October 5, 1995 発行 全地球史解読事務 113 文京区弥生1-1-1 東京大学地震研究所 瀬野徹三 tel 03-3812-2111 ex 5747 fax 03-5802-2874 e-mail seno@eri.u-tokyo.ac.jp
瀬野徹三・伊藤孝士・川上紳一・高野雅夫
夏の学校が8月27日夜から30日まで箱根高原ホテル(30日は神奈川 県生命の星・地球博物館)で開催された.参加者総計90名うち学生48名 であった。場所は芦ノ湖まで歩いて10分ほどで,野鳥の森,昆虫の森, 花の広場などがあって散策にも適した優れた環境であった.なによりも 空気がおいしく,気温が低いことがありがたかった.
講演は,とる,とけい,よむ,もでるの各班ごとに半日あり,夜は ポスターセッションと懇親会を行った.29日の夜に全体会議と総括班会 議を行い,30日に神奈川県博物館に移動した.
講演に関して詳しいことは各班ごとに以下に掲載するレポートをみ ていただきたい.ポスターは約10個あり,歴史時代の太陽活動,チャー トの色調のメスバウアー解析,ICP-MSの現状,光合成の進化,ストロ マトライトのようなものの化学分析,原生代の地磁気強度,インドの原 生代の地質などがあった。講演と討論は,夏の学校ということもあり, 若い参加者を意識して,概念の懇切ていねいな説明や歴史的背景にまで 触れる講演者が多かった.しかし中にはそれを意識しないでやや専門的 すぎるもの,OHPが黒白の数式主体のものもあった.これはやや年齢の 高い講演者の多い班にみられたが,全体としては及第点をつけられるの ではないかとおもわれる.歴史の話や,化石の話,漫談的であるが内容 の濃い非線形物理屋の話も大変受けていた。
学生からの質問が少ない傾向はあったが,これは最近の学生の特徴 であり,改善はそう簡単ではないであろう.「尊師」と呼ばれる二人 (特に歳取ったほう)の元気があまりに良すぎることも大いに関係して いるであろう。懇親会は,異様にもりあがり,かなりの参加者がビール を主体に連日夜更けまで飲みあかし,朝食に起きてこれないものもいた. したがって散歩を全くしなかった人もおり,環境の良さを皆が享受した とは限らなかったようだ.
全体会議の反省会での若手からの声は,以下のようなものがあった.
神奈川県立生命の星・地球館見学が最後の日に行われた.はじめに, はっぴ姿の浜田隆士館長の講演があり,当博物館のユニークな試み(な んでもさわってよい,資料室ではわいわいいってもよい)の紹介,県会 議員の意向に左右されて分析機器が入らないなど研究面で苦境にたって いること,博物館の使命などについて話があった.参加者(熊沢・高野) から,この計画の初期のころから,博物館の全地球史解読に対する役割 が,試料の収集・提供・分析に関して大変大きいことが説明された.そ の後,小出,山下の解説によって資料措き場(これは普通はなかなか見 られないもので,莫大な試料に驚かされた),生物解体室,分析室など を観たあと,一般展示を観た.一面アンモナイトの死骸の堆積した壁, ハレヤカラの得体の知れない動物化石,地球最古のグリーンランドのイ スアの変成岩,ストロマトライトの巨大化石,オーストラリアハーマス レイのBIF(縞状鉄鉱床)が圧巻であった(このあたりは全地球史解読 関係者が収集に密接にかかわっていたらしい).この他では昆虫の擬態, ロケットの支えのような板状根をもつ熱帯の木,など見所がおおく,一 見の価値はある(入場料は500円).小田原から近いので(箱根登山鉄 道で数個目の入生田駅下車),機会があればぜひ行ってみるとよいだろ う.
総括班会議が9月29日の夜行われ,今後のタイムスケジュールに沿っ て何をやるべきかが話あわれた.以下列記する.
小宮 剛(東工大)
今回の全地球史解読の夏の学校では、『とる班』からは、東工大の 丸山、磯崎両氏と大阪府大の木村氏に各々以下の内容で講演していただ いた。
1)では、前半は全地球史解読の概略とそのプロジェクトの地球科 学全体における学問的興味についての紹介が、若い学生達にアピールす る形で行われた。後半は現在出始めている結果の報告がされた。最後に、 現在すでに行われている試料採集の状況と将来計画が紹介された。この 講演に対する質問は主に生物系の分野から出され、最古のストロマトラ イトの成因や生活環境(深海か太陽光の届く浅海か)についての地質 学的な証拠についての議論がされた。光合成がいつから始まったのか は生物進化史上、最重要課題の一つである。
2)では、特に原生代以前の全地球史における生物の進化について のレビューがされた。しかし、我々は現時点でまだ最古の生物化石を手 中に収めていない、この点が熊沢氏から指摘された。現在のところ、生 物化石か否かの判断基準はその形状のみでされているきらいがある、今 後他の指標(たとえば、地球化学的証拠)が必要であると思われる。
3)では、前半は、木村氏が現在手がけている顕生代付加体(特に 日本弧)中の緑色岩の存在量と定置機構、そしてその起源について説明 がされた。後半は太古代の北米大陸の成長が付加体地質学によってうま く説明されることと、その急速な成長スピードは緑色岩の付加が大きく 貢献していることが説明された。
現在、とる班としての興味は太古代のみに片寄っているのに対して、 参加者の中には原生代や先カンブリア/顕生代境界など、もっと若い時 代に興味を持つ人が多かった。今後は、これらの時代の試料採集も進め ていくべきである。また、これまでに採取されたサンプルの解析(最古 のストロマトライトが生息していたと思われる中央海嶺の水深や最古の 生物化石の発見等)が少し遅れていることが指摘された。
[目次へ]伊藤孝士(国立天文台)
生物の歴史に於いて、しばしば大量絶滅が発生することは古くから 知られていたが、その原因については諸説が紛々としており、不明な点 が多い。その中でももっともらしいものとして、地球外の天体が衝突す ることによって気候に大変動が生じ、大量絶滅がもたらされるという説 がある。本講演では、すっかり有名になったこの外部天体衝突説の真偽 を、クレーター形成と生物絶滅に存在すると言われて来た周期性に着目 して、統計学的な手法を使った議論について話を進めた。
まず、周期性仮説の歴史の紹介があり、実際のデータの中に周期性 を見い出す手法についての簡単な解説がなされた。結論としては、「生 物絶滅は周期2650万年でかなり周期的だが、クレーターの形成はかなり ランダムで周期性は見い出されず、磁場の逆転についても明確な周期性 は見い出せない」ということがわかった。実際には、大きなクレーター を作り出すような大衝突であっても生物絶滅に結び付かないものも存在 していることから、「外部天体の衝突は生物大量絶滅のトリガーにはな り得るものの、絶滅イベント発生の十分条件にはなり得ない」というこ とが言えると思われる。なお、磯崎@東工大からは「現在の業界では 『生物大量絶滅には周期性は実はない』というのが共通見解になりつつ ある」というコメントがあり、本講演に於ける議論の前提に本質的な疑 問が投げかけられた。また、クレーター形成イベントのデータとしては 陸地の上のクレーターのみを対象としており、海上での衝突現象につい ては考慮に入れていないという事柄も問題点として指摘された。
月地球系の進化は地球自転のリズムの大きな影響を与え、古環境に 於ける極めて大きな変動要因のひとつになっていると思われる。本講演 では、最近G. Williams が提唱した突飛な説「Precambreanの地球赤道傾 角は60度以上の大きなものであった」を作業仮説とし、そのような状況 が発生するための条件の可能性と不可能性についてのレビューがなされ た。
まず、潮汐理論についての理論と計算についての復習の説明があり、 これらの理論を裏付ける潮間帯堆積物についての解説が行なわれた。こ の後に、「Precambreanの地球赤道傾角は60度以上の大きなものであっ た」という例のWilliams説の紹介があり、彼の主張の根拠となっている 地質学的証拠、理論的バックグラウンドの紹介があった。しかしながら、 力学的な見地からはこのような現象が起こることはほぼ不可能であり、 しかも、古地磁気緯度の復元に代表されるような地質学的証拠もまだ信 頼性がさほど高くはないことから、この説は未だ確信に足るものではな いという結論が出された。
最終的に本講演では「Williamsの説は信憑性が薄い」ということに なったが、完全に否定されたわけでもなく、今後はこの説の検証を中心 課題として、Precambrean-Cambrean境界についての見識を深めて行くこ とが必要であるという認識に達した。
続いて高野@名古屋大から、自然界に存在する実際の縞模様空間系 列を時間系列に変換するモデリング手法についての短い紹介があり、時 計確立に関しての読班によるサポート体制も着々とできつつあるという ことが発表され、大いに評判を得た。
全地球史の時間スケールに於いて地球の軌道要素は安定であったの かどうか?四百年前から議論されているこの問題は、日射量変動を通じ て本重点領域計画の意義を左右する極めて重要な鍵を握っている。本講 演では、未だ解決されていないこの問題に対するアプローチ法の紹介と 現在までにわかった事実、および、今後の展望についてのレビューが行 なわれた。
運動太陽系の惑星運動は数学的にはカオスであり、わずかな初期値 の違いが将来に於いては大きく増幅されるということが、1990年代前半 の数値計算によって明らかになってきた。このことは、地球の軌道が過 去は滅茶滅茶であり、推定不可能であるということを意味するのであろ うか?本講演ではこの問題に対する数値計算的アプローチについての紹 介があったが、現在のところはまだ外惑星系についての結果しか得られ ておらず、内惑星については今後の課題であることが示された。冥王星 と海王星と間に存在する奇妙な共鳴関係とそれによってもたらされる冥 王星の軌道安定性についての詳しい紹介があった。数値計算の結果によ れば、外惑星の運動は数値的にはカオスであっても大局的には安定で、 軌道の形は過去50億年程度ではほとんど変化しない。このことが内惑星 について言えるかどうかはわからないが、質量の大きな地球と金星につ いてはあまり変化しないだろうという予想が出された。
地球の軌道運動の数値計算は、日射量変動に代表されるような気候 的外力の周期性を過去に遡るための唯一の手段であり、本重点領域計画 の時計的意義の確立のためにも是非も遂行されなければならない課題で あるという意見の一致を見た。
[目次へ]高野雅夫(名大地惑)
夏の学校3日目の朝は全地球史解読の中心部隊ともいえる「よむ」グ ループのセクションである。
浜野洋三氏(東大地惑)は「地球中心部活動史解読の手引き」と題 して、地球表層からマントル、地球中心核にいたるまで、地球は相互に 連関して運動していること、また、それを具体的に明らかにする方策に ついて講演した。特に地球の中心核の動きをのぞく窓である地磁気変動 について詳しい解説があった。多少概説的、項目羅列的にすぎた面があ り、学生にはイメージがわきにくかったのではなかろうか。この夏のオ ーストラリアでのサンプリングや試料の測定から何を明らかにしようと しているか、といった話があれば迫力があったのではないかと思われる。
大野照文氏(京大地質)は「生物進化と地球史」と題して、原生代 からの多細胞生物の進化について化石記録から何がわかっているかにつ いて解説した。多細胞生物は考えられていたよりは古くから生まれてい た可能性があること、現在の生物には直接つながらないような「奇妙な」 生物群がいたこと等が報告された。あやしげな形を岩石にのこすそれら の生物群の姿に、会場は大いにわいた。
川上紳一氏(岐阜大教育)は大野氏の講演に補足して、生物の進化 の上で大きな事件であった先カンブリア/カンブリア境界についてその 重要性を指摘し、全地球史解読研究の具体的ターゲットとするよう提案 した。この境界では超大陸の形成と分裂、氷河期の到来といった地球の 大きなイベントと生命の進化がシンクロナイズしている可能性があるこ と、そのことを調べるいいフィールドが南オーストラリアにあることを 指摘した。討論の中で、われわれの具体的な研究ターゲットに設定しよ うという議論がなされた。
ゆり本尚義氏(東工大地惑)は「最先端の分析機器による高精度測 定が全地球史解読計画において果たしえる役割」について講演した。固 体表面の元素/同位体分析の手法について原理からわかりやすく解説さ れた。各種の手法の特徴を分析感度と空間分解能について整理し、特に SIMSの特徴とこれが地球惑星科学にとって何を明らかにできるかを述 べた。たいへん教科書的なていねいな解説で、実際の試料の分析に携わ ろうとしている学生にとっては大いに勉強になったと思われる。
さて、学生の皆さんの反応は「おもしろかった、でもよくわからな かった」というものが多かった。夏の学校全体を通して博士課程以上の 研究者ならば、わかるけれども、おもしろくない、それ以下の学生には かなり難しい、といった中途半端なレベルの講演が多かったのではない かと思われる。講師に対象とレベルについての注文を付ける点が甘かっ たのではないかと、実行委員会としては反省すべきと思う。来年の学校 では、具体的な研究成果が若手研究者からどんどん報告され、それらを 古手が全体の研究の流れの中に位置付けてその意義を語る、といったふ うになれば迫力ある学校になると思う。
[目次へ]吉田茂生(東大地震研)
モデル班の部の講演は本多了(広島大理)、佐々真一(東大教養)、阿 部彩子(東大気候センター)の三氏によって行なわれた。
本多さんは地球の熱史計算やマントル対流計算に関する入門的な解 説を行なった。熱史計算に関しては、Urey 比との関係などの解説があっ た。講演時間の関係上、最後まで行かなかったようでやや心残りであっ た。マントル対流に関しては美しい3次元ビデオが印象的であった。全 地球史解読との関係に関する筆者の考えを述べると、この手の計算の役 割はマントル内で起こることの概念を定性的に提示することにあると思 う。660km不連続とかプリュームとかの役割を可視化して見せてく れることに価値がある。M尊師が、地質学的温度の情報を取り入れるこ とを示唆したが、観測と計算で具体的な数字を比較することは困難なよ うである。
佐々さんは非線形動力学に関する全般的なレビューの情熱的な漫談 を行なった。特に××教の幹部連に大ウケで、講演途中で拍手も出て、 盛り上がっていた。古い熱力学や散逸構造論などが高い理想を掲げつつ、 なかなか現象の生き生きしたところを記述するに至らないという熱統 計物理の歴史の説明は、筆者には蒙を啓かれる思いであった。佐々さん が現代の流行に対して取っている比較的冷たい姿勢はたいへん筆者には 勉強になった。筆者の場合、専門分野では流行に乗らないようできるだ け気を付けているにもかかわらず、物理の流行にはそこはかとなく憧れ ていたりするのだが、 もうちょっと冷静に流行を分析しようと思うようになった。佐々さん 曰く「カオスやフラクタルなどは一カ月で卒業しよう」。
大内さんは氷期・間氷期サイクルをはじめとする気候変動のモデリ ングの全般的レビューを行なった。大循環モデルがだんだん気候変動に 対して実用的に使えるようになってきている様子が語られた。大内さん の氷期・間氷期サイクルのモデルの解説もやや詳しくあった。大内さん は氷期・間氷期サイクルは基本的にローレンタイド氷床が支配している ものとし、ミランコビッチサイクルの日射量変動に対する氷床の応答を 計算した。氷床が大きくなると地面が沈んで融雪領域が増えるという効 果を取り入れることで、応答が非線形となり、2万年や4万年周期の外 力から10万年周期の応答が現れることが示された。10万年周期の気 候変動が、ミランコビッチサイクルの10万年の日射量変動と全く関係 ないところが、大内さんのモデルの結果の内で筆者には一番印象深かっ た。このことは気候変動の縞々の時間スケールが単純にミランコビッチ サイクルであると考えてはいけないことを意味しており、縞々を読む上 で非常に重要な問題提起になっている。
[目次へ]伊藤孝士(国立天文台)
科学研究費補助金の国際学術研究「東太平洋海膨下の溶融体構造に 関する電磁気学・地震学的調査」(代表・濱野洋三)の北西豪州調査に、 短期ではありましたが同行して来ましたので、簡単に報告します。
成田から Perth に飛び、更に国内線で二時間ほど北上して Port Hedlandに到着します。そこで車を借り、280km 先の Marble Bar のキャ ラバンパークに向かいました。この時期に調査隊はこのキャラバンパー クに野営を張っていたので、そこに同宿させてもらい、最初は丸山分隊 のマッピングおよび濱野分隊の古地磁気サンプリングに同行しました。
我々は短期の滞在であり、また調査隊の正規メンバーでもなかった ことから、翌日からは丸山先生の案内によってピルバラ地域の巡検に出 掛け、彼らがこれまでサンプリングやマッピングをして来た地域を駆け 足で走り回りました。重点領域研究『全地球史解読計画』でも重要な地 位を占める Archean の BIF や付加体を構成する枕状溶岩、chertや擬似 stromatolite群などをクイックビューすることができました。詳細につい ては本隊のレポートを見ていただくことにし、ここでは省略します。
Marble Barのキャラバンパークに滞在中は、本隊の方々の厚い好意 により大変快適に過ごすことができました。食事はもちろん自炊ですが、 彼等の料理の腕はかなりのものであり、私にとっては日本にいる時より もはるかに充実した食事でした。ありがとうございます。また、貴重な 調査期間を割いて我々の巡検の案内を買って出てくれた丸山先生と寺林 さんにも心から御礼申し上げます。ありがとうございました。
今回の調査は7月半ばから開始され、東大隊は8月半ばに帰国します が、東工大隊は10月初めまで調査を継続します。 9月からは名古屋大学 のグループも合流することになっているようです。内容の詳細についは 本隊の方々から 報告がなされる予定ですので、そちらを楽しみにして いてください。
[目次へ]隅田 育郎(東大理地惑)
7月27日から8月18日まで、西オーストラリア、ピルバラ地域で東大グ ループ(浜野、隅田、原田、畠山、橋本)は東工大グループ(丸山、寺 林、広瀬、太田、椛島、萩原)の強力な支援を受けて古地磁気サンプリ ングを行なった。今回は縞状鉄鉱床(BIF)、 チャート、玄武岩、花こう 岩などの岩石を採集することが目的で、これらから35億から25億年 前までの地球磁場変動や岩石磁気学的性質から成因が明らかになること を期待している。
サンプリングはピルバラ地域、約300 km四方内の4箇所:インド洋 に近いクリーバビル地域、ハマースレーのビーズリー川地域、内陸のマ ーブルバーそしてノースポール地域、を各々4日位ずつかけて移動しな がら行なった。BIFについては、磁化の強さが地球磁場より強いものか ら弱いものまで、また構成する磁性鉱物も様々というふうに色々な種類 のものを採集した。チャートは数メートルに渡る連続サンプリングを複 数のセクションで行なった。火山岩に関してはコマチアイトなどを含む 枕状溶岩、溶岩流や貫入岩体(ドレライト、花こう岩)を多くのサイト でサンプリングした。古地磁気を求める上で、磁化を獲得した年代を特 定することは重要だが、貫入岩体はそのために有用である。既に93年に サンプリングした岩石より、古地磁気研究に有望な結果が出ているので 今回採集した岩石からさらに色々分かることを期待している。
8月のピルバラは内陸部では朝は冷え込むものの、日中は30度前後 であり、毎日快晴でサンプリングは順調に進んだ。野営生活に関しては、 食事は有能なシェフが複数いたためレベルが高く、夜は南半球の満天の 星空の下でキャンプファイアーをするというふうに大変楽しく、日本に いる時より健康的な生活が送れた。また、フィールドを共にすることに よって普段あまりゆっくり話し合うことのできない地質の分野の人から 色々学べたことは大きな収穫と言えよう。
このようにサンプリングを成功させ、楽しく快適なピルバラ生活を 送ることが出来たのは、丸山先生を始めとする東工大の方々の努力によ るところが大きく、感謝する次第である。
[目次へ]重点領域「全地球史解読」では,太古代まで遡った岩石試料の採集を 行って,地球システム変動史の解読を進めている.この計画の特徴は, 野外調査に基づいた系統的試料採集,岩石試料の効率的一次記載,最新 分析機器を用いた二次分析,新たな分析技術の開発,地球システムモデ ルの構築など,可能なすべての手法を結集して解読を進めることにある.
本セッションでは,「地球史解読」に関連した多様な研究に関する 講演を広く公募する.また,地球史7大イベントなどの重要なトピック スについては,招待講演を含めてプログラムを編成する.
(コンビナー:瀬野徹三・川上紳一)
[目次へ]平成7年度から3年計画で発足したこの重点領域研究における地球 惑星科学としての研究戦略とその展望,これまでに得られた成果のいく つかを提示し,批判を受けて将来へのさらなる発展を期したい.「全地 球史解読」の「全」は「地球」にかかり,「史」にかかり,かつ「解読」 にかかる.全が地球にかかるとき,地球をとりまく宇宙環境から中心の コアまで,いわゆるテクトニクスから大気海洋,生命の発生進化まで, それらのすべての相互作用を考慮する.全が史にかかるとき,われわれ は物証に基づくという拘束をみずからに課すので,40億年前までを日変 化の時間スケールで考える.全が解読にかかるとき,歴史的事件として 反復再現実験できない進化を科学として解明する常套手法として,さま ざまな階層のモデリング手法を開発しこれを組織的に使って作業仮説転 がしを行う.解読実務作業には新しいテクノロジーを自ら開発し,楽を して多量の新しい質のデータを得る近代的研究手法を開拓し,そのデー タに基づいて新しい概念を生み出そうとする能動的で知的な環境の普及 を目指す.当然,地球惑星科学以外の諸分野との強い連係共進化を策し, 古典的意味における地質学の枠をこえて,それを包含する新しい研究ス タイルとパラダイム創造を目標にする.
(世話人:丸山茂徳・熊沢峰夫)
[目次へ]今年も科研費応募申請の時期がやってきました.
昨年は重点「全地球史解読」公募に多数(90件)応募して頂きまし たが,再びあるいは新たに今年の公募に応募して頂くようよろしくおね がいします.応募の数が増えるだけ,採択件数も多くなりますので,そ の点をご配慮のほどよろしくお願いします.なお申請額は,採択件数の 関係からあまり大きくされることはおすすめ出来ませんのでご注意くだ さい.事務局では応募書類の余分も用意しておりますので,もし申込み に遅れた方はお申し付けください.
領域略称名: 全地球史解読 領域番号: 259 研究期間: 平成7年度−平成9年度 領域代表者: 熊澤峰夫 所属機関: 名古屋大学理学部
本領域では,地球とその物理的環境の恒常性とそ の進化、および太古代・原生代境界など地質時代を 画した大変動の実体を理解する。その方法として、 時間の順序にしたがって海底に沈殿固結した縞状堆 積岩などを、未知の時刻マークつき地球史40億年の 連続記録テープとみて、その組織的採集・記載・解 読・モデリングによるアプローチをとる。特に従来 研究が希薄であった2億年以前に重点をおき、全地 球史の組織的解読を目標にした効率的な解読手法の 開拓に加えて、太陽系の環境を示す地球外物質の流 入、太陽放射と気候の変動、月地球回転系の力学進 化、原始的生命と環境の供進化、海陸分布の変遷、 および地磁気の変動や火山活動などの地球内部ダイ ナミクスを反映する個別諸現象の読みだしを行う。 地球の進化を変動を支配する地球外要因から地球中 心核までの多様な相互作用とそのしがらみを、物理 および数値モデリングによって研究して、反復実験 のできない地球システムの構造を理解する。 このため、次の研究項目について「計画研究」に より重点的に研究を推進するとともに、これらに関 連する一人又は少数の研究者による研究を公募する。
「全地球史解読」をあらわすロゴマークをT-shirtsをつくって入れたり, ニュースレターにレターヘッドで入れるという目的で,ロゴマークを募 集したいと思います.細かい形式は問いませんが,「全地球史解読」を うまく表現していることが条件です.なお全地球史解読の日本語やその 英訳DEEP (Decoding the Earth Evolution Program)は図柄に入っても入らな くても構いません.優秀作品を執行部で選び数件採択します(採択者に は代表者からボーナスが出るかもしれません).
[目次へ](1996年7月現在)
このページは、瀬野徹三さんから次のメイリングリスト記事として 提供されたものに基づいています。
Date: Thu, 5 Oct 95 18:10:47 JST From: seno@seno-sun.eri.u-tokyo.ac.jp (Tetsuzo Seno) Message-Id: <9510050910.AA10617@seno-sun.eri.u-tokyo.ac.jp> To: multier-news@seno-sun.eri.u-tokyo.ac.jp Subject: zenchikyushi newsletter2 HTML版作成: 1996-08-16 増田 耕一 (東京都立大学 理学部 地理学科、 「全地球史解読」総括班員・情報処理担当) masuda-kooiti@c.metro-u.ac.jp[目次へ]