図の中に,その時代の古環境の証拠のあ る地点が表示される.これは現在の地図上の表示と,復元された過去の 海陸分布上の表示が選択でき,また復元にいろいろな説がある場合はそ れを選択できるようにする.地点を選ぶと,文献データが表示される. それは,その地点の地層のサンプルの説明であったり,それを使った古 環境の議論であったりする.なお,文献データについては,「全地球史 解読」メンバーによるコメント(なぜその文献をとりあげたか,など)が 署名入りで加えられている.」
太古代の,まったく同じ時代のサンプルが他の地点にあるかどうかわ からないような時代を扱うためには,このようなデータ整理の方法が有 効かどうかよくわかりません.わたしが無意識に顕生代を念頭に置いて 考えてしまったことは確かです.しかし,気象学の教育を受けた立場で は,大気成分ならともかく,温度などの証拠は,地球上のどのような位 置(緯度,海陸配置中の位置)にあるか知らずには,ほとんど解釈できな いように思えます.こういう言い方をするとかどがたつかもしれません が,地図上に表示されないとデータはわたしにとって意味をもたないの です.
さて,わたしは重点領域の名簿に「情報処理担当」としてのっていま すし,実際最近の仕事は計算機関係の技術に偏っているのですが,かつ て大型計算機のエキスパートとして自信をもっていたわたしは,今では 技術革新についていくのがせいいっぱいで得意技なしになってしまいま した.上に述べたソフトウェアを開発するためには,データベースとグ ラフィックスの技術が必要ですが,わたしはすぐに使える道具を持って いません.計算機やソフトウェアを買えばすむというものではなく,使 い方のノウハウを蓄積する必要があります.わたしがひとりでやるとす ると,およそ10年くらいかかる見込みです.これでは重点領域の成果と して打ち出せないばかりでなく,実質的に時代遅れになってしまうでしょ う.それが,まだ始める決断ができない理由です.
どなたか,以下のような点で具体的に(ある程度時間をかけて)参画して くださるかたはいらっしゃいますでしょうか?
しばらく前に述べた「地球史データベース構想」について,もうす こし整理した 形で述べたいと思います.
科学全体を,人類がその環境に対する認識を深めることとみなすこと もできる でしょうが,特に地球科学のねらいはそこにあると言えるでしょ う.科学的認識 の発展のために,方法論的細分化が意味があることも確 かにあります.しかし, それを共通の土俵に乗せなければ,人類共通の 知識にしていくことはむずかしい と思います.
また,研究方法の中でもデータベースが必要な場合があります.数値 モデルの 典型である大気大循環モデルは,地球環境の歴史の研究に使え そうな「飛び道具」 のひとつですが,それを実際の問題に応用するため には,シミュレーションの 境界条件としてか,検証データとして,対象 となる時代の地表面状態の地球上の 分布が必要です.個別の点のデータ では役立てることがむずかしいのです. 対象となるプロセスとして考え ても,大気や海洋の循環形態は,温度や水分の 絶対値よりも,その場所 によるコントラストのほうを反映する傾向があります.
そのようなねらいを持った研究例として,第四紀に関するCLIMAPがあ りました. 2万年前の氷期最盛期(出版1976, 1981)と,12万年前の間氷期 (1984)について, たとえば,浮遊性生物の種構成から推定した海面水温 の分布を示し,それは 大循環モデルによる実験に使われました. このような見かたで,地球史全体を見ていきたいと思います.
CLIMAPは地球史の中ではごく最近の,証拠がたくさん残っている時代 を対象と しており,化石の種も大部分が現在も生きているものであると いう条件のもとで 成り立っています.過去にさかのぼっていけば,デー タ間で,年代や数量化の基準 をそろえるのはむずかしくなっていきます. 仮に定量化された変数の分布図を 作ったとしても,利用者としてはその 根拠のデータや文献にあたることができる 研究環境がほしくなります. また,海陸分布に関しては,第四紀では海水準変動やローカルな地殻 変動を気に するだけでよかったのですが,地球史としては大陸の形成や 移動を扱う必要があり, その復元作業のためにも,候補となる海陸配置 図の上に古環境の証拠を表示して みることが有益だと思います.
したがって,研究者のためにも,社会に公開するためにも, 変更可能 な古地理図の上に,データが得られている地点に古環境指標を表示し, そこから参考文献が検索できるようなしくみを作るのがよいだろうと思 います. 具体的内容は研究向けと公開向けで違ってくるかもしれません が,基本的 わくぐみは共通に考えたいと思っています.
研究者が共有する文献データベースという面では,SMLESIS(島津, 1984)や YAWL(浦部,秦野,1983)の流れに位置づけることができるかも しれません.
「全地球史解読」がプロジェクトとして意味があるためには,メンバー の研究 成果が共有されることが必要です.ここに目標をしぼり,しかも 先ほど述べた 理念に向かって前進になるような,小規模な努力をしたい と思います.
使える能力の関係で,次のように仕事を限定することを考えています. 地理データベースと文献データベースとの関係は疎なものとします. 両方をうまく扱えるプラットフォームがあるか,まだわからないから です.また,データのネットワークによる公開のためのプログラムを新 しく作ることはしないものとします.ネットワーク経由で検索できるの は既存の プログラムを使える範囲(おそらく文字による検索に限る)こと になります. それ以上の利用のためにはデータの置かれた場所に出向く か,ファイルを まるごと転送して独自に検索する必要があります.内容 は,「全地球史解読」メンバー全体に広く薄くかかわるものと,その一 部のデータベース整備に意欲をもつメンバーの研究にかかわるものに限 定します.
具体的には,重点領域メンバーに呼びかけて次のものを収集したいと 思います. (実際に始めるかどうかは,これからの総括班の話し合いに よります. これはタタキ台的な案です.)
データを収録する場所ですが,書誌情報については,名古屋大学大型 計算機センターのYAWL(浦部ほか,1983) に入れることを考えています. これならば,大型計算機センターの利用資格が ある人には公開でき,計 算機システムを自分で管理する必要がありません. ただし,ドキュメン トを読んだ限りでは,これは日本語のひらがな・漢字を 扱えないようで す.
別案としては,都立大学の計算機センターのIBMのUnix上のリレーショ ナル データベースソフトウェア「DB2」にのせることも考えています. ただし 大学外からの利用は,少数の人ならばユーザー登録できますが, 多数になると むずかしいかもしれません.データベース置き場のマシン を自分で管理すれば もちろんユーザー登録は自由にできますし,プログ ラミングをくふうすれば 匿名アクセス機能をもたせることもできるので すが,少なくともわたしには その余力がありません.(自分が引き受け るというかた,いらっしゃいますか?)
古地理図や地点分布については,都立大学に最近はいった地理情報シ ステム用 ソフトウェア「Arc/Info」にのせることを考えています. ネッ トワークに接続はされますが,基本的に,計算機の置かれたへやで ロー カルに利用することを想定したシステムです. ここで作業して作られた画像やテキストファイル(データベースとして の構造は 失っています)を,WWW形式でインターネットに一般公開しま す.また, 公開まではいかないがメンバー間や共通の関心をもった研究 者との間で交換 するものについては,パスワードつきのftp(ファイル転 送)が可能なところに 置きます.
くりかえしますが,以上はタタキ台的な案にすぎません.これから総 括班で相談 する予定ですので,関心のあるかたのご意見,コメントをお 待ちしています.
高野雅夫(名古屋大理学部)
2/9 名古屋大学にてとけい班研究集会を開催しました. とけい班研究 集会についてはまた後程ちゃんと報告するとして,その時に議論となっ たデータベース構築のことについて発言します. 名古屋のデータベース 作成作業もだんだんと形を整えてきて,ようやく一つの試料に ついてカ ラー画像,元素組成画像,放射能画像などを並べて見ることができるよ うにな ってきました.そうしてみると,やはりたいへんな威力を感じま す.天文学では「全波 長領域天文学」というのが常識になってきました が,地球科学の分野も「全波長(エネ ルギー)領域イメージング」をめ ざしたいと思います. そこで問題になるのが,伊藤さんも指摘したとお り,この膨大な情報をいかに有効に 効率よく引き出すインタフェースを 作るか,という点です.現在の計画では岩石プレー ト1枚につき,5〜6 MBのメモリ量になります.イスアのBIF,チャートの場合プレー ト数 26枚でデータ量は150MBといった所でしょうか.当然,何らかの検索機 能が必要 となります.しかもそれはワークステーションでもパソコン (WindowsでもMacでも)で も使えるものでなければなりません.ネッ トワークからのアクセスもできるだけ可能に したい.手間はかけたくな い.と考えると,なかなか頭が痛いのです.
また一口にデータベースといっても,われわれが作りつつある生デー タのデータベー スもあれば,増田さんの構想されている「全地球史絵巻」 もあります.つまりデータベ ース構築には技術だけでなく思想が必要で す.しかもデータの取得からして,どういう 思想のデータベースに入れ るかによってその方法が変わってくるわけです.増田さん・ 伊藤さんの 呼び掛けに私も呼応して,全地球史解読のアウトプットの一つとしての データベース作りに知恵を出したいと思います. メールで議論しながら, 「全地球史データベース班」を立ちあげましょう.まとまっ た最初のデー タ集は春の学会の時に皆さんに見てもらう予定です.それを叩き台に議 論しましょう.
[目次へ]伊藤孝士(国立天文台)
国立天文台天文学データ解析計算センターの伊藤孝士です. 時計班集 会に参加して来ました.今回の集会に出席して若干思うところがありま したので,簡単に まとめてみたいと思います.大体は懇親会の場で高野 さんらとお話した 事柄ですが,要するに『資料分析結果のデータベース 化は極めて重要である.』 ということです.これは,既に増田先生@都 立大学の長いメールに於いて極めて詳細かつ的確な指摘がされています. 集会の前には時間がなくてあまりきちんと読んで行けなかったのですが, 名古屋大学で生産されつつある膨大な量のプレート(とその分析画像デー タ)を見,帰って来てから増田メールをじっくり読み返してみて,改め てこの思いを強くしました.この重点領域計画が終了した時に残すべき ものとして,研究結果をまとめた論文群はもちろんですが,それ以上に, 体系的に整理され たデータベース(データアーカイブ)が何よりも大切で あるように思えま す.増田先生の言葉を借りれば「科学的認識の発展の ために,方法論的細分化が意味があることも確かにあります.しかし, それを共通の土俵に乗せなければ,人類共通の知識にしていくことはむ ずかし いと思います.」ということです.もっと低級な言葉を使って言 うと,既に十分に大量で, しかも今後は更に圧倒的なペースで生産され るであろう量のデータを使 ってまともな解析的研究をしようと思ったら, CD-ROM などによるデー タの配布のみではなく,ある程度大きなストレー ジときちんとしたDBMS (Database Management Software) にデータをアーカ イブして,現在の 重点領域関係者以外の研究者も検索や取り寄せができ るシステムを作製 する必要があるのではないか,ということです. ここでは名古屋にあるプレート化データのみを対象にして話を進めま すが,現在あれらのプレートに張り付いている人間の数の少なさを見れ ば,データ生産の速度がデータ解析の速度を圧倒的に上回っているの明 白であり,このことだけからもデータベースを構築してアクセスの容易 化を図ることの重要性は理解されるでしょう.参考までに,私が所属し ている国立天文台天文学データ解析計算センターでも各地の望遠鏡から 生産される画像データをデータベース化して研究者が簡単に利用できる ユーザインターフェースを作製するという仕事が公式プロジェクトとし て走っており,似たような状況に遭遇しています.我々が目標とする究 極のデータアーカイブシステムは,例えば
天球上の或る座標値を入力すると,その付近を撮像した画像データが 瞬時にリストされ,光学・赤外線・電波・X線など各波長に於ける スペ クトルダイアグラムが一気に表示される.といった感じのものです(まだ全然進んでいませんけど).「全地球 史 データベース」「全地球史絵巻」などという言葉から連想されるもの としては,例えば
地球上の或る座標値を入力すると,その付近で採取された地質データ の分類名称が瞬時にリストされ,各種の分析装置による解析結果 が一堂 に表示される.という感じでしょうか.もちろん,最初はさほど本格的である必要は なく,まずは増田先生の言うところの
データのネットワークによる公開のためのプログラムを新しく作るこ とはしないものとします.ネットワーク経由で検索できるのは既存の プ ログラムを使える範囲(おそらく文字による検索に限る)ことになります. それ以上の利用のためにはデータの置かれた場所に出向くか,ファイル をまるごと転送して独自に検索する必要があります.という制限を付け,更に
内容は,「全地球史解読」メンバー全体に広く薄くかかわるものと, その一部の データベース整備に意欲をもつメンバーの研究にかかわるも のに限定します.という限定された目的で着手すれば,例のプレートから算出される画 像のデータベース化計画を走らせ出すことはさほど難しくないと思って いますが,いかがでしょうか.取り敢えずはストレージもDBMSも小さ なものから開始し,必要に応じて拡張して行けば良いでしょう.天文画 像のデータベースは世界に幾つかありますが,地質学や地球物理学業界 に於けるこの種のデータベースの話は聞いたことがなく,きちんと作る ことができれば史上初の極めて大きな成果になることでしょう.懇親会 時に出たフレーズ『全地球史解読計画データベース班』の存在意義はま さにここにあるように思います.マンパワーの面で実現可能かどうかは 不明ですが,研究戦略の将来方針として念頭に置いて置くことは是非と も必要でしょう.
上記話題に関連してですが,全地球史解読計画の WWW ページを作る ことになりました.技術的部分は私が中心になりますが,材料の提供は 総括班(=高野さん等)経由で関係者各位から収集することになると思 いますので,御協力よろしくお願い申し上げます.また,ネットワーク のバンド幅と情報流通の経路を考えると,サーバサイトとしてはどう考 えても東大近辺が適当ですので,おそらく瀬野先生のマシンに置かせて いただくことになるでしょう.その辺も含めて,春の学会時に相談いた しましょう.もちろん,メールなどで議論していただいても結構です. 他にも色々書きたいことがあったのですが,時間もスペースもありま せんので省略します.
[目次へ]東大地震研究所共同利用研究集会,協賛「全地球史解読」 May 13-14, 1996 2nd Meeting Room at Earthquake Res Inst, Univ of Tokyo Yayoi 1-1-1, Bunkyo-ku, Tokyo, Japan
「全地球史解読」では,平成7年度研究報告書を作成します.
研究者の手間と時間を,[分担研究課題の成果を記述する義務とし ての報告書]のためには使ってもらわない方針でやります.
従って,これまでの研究成果のみならず,[今後の研究の発展や 「全地球史解読」の推進に実質的に役立つであろうこと]を書いていた だきたいのです.
例えば,[ご自身とそのグル−プの研究と他の研究者との情報流通 による相互作用に役立つ提案,展望,研究遂行上の問題点,アイディア, 要望,疑問,問題提起など]はこの主旨に合っているでしょう.
その原稿を以下の要領で募集します.
113 文京区弥生1-1-1 東大地震研究所 瀬野徹三
「全地球史解読」では,6月6-7日京大会館にて,95年度の公募研究 の成果発表を兼ねた「地球と生命の共進化」シンポジウムを開きます. また高萩にて阿武隈の巡検を含んだ夏の学校を開きます.これらについ ての詳しい内容は追ってお知らせします.
[目次へ]「全地球史解読」もいよいよ2年目に入ろうとしています.3月末から4 月はじめにかけて地球惑星合同大会と地質学会があり,この重点が着実 に進展していることを窺わせました.3月には重点審査会が開かれ,計画・ 公募研究の内容と予算が決定されました.公募採択は近いうちに可否の 通知があるとおもいます.88件の公募応募があり,約2/3はやむを得ず落 選となっていますが,落選された方もこれにめげずに積極的に重点にか かわっていただきたいと思います.公募採択課題は次号でお伝えします. 夏にかけては従来のオーストラリア調査に加えて,カナダ,南アフリカ で文部省海外学術を主とした海外調査が予定されています.これらにつ いては次号で詳しくお伝えする予定です.
[目次へ]このページは、瀬野徹三さんから次のメイリングリスト記事として 提供されたものに基づいています。
Date: Fri, 19 Apr 96 18:05:56 JST From: seno@seno-sun.eri.u-tokyo.ac.jp (Tetsuzo Seno) Message-Id: <9604190905.AA03777@seno-sun.eri.u-tokyo.ac.jp> To: multier-news@seno-sun.eri.u-tokyo.ac.jp Subject: zenchikyu news no.4 HTML版作成: 1996-08-02 増田 耕一 (東京都立大学 理学部 地理学科、 「全地球史解読」総括班員・情報処理担当) masuda-kooiti@c.metro-u.ac.jp[目次へ]