「1996年オーストラリア調査報告会」レポート
椛島太郎(東京工業大学)
10月15日(火)午後に東京工業大学において「1996年オーストラリア調査報告会」
が行われました。その内容について簡単に御報告します。
丸山先生を中心として東工大のグループでは、過去7年にわたって西オーストラリ
アのピルバラ地塊の調査・研究を行ってきました。94年からは海外学術調査のサポー
トもあり(94・96年代表:磯崎;95年代表:浜野)、多くのデータと岩石試料が採取
されてきました。今年も3000個(約8トン)を越える試料を採取しました。7年間で
東京23区に匹敵する面積で1/5000スケールの地質図を作成し、30トンあまりのピルバ
ラの岩石を日本に持ち帰り、のべ参加人数も100名を越えると思われます。このよう
な経過を踏まえて、今回の集会では発表者に発表内容必須項目として次の3つの課題
が義務づけられました。1)初期・大目的の確認 2)研究のprogress report 3
)研究予定スケジュール及び論文化期日(作成予定の図表一覧添付)。そのため(?)
どの発表者にも緊張感がみなぎり、午後1時から始まった白熱した議論は午後10時頃
まで続きました(終了予定は午後6時でした)。
以下はそれぞれの発表のタイトルと概要です。
- 1. 磯崎行雄(東工大)「報告会の主旨説明及びピルバラ地塊の地質概要」
- 過去7年間で調査に投資された金額が報告され、これまでに重要な成果が
あげられていること及び早急に論文化する必要性が熱く語られた。来年度末に提出
する国際学術研究の報告書に成果を載せる義務があることも指摘された。
- 2. 畠山唯達(東大)「クリーバビル地域のBIFによる古地磁気学的研究とその問題点」
- 第三紀の風化の影響について疑問をもたれたことと、それに対する反論につい
て報告。
- 3. 隅田育郎(東大)「ピルバラの岩石を用いた古地磁気、岩石磁気の研究と課題」
- これまで太古代の地球磁場の強度は小さく、27億年前頃から急激に増したと考え
られているが、ピルバラの35〜27億年前の岩石の残留磁化は従来の推定値の
数10〜100倍あることを報告。
- 4. 椛島太郎(東工大)「ノースポール地域の地質」
- 従来報告されているジルコン年代と付加体という解釈との間の矛盾点を
指摘し、より精度の高い年代測定法での多数試料測定の必要性を強調。
- 5. 寺林 優・増田優記(香川大)「ノースポール地域の変成作用」
- 約1800+α枚(卒論世界一記録?)の岩石薄片検鏡結果に基づき、広域変成作用の欠如と海洋底変成作用の存在を指摘。
- 6. 加藤泰浩・北島宏輝(山口大)「ノースポール地域の変質作用」
- 微量元素及びREEパターンから中央海嶺付近でおこる熱水変質以外に、海嶺から離れた場所での変質作用の重要性を強調。
- 7. 上野雄一郎・磯崎行雄(東工大)「初期生命の探究」
- 三次元形態を示す微化石の産出地点の再検討結果から、その年代が付加体形成後であると推定。
- 8. 吉岡秀佳(名古屋大)「縞状鉄鉱層中のマンガンノジュールに伴う脂肪酸の発見」
- 約33億年前の縞状鉄鉱層中から有機分子を発見したが、分析の追試が必要であ
ること、効率の良い分析装置を開発中であることを報告。
- 9. 加藤泰浩・木村進一(山口大)「ハマースレー地域のスペリオル型縞状鉄鉱層の成因」
- 縞状鉄鉱層中にある種のバクテリア類似の構造があることを指摘。
- 10. 太田 宏(東工大)「キャメルクリーク地域の地質と岩石学」
- 約35億年前のコマチアイトの産状は、プレート内火山岩である可能性を示し、当時のプリューム活動による海山の付加が推定された。
- 11. 加藤泰浩・河上貴範・中村健太郎(山口大)「マーブルバー地域の地質及びチャートの地球化学」
- 化学分析結果は中央海嶺起源の玄武岩上に堆積したチャートと
海山・海台起源の玄武岩上に堆積したチャートとの間に、堆積場を反映した違いがあ
ることを指摘。
- 12. 寺林 優(香川大)「マーブルバー地域の変成作用」
- ノースポール地域に比較してサンプルの数が少ないため、まだ十分な議論ができない。今年採取したサンプルに期待。
- 13. 南間利之・廣瀬 敬・丸山茂徳(東工大)「27億年前の洪水玄武岩の岩石学」
- 世界最古の洪水玄武岩と推定されるマウントロー玄武岩のサンプリング状況を説明した。
- 14. 真砂秀樹・金子慶之(東工大)太田 努(新潟大)「世界最古の大陸衝突型造山帯カプリコーン造山帯の変成作用」
- 約19億年前のピルバラとイルガルン地塊間の衝突で形成された造山帯をヒマラヤと比較し、類似点を指摘した。
当日の午前10時頃、石川台2号館が全館停電するという突然のアクシデントに見舞
われましたが、会場を変更してなんとか予定通り(?)に報告会を行うことができまし
た。原因は工事関係者が誤って高圧ケーブルを切断したことによるものでした(午後
11時頃復旧)。参加者のみなさんに御迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げます。
最後に、遠方より参加された方々に深く御礼申し上げます。
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From: kabasima@geo.titech.ac.jp (Taro KABASHIMA)
To: zebra@seno-sun.eri.u-tokyo.ac.jp
Date: Thu, 17 Oct 1996 06:25:29 GMT
椛島太郎(Taro Kabashima)
東京工業大学・地球惑星科学教室
HTML化:
増田耕一 (東京都立大学 理学部 地理学科)
masuda-kooiti@c.metro-u.ac.jp