光学赤外線天文学・観測システム研究系「計算天文学」と

「データベース天文学」の推進

 

【現状】

 天文学データ解析計算センターでは「理論の望遠鏡」として1995年度に導入したスーパーコンピュータシステムを2000年度に更新し、2001年度から本格的な共同利用を行っている。今回の更新ではレンタル予算の増額を得、10倍以上の性能となった。また、銀河などの進化を数値的に実験するための多体問題専用計算機GRAPEも増強された。更に、計算結果の可視化のための高速画像処理システムや、すばる望遠鏡の観測データをはじめとする一般のデータ解析のためのデータ解析ワークステーション群も整備された。これらの計算機群は新築の総合情報棟とすばるの解析研究棟に設置されている。

 今回のスパコンシステム更新で三鷹構内のネットワークも全面更新され、末端でも100Mbpsのスピードで通信ができるようになった。また、2001年度後半には文部科学省情報学研究所運営のスーパーサイネットに結ばれ、国立天文台外との通信が10Gbpsの速度でできるようになる。

 

 このように、天文学データ解析計算センターは「天文学データ解析計算センター年報」第7号巻頭言にある

      「理論の望遠鏡を実現」して

    「研究する計算センタ」へ、そして

  「他では出来ない計算が出来る計算センタ」へ

という目標のもとに、「実験の出来ない科学」であった天文学から計算機シミュレーションによる数値実験を研究手法とする計算天文学の発展に寄与してきた。

 

 

【将来構想】

 一方、天文学データ解析計算センタの将来構想も検討され、以下のような結論に達した。

 

将来の天文学に於いては大量のデータが連続的に産み出される。そうした膨大なデータの中から如何にして効率的かつ有用な科学的情報を抽出できるかが天文学自身の死命を制する鍵である。国立天文台では、すばる・野辺山・ALMA など高精度かつ大量のデータを産出する観測装置を運用あるいは計画中であり、それらの観測装置から産み出される膨大なデータを効率よく蓄積し、研究者が容易に利用できるシステムを作り上げる必要がある。これまで天文学データ解析計算センターでは、スーパーコンピュータシステムの共同利用を通じて計算天文学としての学術研究成果を得て来た。これと並行して、上述の大量データを基礎とするデータベース天文学の発展に大いに寄与すべきである。

 

これに基づき、

 ・計算天文学:数値シミュレーション天文学の推進(数値計算法の開発、専用計算機の開発研究)

        当該コミュニティー独自の大型計算機の運用と共同利用

 ・データベース天文学:すばる、野辺山、ALMA らが産出する観測データのデータベースシステムの構築

        データベースを用いた天文学(データベース天文学)の推進

 ・インフラストラクチャ:国立天文台内の計算機ネットワークの維持管理など

の3つを天文学データ解析計算センタの3本柱として推進していく。当センタの現状での人員の少なさは国立天文台の理論天文学研究系、光学赤外線天文学・観測システム研究系、ハワイ観測所、野辺山宇宙電波観測所との協力や、天文情報処理研究会の多くのメンバの協力によって補われている。

 また、国立天文台内の計算機ネットワークについてはその維持管理だけでなく、計算機ネットワークに関わる国立天文台内の人材の養成や教育にも寄与したい。

 

 

【開発プロジェクト】

 天文学データ解析計算センタでは2001年度は以下の開発プロジェクトを推進している。

 

(A)天体物理学専用計算機の開発

 重力多体問題専用計算機GRAPEを並列計算用に使うための数値ライブラリおよびプログラムパッケージの開発を開始している。また、ここ数年間取り組んで来た粒子法的流体力学の専用計算機について継続して開発要素の検討を行う。

 

(B) DBDAプロジェクト

SMOKAに代表されるような光・赤外の観測データのデータベース化と発信。MAISONのような宇宙科学研究所との共同開発や, HST データアーカイブの日本支所の運営なども行っている。

 

(C) 統合DBプロジェクト

野辺山電波観測所のデータをアーカイブ化・データベース化することに始まり、天文学におけるデータマイニングの研究を進めている。

 

 

【データベース天文学推進室】

 上記将来構想に基づき、2001年度に国立天文台内にデータベース天文学推進室が発足した。計算機の急速な性能向上や、計算機と通信を分けて考えることが不可能であるほどの計算機ネットワークの発展により、世界中に分散された大量の観測データの高速全数処理が可能な世界が実現しつつある。また、WEBに代表されるソフトウェア技術の進歩も甚だしい。このような計算機工学・計算機科学の「勢い」を天文学に極限まで利用し、次世代の天文データベースシステムとしてサイエンスアーカイブの開発を推進し、それによって天文学において世界の第一線にたちたいと考えている。

 

 

【展望】

  既に述べてきたように, 計算機という人類史上最も発展の速度の速いものを核として, 天文学に新しい局面を拓く「計算天文学」と「データベース天文学」の推進に向けて努力を続けている。

利用者の皆さんの支援・協働を切にお願いするものである。

 

                                                                                     国立天文台天文学データ解析計算センター長                                                                                                                                     水本好彦