スーパーコンピュータ「京」を用いた計算で超新星爆発のニュートリノ加熱説が有望に

【概要】

 国立天文台の滝脇知也(たきわき ともや)特任助教、福岡大学の固武慶准教授、京都大学の諏訪雄大特定准教授らの研究チームは、スーパーコンピュータ「京」を用いて超新星爆発の大規模数値シミュレーションを行い、超新星爆発がニュートリノ加熱によって起こる可能性を示しました。
 超新星がどのようなメカニズムで爆発するのかは、複雑な高エネルギー現象が絡みあうため、天文学者が50年も頭を悩ませている難問です。ニュートリノ加熱説は有力ではありましたが、これまでは星の形状を完全な球と仮定するなど、現実の超新星爆発とは異なる設定のシミュレーションしか行えなかったため、それが正しいかどうかの議論を進める事ができませんでした。
 今回、スーパーコンピュータ「京」を用いることで、かつてないほどの大規模なシミュレーションが可能になりました。そのため、より現実に近い設定で超新星爆発の計算を行うことができるようになったのです。その結果、自然な仮定の下に超新星が爆発する初めての例を得ることができました。これはニュートリノ加熱説を支持する強力な証拠と言えます。



図1:シミュレーションを元に描いた超新星爆発のイメージ図
恒星の重力崩壊によって中心部には中性子星が形成される。その中性子星から放射されるニュートリノが爆発のエネルギーとなる。中性子星の周りで起こる対流により星の構造が非対称になることで、さらに爆発が促進される。
(クレジット:国立天文台)

この成果は4月18日、国際論文誌「The Astrophysical Journal」に掲載されました。また、福岡大学、京都大学よりプレスリリースされました。
福岡大学によるプレスリリースのページ
京都大学によるプレスリリースのページ (4/25 追記)


【背景】

巨星の最期と超新星爆発
 恒星は中心部で核融合反応を行い、その熱エネルギーによって、自らが重力で収縮する重力崩壊を防いでいます。超新星爆発を起こすような太陽のおよそ10倍以上の星は、晩年になると鉄の核を持った赤色巨星に進化します。鉄はあらゆる元素の中で最も安定な物質であるため、それ以上、核融合を進めることができません。赤色巨星の内部のような高温領域では、核融合とは逆に、鉄がバラバラに壊れる反応が進み、むしろ熱エネルギーを減らしてしまいます。その結果、自分の重力を支えることができなくなり、赤色巨星の重力崩壊が始まります。
 重力崩壊が進んで中心の密度が上がると、電子が密度にしか依存しないような圧力(縮退圧)で星を支えようとします。ところが、電子がニュートリノに変わる反応も同時に効き出し、重力崩壊を止めるほどではありません(図2a)。密度が1012g/cm3に達すると、ニュートリノですら星から自由に抜け出せなくなります。これはインフレーション理論の提唱者として有名な佐藤勝彦 自然科学研究機構長が提案した現象で、現在では超新星爆発の理解に欠かせない概念となっています(図2b)。
 さらに中心の密度が上がり1014g/cm3に達すると、原子核どうしが合体した半径10km程度の高密度な“星”ができます。これが中性子星です。そこでは中性子間に働く核力の反発のせいで圧力が急激に高くなり、外側から落ちてくる鉄が中性子星の表面で跳ね返されることで衝撃波が発生します(図2c)。その爆発の波は150kmから200kmほど順調に進んだのち、止まってしまいます。鉄が衝撃波によって高温になると陽子と中性子に分解され、非常に大きなエネルギーが失われるからです(図2d)。
 ニュートリノは、加熱反応と冷却反応を起こすことができます。このうち、一度は勢いを失った衝撃波をニュートリノで加熱させ、復活させるのがニュートリノ加熱説です。



図2:大質量星の重力崩壊の模式図
a、b、c、dの順に時間が経過し、中心密度が高くなる。「ν」はニュートリノを表す。
(クレジット:国立天文台)

超新星爆発シミュレーション
 ニュートリノ加熱説は提案されて50年ほど経ちましたが、正しいかどうかまだわかっておらず、天文学・天体物理学の重大問題の1つです。このような非常に複雑な現象を取り扱うためにはスーパーコンピュータの力が必要になりますが、これまでの計算機では自然な仮定で計算することができませんでした。たとえば、計算量を大幅に減らすため、本来は縦、横、奥行の3次元空間で計算しなければならないところを、星の形状を丸い球だと仮定して1次元に抑えて計算していました。1次元の計算量がNだとすれば、3次元の計算量はN3になるので、N=100であれば1次元と3次元では1万倍の違いがあります。
 2000年代前半、1次元の仮定で計算を進めていましたが、どうしてもニュートリノ加熱説では超新星爆発を起こすことができませんでした。計算機の能力が向上した2000年代後半、星が回転楕円体のような形状をしていると仮定する2次元の計算を行えるようになりました。その結果、爆発するモデルが発見されました。1次元では起こらない対流がニュートリノの加熱を増幅するからです。ただし、2次元の計算はやはり自然とは異なった仮定であるため、3次元計算による研究が待たれていました。


【研究手法】

 超新星爆発シミュレーション研究では、1次元から3次元へと自然な仮定に近づけることのほかに、2つの要素が必要となります。
  (1) 星の中心からのニュートリノ輸送を考え、ニュートリノのエネルギーごとに反応率を計算する。
  (2) 十分な空間解像度で、対流などの影響を取り入れる。
これまで(1)だけ、または(2)だけの計算はされてきました。しかし、2つとも考慮したうえで超新星爆発の証拠を見つけたのは、今回が初めてです。
 1つ目の計算については、2009年にバーゼル大学のリーベンデルファー博士がある近似法を開発しました。一方、福岡大学の固武慶 准教授は、2次元の流体計算手法を開発していました。2010年、京都大学の諏訪雄大 特定准教授が、固武准教授の手法にリーベンデルファー博士の近似法を組み入れました。それにより、少ない計算量で信頼のおけるニュートリノ輸送の計算ができるようになりました。国立天文台の滝脇知也 特任助教は、2011年にこの計算法を3次元計算に適用しました。しかし、当時のスーパーコンピュータでは十分な空間解像度が確保できませんでした。そこで今回、スーパーコンピュータ「京」を使い、2011年当時に比べて20倍の計算量でシミュレーションした結果、爆発の証拠を見つけることに成功しました。研究チームはさらに、「京」全能力の20分の1を2カ月連続して使用するという大規模な計算を行い、やはり爆発の証拠である衝撃波の復活を確かめることができました。


【結果】

 超新星爆発の様子は「エントロピー」という量を用いるとわかりやすく示すことができます。エントロピーは温度が高く密度が低いところ、つまり爆発的に膨張しているところで大きくなります。図3はエントロピーの大きさを緑色(小)から赤色(大)で表したもので、赤い部分がより大きな爆発が起きているところです。
 図3aは衝撃波が止まった時のものです。衝撃波はほぼ球形をしていますが、表面にはわずかに凹凸があります(注1)。この凹凸は次第に大きくなり、衝撃波の内側はだんだん球対称ではなくなり、ニュートリノによる加熱によって対流が起こるようになります。これをニュートリノ駆動対流と呼びます。図3bはその対流が発達した様子で、細長い形をした高温部分が外に向かっていっています。これら対流の渦が分裂したり合体したりしながら、衝撃波の内側を大規模に撹拌します。外寄りの冷たい部分が内寄りの熱い部分と混ぜられ、全体として熱くなっていきます。少し時間が経過して図3cになると、温度が上がって黄色い部分が増えてきました。図3dでは、衝撃波の半径そのものも大きくなり、爆発の証拠とされる中心から400kmまで衝撃波が到達することが確かめられました。
 このように、ニュートリノによって加熱されることで対流が起こり、対流がさらに加熱を促進することで衝撃波が成長するというメカニズムによって、超新星が爆発する様子をスーパーコンピュータの中に作り出すことができました。



図3: 超新星爆発のもととなる衝撃波の時間発展
衝撃波ができた時を0秒として、(a)50ミリ秒後、(b)110ミリ秒後、(c)130ミリ秒後、(d)170ミリ秒後のエントロピーを可視化している。熱く密度が低い部分ほど赤く表示上段が3次元でみた衝撃波の表面、下段が3方向に切った時の断面図を表す。白い枠線の大きさは600kmを示している。「ms」はミリ秒であり、1ミリ秒=1000分の1秒である。
(クレジット:国立天文台)

 しかし、課題も残されています。今回の計算では、超新星の観測からわかる典型的な爆発エネルギーの10分の1程度の爆発しか再現できていません。また今回は、太陽の11.2倍の重さという超新星を起こす星の中では比較的軽いものについて計算しました。より重い星でも爆発の証拠が得られるのかなど、今後調べることは多くあります。今回の成果は、そうした研究のファーストステップとなるものです。
 超新星爆発は非常に複雑な過程で起こるため、スーパーコンピュータ上で爆発を再現できるのかという問題は、素粒子・原子核理論の理解が十分かどうかを試す試金石でもあります。今後、理論がより精密になり、さらに詳細なニュートリノの反応・運動を計算することで問題は解決されるのだろうと、研究チームは予想しています。ニュートリノの反応をより精密化するためには、これまでより大規模なシミュレーションをする必要があります。研究チームは、ポスト「京」などのスーパーコンピュータを用いて、より詳細な超新星爆発の理解を目指していきます。

 滝脇氏は「この研究を始めた大学院生の時には、短期間にここまで計算技術が進むとは予想していませんでした。自分は良いタイミングで研究者になったため、こうした成果を得ることができ、非常に嬉しく思っています。私たちの研究チームでは『京』の計算からさらに、計算の初期条件と爆発の形状についても調べ、実際に観測されているような非対称な形をした超新星の起源を探ろうとしています。今後の進展にもご期待ください。」と語っています。


 なお、本研究は、文部科学省HPCI戦略プログラム分野5「物質と宇宙の起源と構造」における「超新星爆発およびブラックホール誕生過程の解明」(課題番号hp120285 hp130025、課題代表者:京都大学基礎物理学研究所 教授 柴田 大)の計算資源を利用して実施したものです。

(注1) 超新星の衝撃波の中心から100km以上の部分では、内側ほど熱くて外側ほど冷たい温度分布になっています。このような構造を持つとき、衝撃波内が不安定になって表面に凹凸ができます(レイリーテイラー不安定性)。

【シミュレーションムービー】

(クレジット:滝脇知也,固武慶,諏訪雄大,国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト)


【スーパーコンピュータ「京」について】

文部科学省が推進する「革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の構築」プログラムの中核システムとして、理研と富士通が共同で開発を行い、2012年9月に共用を開始した計算速度10ペタフロップス級のスーパーコンピュータ。「京(けい)」は理研の登録商標で、10ペタ(10の16乗)を表す万進法の単位であるとともに、この漢字の本義が大きな門を表すことを踏まえ、「計算科学の新たな門」という期待も込められている。
スーパーコンピュータ「京」:独立行政法人理化学研究所 計算科学研究機構(AICS)


【論文名】

題目: A Comparison of Two- and Three-dimensional Neutrino-hydrodynamics Simulations of Core-Collapse Supernovae ( ADS, arXiv )
著者: 滝脇知也、固武慶、諏訪雄大
掲載誌: 『The Astrophysical Journal』電子版に4月18日掲載

【研究チーム】

滝脇知也 国立天文台 天文シミュレーションプロジェクト 特任助教
固武 慶 福岡大学 理学部 准教授
諏訪雄大 京都大学 基礎物理学研究所 特定准教授


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【お問い合わせ】

CfCA 広報担当
電話: 0422-34-3836 E-mail: hina_atmark_cfca.jp ( _atmark_→ @ )

【関連リンク】

福岡大学 / 福岡大学理学部物理科学科
京都大学 / 京都大学基礎物理学研究所
スーパーコンピュータ「京」:独立行政法人理化学研究所 計算科学研究機構(AICS)
HPCI戦略プログラム分野5

「星の最期を探る」計算基礎科学連系拠点(2011年 滝脇知也インタビュー記事)
「超新星爆発のかぎをにぎるニュートリノ」計算基礎科学連系拠点(2011年 固武慶インタビュー記事)
4次元デジタル宇宙プロジェクト 「超新星爆発の中心エンジン1」(本研究の計算をもとに可視化した映像コンテンツ)