コンピューターと天文観測

 現在の天文観測においてはコンピュータはなくてはならないもの となっています。その活躍の場は望遠鏡や観測機器の制御に始まり、 観測データの取得・データベース化・解析、更には最終的な論文執筆 に至るまで非常に多岐に及んでいます。

観測

  • 天体に望遠鏡を向ける
     天体を観測するには、望遠鏡を天体の方向に向けなければいけません。 天体の座標をコンピューターに入れると、その座標 の方向に望遠鏡が向けられ、目的の天体を観測できます。座標を使うと 目では見えない天体も捕らえることが出来、かつ正確に望遠鏡 を向けることができます。また早く天体を捕らえることが可能になります。

      野辺山観測所・45m電波望遠鏡   ハワイ観測所・すばる望遠鏡

  • 天体を追尾する
     天体は時間と共にどんどん移動しますから、望遠鏡もそれにとも なって一緒に動いていかないと観測を続けられません。 コンピューターはその時刻の天体の位置を割り出して、望遠鏡を動かします。

  • リモートコントロール
     天体観測はどこでも同じようにできるというわけではありません。 観測条件のよい場所ほどよいデータが得られます。観測条件のよい 場所というのは高い山の上だったり、街から離れている場所だったり しますので、人間の行き来が難しくなります。現在ではコンピュータ を使ったリモートコントロールによって、望遠鏡を操作している ところがあります。

    解析

     観測から得られたデータはそのままでは解釈が難しいため、さらに コンピュータで解析する必要があります。その解析の 方法は波長によって、あるいは観測装置によって異なってきます。

     可視光 の天体観測では、これまでは光の検出のために 写真乾板が長い間使われてきました。 近年になって、CCDという感度の高い受光素子が開発され、 また可視光より波長の長い赤外線を検出することのできる素子も 開発されるようになりました。これらの受光素子は電気的に 制御する必要があり、主にコンピュータを用いて操作を行ないます。 観測データはすべてデジタルの形でコンピュータに取り込まれ、 画像処理を行なうことにより天体の画像(絵)が得られます。 左の図は近赤外線観測における生データの(処理前の)画像、 右の図は画像処理を施した後のイメージです。

     電波 の観測では、天体のある1点から出ている 電波の周波数と強さを表すスペクトルと呼ばれるデータが得られ、 コンピュータ上でそのスペクトルを座標順に並べて電波の強さの 等高線図を書かせると、その天体の形がわかります。上の図は 野辺山宇宙電波観測所・45m電波望遠鏡で観測した、M51という我々 から3000万光年ほど離れた渦状銀河の、一酸化炭素が出す電波の画像です。 (Nakai et al. 1994, Publications of the Astronomical Society of Japan 46, 527)

    観測データのデータベース化

     天体はいろんな波長の電磁波を出しており、それぞれ異なる観測 装置で観測されます。また観測する波長によって得られる情報が違います。
     昔は異なる情報のデータはそれぞれ独立に扱われることが多かった のですが、最近では同時に扱って解析することも多くなりました。 つまり自分が観測したデータを使って論文を書くとき、他人のデータを使う こともあるのです。今までは欲しいデータを持っている人を探し、 データを提供してくれるよう頼まなければいけませんでした。
     こういった作業を効率よく行い、観測データを有効利用するため、現在では 様々な観測所で 観測データのデータベース化 が進んでいます。研究者は自分の欲しいデータをデータベースで検索して、 簡単にロードしてくることが出来ます。このデータベース化が進むと、 自分で観測はしなくても、データベースからロードしてきたデータだけで、 論文を書くことも可能になります。