プロジェクトの概要
国立天文台天文シミュレーションプロジェクトは平成18年4月に共同利用のためのスーパーコンピュータの運用とそのために必要な研究開発に責任を持つ組織として発足しました。その前身は天文学データ解析計算センターの大規模シミュレーション運用チームです。国立天文台に於ける本プロジェクトの設置目的は以下の通りです。
- スーパーコンピュータおよび重力多体問題専用計算機等からなる大型高速計算機システムを共同利用運用し、国内外の利用者の数値シミュレーション天文学研究を支援する。
- 計算宇宙物理学の拠点として、独創的ハードウェア・ソフトウェアの開発研究を行い、シミュレーション天文学研究で世界トップクラスの成果を挙げる。
- 最新の天文学の成果を反映させた4次元デジタル宇宙コンテンツを開発し、天文学研究の推進および社会への教育・広報普及に供する。(4d2uプロジェクト)
プレスリリースなど
過去に行われたプレスリリースなどについてはこちらをご覧ください。
研究紹介
惑星系の形成
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地球をはじめとする太陽系の惑星の起源は天体物理学の重要問題の1つです。特に近年は、太陽系とは様相の異なる系外惑星系が次々と発見され、多様な惑星系の起源を統一的に理解することが大きな課題となっています。 現在の標準的な惑星系の形成シナリオでは、惑星系は「原始惑星系円盤」とよばれるガスとダストからなる恒星周りの円盤から形成されると考えられています。円盤からの惑星形成は、(1) ダストからの微惑星形成、(2) 微惑星からの原始惑星形成、(3) 原始惑星からの惑星形成、の3段階で進みます。 ダスト、微惑星、原始惑星などの粒子系は「重力多体系」で、このような系の進化を調べるには多体シミュレーションが強力な武器となります。CfCAが運用している重力多体問題専用計算機GRAPEは多体シミュレーションでもっとも計算量が多い粒子間の重力相互作用を高速で計算するハードウェアパイプラインです。現在、CfCAでは様々な惑星系における形成の各段階の多体シミュレーションが行われています。 |
図の説明: GRAPEによる惑星形成のシミュレーション (4D2U提供) 。中心の明るい星が太陽で、白い線は原始惑星の軌道を表している。
星の誕生と磁場
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星はガスの中で誕生します。ガスの中には周辺より少し密度が濃く、重力が強い場所があり、周りのガスを引き寄せます。すると密度がさらに濃くなり、ますますガスを引き寄せて、やがて星が誕生します。しかし、単純にこのように星が誕生しているとすると、ガスから星が誕生しすぎてしまうことが分かっています。そのため、何か星の誕生を妨げている物があるはずだと考えられています。その候補がガスの中にある「磁場」です。磁場はガスの中を流れる「電流」によって作られています。 一方で、強い磁場があり続けると、星は誕生できません。しかし、ガスの中を流れる電流には「電気抵抗」が生じ、電気抵抗が生じると電流が熱に変わり、電流は弱くなります。その結果磁場も弱くなり、ようやく星が誕生するのです。 磁場を持つガスから星が誕生するまでには長い時間がかかり、その過程を再現するためのシミュレーションにも時間もかかります。CfCAのスーパーコンピュータを用いた結果、ガスが磁場に妨げられながら長い時間をかけてゆっくりと集まってくる様子を計算により再現できるようになってきました。 |
図の説明: 強い磁場があるガスの中で星が誕生する様子をスーパーコンピュターによる計算で再現した結果。NECのスーパーコンピュタSX-9を用いて、磁場とガスが満たす磁気流体力学の方程式を解いた。図の青い線が磁場の方向(磁力線)を表す。赤い色の濃い部分の中心で星が誕生している(工藤哲洋氏 提供)。
ブラックホール
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ブラックホールは光さえ脱出できない暗黒天体として知られていますが、実際は宇宙で最も明るくパワフルな天体の一つです。ブラックホールの周囲に明るく輝くガス円盤が形成され、そこから超高速なジェットが噴出すると考えられているのです。ガス円盤およびジェットの構造やメカニズムを解明するには、従来から行われていた流体力学計算だけでは不十分で、磁場構造や輻射輸送も同時に解かなければなりません。 CfCAでは、スーパーコンピュータを用いて輻射磁気流体力学シミュレーションを実行し、ブラックホール周囲で起こる現象の解明に迫っています。 図の説明: 輻射流体シミュレーションで解明したブラックホール周囲のガス円盤(茶)およびジェット(緑)。ブラックホールはガス円盤に埋もれており、らせん状の白線は磁力線構造を示す。計算にはCfCAのXT4で約2週間を要した(大須賀健氏 提供)。 |
超新星爆発
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大質量の星はその一生の最期に大爆発を起こすと考えられており、この爆発は「超新星爆発」と呼ばれています。超新星爆発は宇宙空間に元素を供給するという重要な役割をもっていますが、その爆発がどのようなメカニズムで起きるのかは解明されていません。 CfCAでは超新星爆発のメカニズムを解明するため、スーパーコンピュータを用いて、超新星爆発の高解像度シミュレーションを行っています。これまでは1次元球対称や、2次元軸対称のように空間の自由度を制限しなければシミュレーションができませんでしたが、CfCAのスーパーコンピュータを使うことで、3次元空間における現実的なシミュレーションが可能になってきています。 図の説明: 超新星爆発の3次元シミュレーション。流体力学とニュートリノの輻射輸送を同時に解いており、爆発の瞬間0.02秒間をシミュレーションするのにCfCAのスーパーコンピュータXC30で約1日を要した(滝脇知也氏 提供)。 |
高エネルギー天体におけるフレア現象
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図の説明: 「フレア」のシミュレーション。中心で磁力線の繋ぎかわりが起きており、エネルギーが解放されて、左右にビーム状の光が照射されている。CfCAのスーパーコンピュータXT4を用いて約100時間程度を要した(高橋博之氏 提供)。 |
ブラックホール降着円盤などの高エネルギー天体からは時々、「フレア」と呼ばれる爆発現象が観測されています。しかしこのフレアがどのようにして起こるのかは現在でもわかっていません。フレアの起源を探るためにはガス(プラズマ)や磁場、光など様々な物理を考慮する必要があるため、解析的に研究をすることは非常に困難です。
CfCAではこの爆発機構を解明するためにスーパーコンピュータを用いた研究が行われています。スーパーコンピュータを用いることで、ガス、磁場、光の様々な物理を考慮し、現実的なシミュレーションを行うことが可能となりました。
4D2Uプロジェクト
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国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト(4D2Uプロジェクト)は、最先端のコンピュータで描き出した宇宙の構造の進化を可視化するとともに、膨大な観測データを利用して、専門の研究者から一般の方まであらゆる人に現在の宇宙の姿を目の当たりにしていただくことを目指しています。 図の説明: 4D2Uドームシアター内部.投影しているのは4次元デジタル宇宙ビューワー "Mitaka"(ミタカ). |
計算機紹介
Cray XC50
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Cray XC50はスカラー型の並列計算機です。2018年6月1日から水沢VLBI観測所で稼働開始し、「アテルイ II」という別称が与えられました(2018年6月1日のプレスリリース))。理論演算性能は3.087 Pflopsです。演算に用いられる全コア数は40,200で、システム全体で385.9 TBの主記憶容量をもっています。また、数値シミュレーションのデータを格納するために6.5 PBのストレージが搭載されています。 |
Cray XC50の外観 (クリックで拡大します) |
GRAPE
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GRAPE (GRAvity PipE)は重力多体問題に特化した専用計算機です。重力多体問題でもっとも計算量が大きい粒子間の重力相互作用を高速に計算することができます。 現在、天文シミュレーションプロジェクトではGRAPE-DRとGRAPE-9を運用しています。 |
GRAPE-DRクラスタ |
計算サーバ
解析サーバ・ファイルサーバ
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解析サーバは上記、共同利用計算機群で計算されたシミュレーションデータを解析・可視化するためのサーバ群です。各解析サーバはそれぞれ多数の演算コア、大容量のメインメモリと各種解析・可視化ソフトウェアがインストールされており、CfCAの共同利用計算機のアカウントを持つ全てのユーザーが使用することができます。 ファイルサーバは数十台のラックマウントサーバにより構成された大規模データストレージシステムです。各ファイルサーバにはRAID6で冗長化された3つの40TBのボリュームが存在し、各ボリュームはNFSファイル共有により10GbEの高速ネットワークを介して解析サーバに接続されています。 |
解析サーバとファイルサーバ |
公式マスコットキャラクター
アテルイくんとダルマくん
平成30年3月に運用を終えた計算機
Cray XC30 「アテルイ」
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平成25年4月1日から水沢VLBI観測所で稼働開始したスーパーコンピュータCray XC30には「アテルイ」という別称が与えられました.初期の理論演算性能502 Tflopsでしたが、平成26年9月にCPUの更新が行われて1.058 Pflopfの演算性能を持つに至りました(平成26年11月13日のプレスリリース).演算に用いられる全コア数は25,440コアあり,システム全体で135.6 TBの主記憶容量を持っていました.また,数値シミュレーションのデータを格納するために820 TBのストレージが搭載されていました. |
平成25年3月に運用を終えた計算機
Cray XT4
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スカラ超並列計算機Cray XT4は平成20年4月から平成25年3月まで運用され、国内外の多くの研究者によって利用されました。理論ピーク性能約 27 Tflops であり、計算ノードは 740ノード (2960 cores), 主記憶総容量は約 5.8TB でした。計算ノード以外にもユーザのためのファイルシステムやプログラミング環境が用意され、主にMPIにより並列化されたプログラムを使用することで大規模な並列計算の実行が可能でした。 XT4システムのページへ移動 |
Cray XT4の外観 (クリックで拡大します) |
NEC SX-9
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NEC SX-9はベクトル型計算機であり、その理論ピーク性能は約 1.6Tflops (単一コアあたり102.4 Gflops)、主記憶総量は 1TB であり、Cray XT4と同様に平成20年4月から平成25年3月まで運用されたシステムです。SX-9 ではそれ以前に運用されていた富士通 VPP5000で開発されたプログラム資源を容易に利用することが可能でした。それまでのベクトル計算機の時代から新しいスカラ多並列計算機の時代への橋渡しとなった機材です。 SX-9のページへ移動 |
NEC SX-9の外観 (クリックで拡大します) |
メンバー (令和2年10月1日現在)
名前 | 身分 | 専門分野 | |
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小久保 英一郎 (プロジェクト長) | 教授 | kokubo [dot] eiichiro [at] nao [dot] ac [dot] jp | 惑星系形成論、シミュレーション天文学 |
富阪 幸治 | 教授 (併任) | tomisaka [at] th [dot] nao [dot] ac [dot] jp | シミュレーション天文学、星間物質の構造と進化 |
町田 真美 | 准教授 (併任) | mami [dot] machida [at] nao [dot] ac [dot] jp | 降着円盤、高エネルギー天文学 |
岩﨑 一成 | 助教 | kazunari [dot] iwasaki [at] nao [dot] ac [dot] jp | 星・惑星形成論、数値流体計算手法 |
片岡 章雅 | 助教 (併任) | akimasa [dot] kataoka [at] nao [dot] ac [dot] jp | 惑星形成 |
滝脇 知也 | 助教 (併任) | takiwaki [at] cfca [dot] jp | 高エネルギー天体物理 |
原田 ななせ | 助教 (併任) | nanase [dot] harada [at] cfca [dot] jp | 星間化学、近傍銀河 |
守屋 尭 | 助教 (併任) | takashi [dot] moriya [at] nao [dot] ac [dot] jp | 超新星爆発 |
伊藤 孝士 | 助教 | ito [dot] t [at] nao [dot] ac [dot] jp | 計算機共同利用、太陽系力学 |
高橋 賢 | 特定技術職員 (併任) | ken [dot] takahashi [at] nao [dot] ac [dot] jp | ネットワーク運用 |
福士 比奈子 | 特任専門員 | fukushi [dot] hinako [at] nao [dot] ac [dot] jp | CfCA/4D2U 広報 |
波々伯部 広隆 | 特任専門員 | hohokabe [at] cfca [dot] jp | 惑星形成論 |
石川 将吾 | 特任研究員 | shogo [dot] ishikawa [at] nao [dot] ac [dot] jp | 観測的宇宙論 |
瀧 哲朗 | 特任研究員 | tetsuo [dot] taki [at] nao [dot] ac [dot] jp | 微惑星形成 |
坂 牧子 | 研究支援員 | makiko [dot] ban [at] nao [dot] ac [dot] jp | 系外惑星(浮遊惑星) |
加納 香織 | 研究支援員 | kano [dot] kaori [at] nao [dot] ac [dot] jp | ウェブマネジメント、共同利用業務支援、他 |
増子 京子 | 事務支援員 | secretaries [at] cfca [dot] nao [dot] ac [dot] jp | プロジェクト事務支援 |
客員・連携 (令和2年5月1日現在)
名前 | 身分 | 所属 |
---|---|---|
林 祥介 | 客員教授 | 神戸大学理学研究科惑星学専攻 |
波田野 聡美 | 特別客員研究員 | JAXA筑波宇宙センター |
4D2Uメンバー (令和2年5月1日現在)
名前 | 身分 | 専門分野 | |
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加藤恒彦 | 特任専門員 | tsunehiko [dot] kato [at] nao [dot] ac [dot] jp | 高エネルギー宇宙物理学,宇宙プラズマ物理学 |
中山 弘敬 | 専門研究職員 | hirotaka [dot] nakayama [at] nao [dot] ac [dot] jp | |
長谷川 鋭 | 研究支援員 | satoki [dot] hasegawa [at] nao [dot] ac [dot] jp |
歴代プロジェクト長
平成24年4月1日 - 現在 | 小久保英一郎 |
平成23年4月1日 - 平成24年3月31日 | 小久保英一郎 (事務取扱) |
平成18年6月1日 - 平成23年3月31日 | 牧野淳一郎 |
平成18年4月1日 - 平成18年5月31日 | 富阪幸治 (事務取扱) |