巻頭言
天文データセンター長 水本好彦
2006/7/31
国立天文台天文学データ解析計算センターは2006年4月より「天文データセンター」と「天文シミュレーションプロジェクト」の二つの組織に分割して改組いたしました。
天文学データ解析計算センターは東京大学東京天文台を中核にして1988年7月1日に国立天文台が発足した時に設立されました。東京天文台の人工衛星国内計算施設を前身とし、その長い名前が示すように、天文学のデータ解析をするための全国共同利用の計算センターとして発足しました。当時は大型汎用計算機の全盛時代が終わり、ダウンサイジングが始まったところでした。しかし、天文観測データの処理には現在と違って高額の計算機が必要で、天文学分野の研究者が無料で使える計算センターの役割は大きなものでした。一方、野辺山宇宙電波観測所では45m電波望遠鏡と10m電波干渉計が大活躍を始めており、そのデータ処理のために野辺山宇宙電波観測所にも大型汎用計算機が設置され、当時出たてのスーパーコンピュータ(スパコン)も導入されていました。
天文シミュレーションによる理論研究ではスーパーコンピュータは非常に強力な道具であり、三鷹にもスパコンをという要望が高まり、1995年度には天文学データ解析計算センターの計算機リプレースで、理論の望遠鏡としてのスパコンがはじめて導入されました。2000年度の計算機リプレースではスパコンの能力を大幅に増強するとともに重力多体問題専用計算機GRAPEも導入されました。
2000年度の計算機リプレースでは2001年はじめに共同利用を開始するすばる望遠鏡のデータ解析のための計算機資源の整備も課題となりました。すばる望遠鏡の解析環境では計算資源のみならずすばる望遠鏡の大量の観測データの提供が重要です。そこで、2001年度からはハワイ観測所と協力してすばる望遠鏡のためのデータ解析環境(光学赤外データ解析システム)を運営してきました。一方で、一般の天文観測データのための共同利用計算機(一般共同利用計算システム)の役割は、データ解析のためのソフトウェア環境の整備と各種天体カタログやすばる望遠鏡の観測データなどの天文データ配信というデータセンターとしての機能に重点が移ってきました。
この様に、天文学データ解析計算センターは発足以来その役割を時代の要請に合わせて変えてきました。国立天文台法人化という大きな組織変革を機に2004年には台外の委員を含む検討ワーキンググループが作られ将来の方向性について約2年間にわたって検討が行われました。その結果、High Performance Computerからなる理論の望遠鏡と天文データを総合的に扱うデータセンターという大きな流れを進め2つの組織に分離改組することになりました。2つの組織が完全に分離独立するのは現在の計算機システムのリプレースが予定されている2008年になりますが、時代の要請を満足するとともに新たな天文学の発展を促すような組織にすべく努力を続けてまいります。