アテルイが描く宇宙 第3回

2014.12.25 掲載

2014年9月にアップグレードされ,同10月から共同利用運用を開始したCfCAのスーパーコンピュータ「アテルイ」.これまでどのような研究がアテルイによって行われてきたのかをここでは紹介していきます.また新しいアテルイに対しての研究者の方々の期待の声もご紹介いたします.

【太陽黒点の形成の謎】

政田洋平(神戸大学大学院 システム情報学研究科)


 太陽表面に現れる黒点は、太陽フレアやコロナ質量放出などの太陽活動現象の源です.太陽物理学における最大の未解決問題と言われているのが,この黒点の形成機構,すなわち『太陽ダイナモ機構』1です.『激しい対流が支配する太陽内部で,どのようにして黒点が形成されるのか?』,『太陽黒点が周期的に極性を反転させるメカニズムは何か?』などの問いに定量的に答えることが私たちの研究の目的です.

 私たちは太陽全体を対象とする『全球モデル』とその一部を切り出した『局所モデル』,2つの磁気流体計算モデルを使った相補的なシミュレーションで太陽黒点の謎に挑んでいます.図1が,アテルイの超並列計算性能を活かして行った,局所対流ダイナモの高解像度・超長時間積分シミュレーションの結果です.アテルイを使ったシミュレーションによって,激しい対流の中で『黒点の素』となる周期的な極性反転をともなう磁場構造が生成されることを見いだしました (図2).さらに,小さな無数のらせん状対流が協調して磁場を巻き上げることによって,このような黒点状の大きな磁場構造が生み出されることを,初めて定量的に実証することにも成功しました.



図1:太陽内部の対流の様子.赤い部分が下に向かう流れ,青い部分が上へ向かう流れを表している.
x軸が経度方向、y軸が緯度方向,z軸が太陽の半径方向に相当する.白い点線から上が対流層,下が放射層となる.
[クレジット] 政田洋平(神戸大学)



図2:太陽内部の磁場の様子.横軸が時間,縦軸が太陽内部の深さをあらわす.赤と青のパターン(それぞれ磁石のN極やS極に相当)が時間によって入れ替わっていることから,周期的に磁場が反転を繰り返す様子を見ることができる.
[クレジット] 政田洋平(神戸大学)

 今回のアップグレードによってこれまで以上の長時間積分計算が可能になり,例えば太陽活動の中長期変動(マウンダー極小期2がなぜ起きるか?スーパーフレア3は起き得るのか?等)の理解につながると期待されます.新しいアテルイの計算が太陽内部磁気流体現象の理解を切り拓いていくことでしょう.

【注】
1) ダイナモ機構:ガスの運動によって磁力線を引き伸ばしたり,ねじったりすることで,磁場を増幅させ,ガスの運動エネルギーを磁場エネルギーに変換する機構のこと.
2) マウンダー極小期:1645年から1715年の間に起こった,太陽磁気活動が弱まり黒点がほとんどされなかった期間のこと.イギリスの太陽物理学者エドワード・マウンダー(あるいはモーンダー)によって発見された.
3) スーパーフレア:太陽でおこる最大級のフレアと比較して10倍以上のエネルギーをもったフレア現象のこと.近年,太陽に似た恒星でスーパーフレアが起こっていることが確認されている.


【論文】
"Mean-Field Modeling of an α2 Dynamo Coupled with Direct Numerical Simulations of Rigidly Rotating Convection", Youhei Masada and Takayoshi Sano 2014, ApJL, 794, L6.
[ADS][arXiv]

【関連リンク】
「天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイ」,さらに2倍の計算速度へ」(2014年11月13日CfCAプレスリリース)

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