July 4, 1995 発行 全地球史解読事務 113 文京区弥生1-1-1 東京大学地震研究所 瀬野徹三 tel 03-3812-2111 ex 5747 fax 03-5802-2874 e-mail seno@eri.u-tokyo.ac.jp
代表者 熊澤峰夫(名古屋大学理学部)
「全地球史解読」を文部省の科学研究費補助金を得 て、やっとはじめることができる。といっても、全地 球史解読というコンセプトでの研究はすでに手弁当で 出発して、相当な成果が上がりつつある。しかし、重 点領域研究の課題として採択されたことは、それなり の重みがあることはいうまでもない。ここまで積み上 げてくるのに使命感と情熱をもって取り組んできた関 係者とともに、喜びと責任の重さの両方を噛みしめて いる。この重点領域研究課題のもつ意義については、 人によって異なった見方があるだろう。多様な見方が あってよく、多様な見方とそれらに基づいてでてくる 多様なアプローチの複合が、この複雑で多様な地球を 理解する力になる。そこで、代表者として私自身の考 えをここであらためて述べることによって、それを心 に深く留め一層奮起したい。全地球史解読は文字どお り、物証に基づいて地球のすべての歴史を読みだすこ とを目標にした研究である。これは目標であるから、 現在は到達できそうもなくみえるのは当然であろう。 それだからこそ、全地球史を本当に解読できるように するために何が必要かを基本から問うて、それに本気 で答える新しい研究戦略の創造と模索研究を推進する ことになる。一つの象徴的表現をすれば、この重点領 域研究は地球惑星科学の新しい切り口の模索開拓研究 とその科学運動でもある。この研究の申請書には、予 期しない発見を期待する、と書いておいた。発見の対 象は、「もの」でも「こと」でも、新しくてエキサイ ティングなサイエンスらしきものであれば、地球史研 究をはみ出すものでもかまわない。例えば、メイ(生 態学者)やローレンツ(気象学者)が彼らの研究の中 から、昨今のトピックスである非線形数理科学の契機 をみつけたことを想起し、長い地球の歴史とその所業 のなかから、他の分野に波及する何かをみつけられた ら至上の成果であると考えるのである。計画研究のな かには、この研究の申請書の冊子にすでに書いたよう に、従来ほとんど接点のなかった異分野間の相互関連 をはかっていくアプローチをもりこんである。従来分 野の研究でも、これまでにはなかった考え方や手法を あらたに開発する計画がいくつかある。限られた予算 の枠内での開発的な研究は、必ずしも100%の成算が あるわけはなく様々な困難を伴うが、頑張っていきた いと考えている。公募研究では、この重点領域研究を 企画したわれわれが思い付きもしなかったアプローチ の提案を期待した。90件という多数の応募があり、審 査員たちはそれに興奮しながら格闘したものである。 特筆すべきことは、生命科学の分野からの関心が高く、 ここに地球進化史研究の一つの新しい切り口が存在す る、と確信がもてたことである。生命の起源や進化は、 地球の表層環境の進化史と不可分であって、生命科学 と地球科学の接点に新しい研究の豊穰の領域がある。 これを「生命と地球の共進化」の研究という言葉で言 い直して、これまでの地球科学研究を見直してみたい。 大変刺激的な研究課題がたくさんあったので、計画研 究の研究費を予定より相当圧縮した。計画研究の班員 の方々にはご不満もあろうかと思うが、お許し願いた い。何しろ、地球という場における生命の発生進化は、 地球史、宇宙史における最大のイベントであり、生物 の活動は40億年このかた地球の物理的環境の日常性 を支配している最大要因の一つである。しかも、これ までの地球科学研究において、研究投資が質・量とも に軽んじられてきた新境界領域なのである。試料の確 保はもう一つの重要懸案課題である。重点領域研究の 予算には海外での調査や試料確保のための旅費を含め ることができない。特に「とる」班の丸山班長は、他 の財源確保にも奮戦している。このようなわけで、本 年度の西オーストラリアの試料採集には、比較的多人 数の若手を派遣することができる。また、各サブグル ープで手分けして国際学術調査の申請も行っている。 ほかにも、海外の拠点にジオロジストを派遣して資源 の開発や輸入を行っている企業などの協力をお願いす る、という方策もある。関係者の情報やアイディアが ほしい。特に諸外国の機関や研究者の協力を得るには 相互互恵の良好な関係の確立が重要なことを充分認識 して、相手側に充分な寄与ができる提案をお考えいた だきたい。必要に応じてオールジャパンで支援する方 策も検討するつもりがある。
ニュースレターの発刊は目に見える「全地球史解読」 の船出である。新分野を開くという目標とその研究を 楽しみながら、結果として大きな成果が上がってしま うことをお願いし、また期待して、この船出を祝した い。
[目次へ](印刷版にはメンバーの電話・ファックス番号とe-mailアドレスも ありましたが、このHTML版では省略しています。名簿は別に作成する 予定です。)
「とる」,「とけい」,「よむ」,「もでる」の各 班によって実行されるこの重点領域の諸研究を総括し, 班どうしの有機的な連携を図ることを目的とする.こ れら四つ班の研究を相互に有機的に連携させ,情報の フィードバックを緊密にしてはじめて地球史が解明で きる.本研究の学術的特色はこのことを意識的に追及 し,新しい総合的な科学としての地球史研究の領域を 拓こうとするところにある.総括班は研究過程そのも ののグランドデザインを作りながら,四つの実行班相 互の連携を図る.
本研究の特徴の一つは,異なる分野間の連携を図り ながら新分野を開いていこうとするものである.総括 班は各チームをまとめ,情報のフィードバックを緊密 に行う役目を果たす.各実行班からは相当の結果がつ ぎつぎに出てくるであろう.これらの結果の蓄積を受 けて,情報を整理,総合し,統一的な地球史観の形成 にむけて議論をすすめる.
総括班では積極的に研究会,セミナーを開き,各班 の成果を直ちに他の班の研究にフィードバックし,有 機的な連携を保つ.
全地球史解読計画の検討の過程で、作業仮説として 新しい地球史像が浮かび上がってきた。それら(地球 史七大事件)の中で特に, E3: 世界中で激しい火成活動 が起こり、地球磁場強度が急増したらしい(27億年前)、 E4: 初めての巨大な大陸が形成された(19億年前)、 及びE6: 約1,000万年の間、海洋が酸素欠乏状態になり、 生物の絶滅が起こった(2.5億年前)、を重点研究項目 として、その解明をめざす。また地球史におけるある 特定の1年あるいは1日の記録を解読するために、最 も適切な試料をグリーンランド、カナダ東部、同中央 部、カリフォルニア、イタリア、西オーストラリア、 インド、中国で採取された試料から最も適切なものを 調査回収して上記イベントの実態を解明する。 丸山・磯崎・増田・加藤によってすでに採集された 試料、特に完全連続試料(グリーンランドイスア、西 オーストラリア地域のチャート)を40cm×20cmの型 枠の中で樹脂固定し、切断・研磨する。出来上がった 金属枠付のプレート状試料をスライスし、一部を非破 壊用分析試料として研磨し、残りを破壊を必要とする 特殊な分析にあてる。試料枠には番号を刻印する(丸 山・磯崎・増田・平田担当)。このような作業はアメ リカが主導して多大な成果を挙げてきた深海掘削計画 の採取試料処理システムを参考にして考案した。今後 世界各国から資料請求がくることも意識している。深 海掘削計画は900ヶ所に及んだが、カバーした年代は2 億年に及ばない。全地球史解読計画ではさらに40億年 前に遡る深海堆積物の連続試料を世界各地から回収す る予定を持つために、いわば人類の財産として半永久 的な資料保存・利用システムを考案した。それらを機 能的に収納するための整理棚、金属枠、樹脂、試料運 搬、及び研磨などに備品、消耗品がかなり割かれてい るのはそのためである。
重点領域研究「全地球史解読」の大局的な目標は, ほとんど唯一の地球史連続記録媒体である海底堆積物 から過去40億年間の地球と宇宙の歴史を「解読」する ことである.この目標のためには,岩石試料の年代お よび海底堆積物に刻まれている時間を計測することは 基本的に重要な課題であり,これにとりくむ「とけい 班」を設置した.
「とけい班」の研究目的は二つの柱からなる.すな わち,岩石の年代を高精度かつ効率よく測定する手法 の開発をすすめること,および海底堆積物に見られる 縞模様を読むことによってそこに刻まれている時間を はかる時計を確立することである.年代測定について は,ジルコンの粒子ひとつひとつについてレーザーア ブレーションICP質量分析により,高精度なU-Pb年代 を測定する手法を開発する.また,堆積物の縞には 0.1mmから数km以上の広い空間スケールにわたって多 数の周期的成分とその乱れがある.その周期的成分は 地球の自転周期,潮汐,ミランコビッチ周期,太陽周 期など天体力学的・天体物理的な外力の周期を反映し ているという考えのもとに,縞の周期的成分を時計の 目盛に見立ててそれを物理学的な時計として確保する 研究を行う.このうち天体力学的周期は,月ー地球回 転力学系の運動によって決まっている.したがって本 研究では時計を確立することと同時に月ー地球力学系 の進化を明らかにすることを目的とする.
本研究では特にレーザーアブレーションICP質量分 析計の高精度化、効率化に重点的に投資する。これは 現有のICP質量分析計に新しいシステムを付け加える という形をとってすすめる。ジルコン粒子ひとつひと つのU-Pb年代測定という、地球史研究の基本ともいえ る測定がこれまで日本では不可能であった。そこで、 このような年代測定が可能となり、さらに世界標準を ねらえる装置を持つことは本重点研究のみならず、日 本における地球科学の発展において大きな意味を持つ。
この研究の大局的目標は,ほとんど唯一の地球史連 続記録媒体である海底堆積物から過去40億年間の地球 とそれをとりまく宇宙の歴史を解読することである. こうした目標を達成するために,本重点領域の計画研 究とる班によって,すでに大量かつ系統的な試料採集 が行われつつある.本研究では,(1)これらの試料の効 率的切断,研磨の方法等,地球科学における研究の基 盤の刷新をはかる.(2)得られた大型加工試料の2次元 化学組成分布を計測する走査型蛍光X線分析計や走査 型有機物質分析装置の開発を行う.(3)いくつかの重要 項目について,さらに詳細な分析を行う.
地球は大気圈,海洋・雪氷圈,マントル,核など多 くの層からなり,それらが複雑に相互作用する一つの システムを構成している.このような地球システムが 外部および内部からのフォーシングに対してどのよう に応答し,また自律的な変動をするかを地球史の時間 軸上で理解することが目標である.外部フォーシング で最も重要なものは,太陽エネルギーの変化=ミラン コビッチフォーシングであり,内部フォーシングで重 要なものは地球内部熱輸送の現われとしてのウイルソ ンサイクルフォーシングである.本研究では,内部フォ ーシングの地球史を通じた進化,および外・内部フォ ーシングに対する地球表層システムの応答,非線形シ ステムとしての地球の自律変動,を解明するために, 観測事実と定量的に比較できるようなモデルを用いた 数値シミュレーション,ならびにシステムの物理的力 学的考察を行なう.これらに基づき,(1) 太古代−原生 代境界に起きたいくつかのイベントの物理的原因の解 明,(2)ペルム紀−三畳紀の大量絶滅を引き起こした環 境変動と,地球史を通じた地球表層システムの動特性 の解明,(3)非線形システムとしての地球の自己組織化 の解明を行う.
95年実施重点領域研究「全地球史解読」4研究班の 公募には90件の応募があり,うち25件が採択された (採択率28 %).以下に採択課題を班毎に示す.今年 度採択されなかった方も,応募件数が多いほど採択件 数は増えチャンスは増えるので,来年度も奮って応募 して下さるようお願いします.
国際学術研究「東太平洋海膨下の溶融体構造に関す る電磁気学・地震学的調査」(代表者:浜野洋三・東 大理学系研究科)を利用して,西オーストラリアピル バラ地域(Cleaverville, Roebourne, Marble Bar, Camel Creek)において,太古代の海嶺活動の様子を明らかに するために,地質構造調査・岩石採集を行う.調査期 間は7月下旬から9月末までの約70日.参加者は丸山茂 徳,広瀬敬(以上東工大),浜野洋三である.他に東 工大・東大・名大の大学院生10数名および若干名が参 加する.
[目次へ]重点領域研究「全地球史解読計画」では、太古代ま でさかのぼった岩石や化石試料の系統的採集、記載、 分析を行って、地球システムの相互作用と時間発展を 解明することを目指しています。このような研究を組 織的に進める必要があり、分野や手法の異なる研究者 による共同協力体制の確立が進められつつあります。 そこで、夏休み中に、若手研究者や大学院生、学部学 生を中心に夏の学校を開催し、全地球史解読の目標、 当面の課題に関する理解を深めると同時に、所属の異 なる若手研究者の交流や親睦を深めることになりまし た。全地球史解読計画に関わっている研究者や周辺で 関心のある方々の積極的参加を期待しています。 口頭 講演は招待講演のみとし、それ以外は夜の部のポスタ ー発表になります。招待講演は、この重点領域の中心 的役割を果たしている研究者に、その内容の基礎的紹 介、現状、今後の課題など、異分野の研究者にもわか りやすい発表をして頂く予定です。また、若手研究者 を中心としたトピックス的発表は、ポスター発表で議 論しますので、積極的参加をお願いいたします。 なお、学生や、院生、遠方からの参加者には、旅費 の補助を当日いたします。
自由見学/解散
申し込み用紙、自己紹介カード、ポ スター講演要旨を提出。 参加費は郵便振込で納入してください。最後ページ の用紙に必要事項を記入し、ご返送ください。募集人 数に限りがありますので、参加が確実な方は早めに申 し込んでください。
ポスター発表希望者はA4一枚程度の要旨を提出 してください。 自己紹介カード(A5サイズ書式自由)に氏名、所属、 連絡先、研究テーマ、趣味、メッセージなどを記入し て提出してください。
★ポスター講演要旨集、自己紹介カードは当日会場 で全員分を配布します。
464−01 名古屋大学理学部地球惑星科学科 全地球史解読夏の学校事務局(担当永江紀子) tel :052−789−3026 fax:052−789−3033
7月20日
参加費の支払は申し込みの受理を確認のうえ、7月 31日までに郵便振込でお願いします.8月以降にキャ ンセルした場合は、参加費は寄付として処理させて頂 きます.
口座番号:00870−7−90849 郵便局名:名古屋大学内郵便局 名称:全地球史解読夏の学校
氏名 性別 男 女 参加費納入金額 円 所属(職、学年) 連絡先/住所 電話 ファックス 電子メール 専門分野/研究テーマ ポスター講演/タイトル 宿泊食事 必要に応じて丸で囲む 第1日 夕食 宿泊 第2日 朝食 夕食 宿泊 第3日 朝食 夕食 宿泊 第4日 朝食 博物館見学 その他、ご意見、要望[目次へ]
「全地球史解読」では昨年より、「生命と地球の共 進化」というキーワードのもとに、たびたび研究集会 を開き、今後の研究の方向性と具体的課題の検討を行っ ております。地球の歴史の90%はバクテリアと単細 胞真核生物の時代であり、シアノバクテリア、鉄バク テリア、硫黄バクテリアなどが、地球表層環境、物質 循環、鉱床の形成などに深く関与してきたと考えられ ています。現在、全地球史解読で採集されたストロマ トライト、縞状鉄鉱石の解析が進められていますが、 それらの形成メカニズムの検討には、現生のストロマ トライトやバイオマットの産状が大変参考になります。 特に、最近では深海底熱水噴出孔、地殻深部、火山地 熱地帯などの特殊な環境で生息するバクテリアも発見 されており、微生物の世界については、まだ多くの未 知の部分が残されていると考えられます。また、バク テリアの進化系統や生化学は、生命の起源、進化、微 生物工学、地球環境問題においても、いっそう注目さ れるようになってきております。こうした背景から、 微生物学を「生命と地球の共進化」あるいは geo-microbiology, bio-geosciences, bio-mineralization といった観点に立って、地球化学者、地球環境学者、 生化学者、微生物学など、分野の異なる研究者が集まっ て、今後の研究の展望や新たな課題の発掘を行うため の勉強会を企画することになりました。この勉強会で は、当面の検討課題として、バクテリアと鉱物の相互 作用、微量元素の濃集過程などにおける新しいアプロ ーチを探ることを目指しております。皆様の積極的参 加、話題提供をお願い致します。この勉強会はバクテ リアには温泉という苛酷な条件で、しかし、参加者に は快適な場所で行うことになっており、全地球史解読 の総括班から旅費の援助をして頂けることになりまし た。
なお、温泉など天然に見られるバイオマットや固体 物質の沈殿物のカタログを作成し、今後の研究の基礎 資料にしたいと思いますので、当日試料をお持ちより ください。狭い日本ですが、ちゃんとした目で探せば、 面白いバクテリアのいる有意義なフィールドがあるは ずだという思想のもとに探査を始めようではありませ んか! 開催時期は、7月14〜16日、場所は岐阜県 平湯温泉安房館で、プログラムなどは現在検討中です が、御意見、御要望などありましたらお知らせくださ い。また、周辺で関心のある方々にもお誘いのうえ、 多数の出席を期待しております。なお、最近になって、 今年8月に盛岡で開催される生態学会で「高温極限環 境下における原始共生系」というシンポジウムが開催 されることがわかりました。このシンポジウムの内容 は、標記バイオマット研究会の趣旨と符合する部分が 多く、このシンポジウムの話題提供者も多数参加して 新しい研究の方向性について議論して頂けることにな りました。
1994年12月26日から28日にかけて、名古屋大学理 学部において、全地球史解読の研究集会が開催されま した。この研究集会は、Part 1:生命と地球の共進化、 Part 2:P/T境界問題、Part 3:犬山地域現地見学会から 構成されている。ここでは、Part 1:生命と地球の共進 化の概要を紹介しよう。
全地球史解読計画(Decoding Earth Evolution Program, DEEP)の重要課題として、(1)銀河のリズ ムと地球システム変動、(2)ミランコビッチサイク ルと地球システム変動、(3)固体地球と環境変動、 (4)地球磁場と中心核、(5)堆積物のリズム解析、 (6)生命と地球の共進化、(7)極微量物質の探査、 などの重要なテーマが含まれております。重点領域申 請書では、(1)〜(5)が課題として示されていま すが、この研究計画では、これらだけを設定課題とし て受けとめるのではなく、従来にない新しい研究の切 り口を模索することも大きな課題としています。そう することによって全く予想しなかった新しい事実、ア イデア、データ、仮説などを積極的に生み出そうとい うわけです。こうした考えから、太古代まで遡った岩 石試料に記録されているであろう情報読みだしの対象 とし(6)、(7)が新たに加わったことをご理解下 さい。
「生命と地球の共進化」という解読項目は、199 4年9月末の全地球史解読シンポジウムで新たに浮上 してきたテーマであり、研究の現状のレビュ−と今後 の課題を早急に討論する必要があった。そこで、主要 検討項目を選定し、最も適当と思われる研究者にお願 いして話題提供をして頂きました。また、関連テーマ で研究している方々とも連絡をとって、この研究集会 に出席をお願いしました。プログラムは以下に示すよ うである。
当日参加者は常時30名以上、その専門分野も、地 球惑星科学(地質、古生物、地球システム科学、地球 化学、惑星科学、海洋学)、分子生物学、生物物理学、 微生物学、生化学、非線形物理学、有機化学にわたり、 若い学生、院生の出席も多かった。この研究集会では それぞれの講演者の持ち時間と討論の時間を多くとっ た。短期間ではあったが集中討論で分野間の理解が相 当深まったと思われる。また、新しいアイデアや検討 課題もいくつか提起された。このような雰囲気は懇親 会でいっそう盛り上がり、気がついた時には夜も12 時に近くになっていた、という人もかなりいたようで ある。
このように、一人の頭ではなかなか進まない思考も、 バックグラウンドの異なる研究者の議論を喚起して問 題解決を進めていくことで、飛躍的な理解の深化に通 じる。(A)に示した(1)〜(7)のテーマについ ても、重点研究期間中に研究集会を開いて行きたい。 なお、この研究集会は、1995年3月27日午後に開催 される地球惑星科学合同学会で、シンポジウムとして 開催されたので、個々の講演についての詳しい概要説 明はここでは控えたい。
この研究集会での議論を受けて、現段階までに検討 が開始された課題で、筆者が把握しているものとして 次のようなものがある。
(川上紳一 岐阜大学教育学部)
[目次へ]全地球史解読のメインテーマの一つに挙げられたP /T境界問題についての研究集会が、前日の「生命と 地球の共進化」集会につづいて名古屋大学理学部にお いて催された。さらに、その翌日には犬山地域での野 外見学が行われた。その概要について報告する。 P/T境界問題の主点は、2億5千万年前におきた生 物大量絶滅を含む、地球表層での環境激変の原因を解 明することにある。特に当時の大量絶滅が、生物化石 の情報が比較的豊富な顕生代(地球史46億年のなか の最近5億4千万年間)で最大の規模であったことか ら、地球史のなかでも極めて特異なことがおきたと推 定され、地球史の中のイベントとしては第一級のもの にあたる。この問題について最近日本で重要な貢献が なされつつあるので、今回の集会はこれに関する研究 の現状をリビューした上で、今後の問題点をさぐるこ とを意図した。
集会のプログラムは以下の通り。
1)、2)では、大量絶滅に関するリビューがなさ れた。海保は顕生代の他の時期の大量絶滅については 海水温の変化、特に寒冷化が重要であることを指摘し た上で、P/T事件だけは別の原因を考えるべきだと述 べた。磯崎はP/T境界問題解明の最先端の鍵を日本の 地質屋が握っていることを紹介した。山北は境界の地 層の詳しい年代決定にコノドントが有効であることを 強調した。4)、5)では境界をはさむチャートの化 学組成の検討結果が報告された。生の分析データをど のように解釈するのかについて違いがあり、様々な議 論がなされた。川上は、深海堆積物中のインパクトエ ジェクタ探査の意義を述べ、犬山のチャート中のT/J 境界から最近予察的に見い出されたイリジウム濃集と 衝突エジェクタらしきものの分析の進行状況について ホットな話題を提供した。磯崎は、P/T境界での長期 間酸欠事件と大量絶滅を説明するため、海水循環の停 滞と光合成の停止について議論した。7)については、 従来の常識的考えとは異なる点が多く、某クマ氏ほか から相当強い反論がだされが、議論のネタにはなった (かな?)。最後の討論では、境界層について、堆積 速度、構成物の起源など基本的なことで不明の点が多 すぎるとの指摘があり、今後の主要な問題点がしぼら れた。また、「酸素がなくなった」という定性的表現 が批判され、気候センターの山中氏ほかから、現実的 な許容範囲についてコメントが出された。予定してい ながら、都合で講演あるいは参加できなかった方もお られたが、前日から続いて参加された異分野の研究者 から様々な質疑・意見が出され、結果としてかなり活 発な議論をもつことができた。
(磯崎行雄 東工大理学部)
[目次へ]参加者は15名プラスで、4台の車に分乗して犬山 へ。この計画関係では何度も犬山へいっているので、 今回は特別に名古屋大学大学院の杉山和広氏(もうす ぐ博士)に頼んで、彼が博士論文で詳しく検討した愛 知県側の木曾川河畔を案内してもらった。
基本的には三畳紀の層状チャートをみる目的で、各 化石帯ごとの岩相変化を観察した。また、昨日の川上 氏の講演を受けて、チャート中の隕石探しがはじまっ た。名古屋大の熊谷氏らにより、いくつか怪しいもの? が採取されたので、その後の検討結果に期待されたし。 なお、途中の草むらのなかの水たまりにて生のバクテ リア採取ごっこがはじまり、一同驚く場面もあった。 午後は岐阜県側へ移動し、例のイリジウム濃集がみつ かったT/J境界の見学と追加サンプリングをおこなっ た。また磯崎が紹介したチャート中の色の変化(P/T 境界超酸欠からの復活)が見える露頭を見学し、また 追加サンプリングをおこなった。この露頭では熊沢教 授みずからハンマーをふるい、P/T境界からフラーレ ン(山火事の証拠?)を抽出する目的で大量の岩石を 持ち帰った。
(磯崎行雄 東工大理学部)
[目次へ]全地球史解読事務局では,e-mailによるニュースの 配布,情報の配布・交換サービスをMULTIER事務局の それを引き継ぐことにより行います.e-mailリストに は以下の3段階があります.
これらのメールリストの加入者リストはseno-sun (ip address: 130.69.195.40)のanonymous ftp site (name: ftpあるいはanonymous,passwd:使用者名)の ftp/mail/ の下のmultier-news, multier-news.mail, multier, multier.mail, zebra, zebra.mailというファイル名でおい てありますのでご利用下さい("ftp"が 接続した時の current directoryです.現在リストコマンド"ls"が効か ない状態ですのであしからず)..mailがついたものは alias name addressの並びのリストファイルとなってい ます.ついていないものはaddressだけのファイルです.
ftp/addressには,重点の班員の名前,所属,電 話,ファックス,e-mailなどの各班ごとのリスト(ファ イル名soukatsu, toruなど)と全地球史解読ニュースレター・ MULTIER Newsの配布先リスト(ファイル名 news.distribution)もおかれていますのでご利用下さい. news.distributionにはe-mailでニュースをお配りしてい る方の多数が抜けていますがご容赦ください.(それ らの方はftp/mailの下のmultier-news.mailにリストされ ています).これらのリストから漏れている方で,ニュ ースを配布した方がよいと思われる方にお気づきの際 は,瀬野までご連絡ください.
またftp/newsの下にはこれまで発行されたニュースが multier11, deep1のような名前で置かれています。 (deepはDechiphering Entire Earth Projectの略です)。
ようやく重点領域研究「全地球史解読」が正式に始 まろうとしています.メールサービスを含めて情報の 流通が研究推進に極めて大切であろうと思います.メ ールへの投稿のみならず全地球史解読ニュースレター に流したい情報やお気づきの点がありましたら遠慮な く事務局までお願いします.
(瀬野徹三 全地球史解読事務局)
[目次へ](1996年7月現在)
このページは、瀬野徹三さんから次のメイリングリスト記事として 提供されたものに基づいています。
Date: Tue, 4 Jul 95 15:40:03 JST From: seno@seno-sun.eri.u-tokyo.ac.jp (Tetsuzo Seno) Message-Id: <9507040640.AA01903@seno-sun.eri.u-tokyo.ac.jp> HTML版作成: 1996-08-16 増田 耕一 (東京都立大学 理学部 地理学科、 「全地球史解読」総括班員・情報処理担当) masuda-kooiti@c.metro-u.ac.jp[目次へ]