アテルイが描く宇宙 第4回

2015.2.13 掲載

2014年9月にアップグレードされ,同10月から共同利用運用を開始したCfCAのスーパーコンピュータ「アテルイ」.これまでどのような研究がアテルイによって行われてきたのかをここでは紹介していきます.また新しいアテルイに対しての研究者の方々の期待の声もご紹介いたします.

【原始惑星系円盤の磁場】

鈴木建(名古屋大学 大学院理学研究科)


 私達の地球を含む惑星系は生まれたばかり星の周囲で誕生すると考えられていますが,実際にどのように形成されるかは明らかではありません.星や惑星が生まれる場所の大事な物理要素の1つが磁場です.私は,生まれたばかりの星のまわりにできるガスや塵の回転円盤(原始惑星系円盤)の中で磁場がどのように振る舞うのか,さらに磁場によって円盤のガスがどのような運動をするのかを,スーパーコンピュータを用いて計算しました.

 シミュレーションは,円盤全体を計算する『大局的な』計算と(左図),その一部のみを切り取り,より高解像度で計算する『局所的な』計算(右図)をおこないました.特に高い計算能力を必要とする大局的な計算では,2013年にアテルイが稼働したことで一気に計算がすすみました.これにより,大局的なガスの流れから小さな乱流までをコンピュータ内で再現し,磁場が起こす流体現象をさまざまなスケールで見ることができるようになりました.その結果,この計算以前まで主流であった,中心星からの紫外線やX線によって加熱されることで円盤内のガスが蒸発する説に加え,今回の計算から原始惑星系円盤では,磁場が駆動源となる円盤風が円盤内のガスを持ち去る機構となりうる,ということを示しました.

動画:大局的シミュレーションで見る原始惑星系円盤の磁場の進化.白い曲線が磁力線を表している.
円盤が回転することによって磁力線が巻かれ,円盤内の磁場が強くなっていく様子がみてとれる.
クレジット:鈴木建(名古屋大学)


図:原始惑星系円盤の大局的シミュレーション(左)と円盤の断面の一部を切り出した局所的シミュレーション(右).右の図では赤い部分が円盤の赤道面,緑色の部分が円盤の上下面にあたる.白い曲線が磁力線を,矢印がガスの速度を表している.この矢印に注目すると,円盤の上下方向へガスが流れ出していることがわかる.
[クレジット] 鈴木建(名古屋大学)

 広い意味でいうと,この研究は,我々の太陽がどのように作られ地球などの太陽系惑星が形成され進化してきたかを理解する上での重要なステップだと言えます.そのような観点から,我々人類が何故地球にいるのかということを理解するために,自分は研究していると思っています.さらに今後,今回のシミュレーションで確立した手法を活かして,太陽風の進化に関する研究にも新しいアテルイを用いて取り組みたいと考えています.


【論文】
"Disk Winds Driven by Magnetorotational Instability and Dispersal of Protoplanetary Disks", Takeru K. Suzuki and Shu-ichiro Inutsuka 2009, ApJL, 691, L49.
[ADS][arXiv]
"Protoplanetary Disk Winds via Magnetorotational Instability: Formation of an Inner Hole and a Crucial Assist for Planet Formation", Takeru K. Suzuki, Takayuki Muto and Shu-ichiro Inutsuka 2010, ApJ, 718, 1289.
[ADS][arXiv]
"Magnetohydrodynamic Simulations of Global Accretion Disks with Vertical Magnetic Fields", Takeru K. Suzuki and Shu-ichiro Inutsuka 2014, ApJ, 784, 121.
[ADS][arXiv]

【関連リンク】
「天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイ」,さらに2倍の計算速度へ」(2014年11月13日CfCAプレスリリース)

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